第14章、浩太の決意
病院を退院して一週間ほどしたある日、浩太はかかしに今後の事について相談を持ちかけた。
「かかしさん、この前お父さんが転校のこと勧めてくれたけれど、それじゃだめなんかじゃないかと思うんだ。
それだとただ逃げるだけになるんじゃないかって」
「浩太、それでもいいんじゃないのか。
逃げるが勝ちってこともあるぞ」
「うん、確かにそうだけどそれだと逃げてばかりでまた同じ事があったら逃げなければいけなくなるよ、それじゃいつまでたっても前に進めないよ。
だから僕強くなりたいんだ」
かかしはすこし考えて答えた。
「強くなりたい?
たとえば、ブルースリーやジャッキーチェーンみたいに」
浩太は半分吹き出し笑いしながら、
「なにそれ、古すぎてなんの事だか解らないよ。だいたい誰だよ、ブルースリーとかジャキーなんとかって」
「ジャキーなんとかじゃなくて、ジャッキーチェーンだよ、ジャッキーチェーン!。
カンフー映画知らないの?」
「知らないよ。
だいたいなんでかかしさんがそんな事しっているの」
「うーん、なぜだろう、遠い昔の記憶のような、でも、そもそも、オイラかかしなんで、そんな記憶なんか無いはずなんだけどな」
「君ってつくずく不思議だよね。
そもそもかかしのさんの存在自体不思議なんだけど、僕でも知らないような事けっこう知っているもんあ、古い事限定だけど。
そうそう、話がそれる所だったじゃないか。
別に喧嘩に強くなりたいって訳じゃないんだよ。
なんていったらいいんだろう。
どんな困難にも負けない勇気と精神力みたいなものが欲しいんだ。
そしてその力でいじめやいろんな事で悩んでいる人の力になってあげたいんだ。
そう、今のかかしさんみたいにね」
かかしはその言葉がむずがゆく、嬉しいやら恥ずかしいやらで返す言葉がなかった。
とにかく今は、自分の存在が浩太の生きる支えなっているということが、実感出来できとても嬉しかった。
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そのころ一階では、二人で浩太の事について話しをしていた。
「お父さん、浩太のことなんだけどちょっと気になることがあるの。
近頃、一人でいることが多いせいかあの子一人ごとが多いのよ。
まるで誰かと話しているみたいに」
「そうか、お母さんも、気がついていたんだな。
実は私もその事が気なって知り合いに精神科のカウンセラーがいて相談してみたんだ。
そいつの考えでは、おそらく精神的に今の自分と向き合う為に、心の中で架空の誰かを創って自問自答を繰り返しているのではないかと言うんだ。
自分を傷つける行為、自傷行為と言うらしいんだけど、それがなければ大丈夫だそうだ。
なにより大事なのは、すべてを受け止めてやることだそうだ。
学校の事もあるし一度話してみるか。
浩太を呼んでくれ」
「分かったわ。
浩太、話しがあるから降りていらっしゃい」
「お母さんがよんでいる。
降りてみよう。
なあに、お母さん」
「降りてきたか。
浩太、まあそこにすわれ」
お父さんは浩太をフワフワしたソファーに座らせると、やんわりと話しを始めた。
「学校の事だけど、転校の事考えてくれたか」
「うん、ちょうどその事で今、僕の友達とも話しをしてたんだ」
「ん、友達?」
浩太は、かかしとの不思議な出会いの事や、いま心の中にいる事などを、思い切って話てみた。
父親ははすこし戸惑いながら、
「そうか、でも、相談したい事があれば、お父さんとお母さんにも相談してほしいな」
「うん、ごめんなさい。
今度からちゃんと相談するよ。
それで転校の事だけど、今の学校で頑張ることにしたよ。
そうでないとただ逃げるだけのようがするから」
「浩太、逃げてもいいんじゃないのか。
逃げるが勝ちってこともあるぞ」
父親が、かかしと同じ事をいうので、浩太はきゅうにおかしくなって、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
父親はなぜ浩太が急に吹きだしたのか理解できず聞いてみた。
「なんだい急に笑って」
「ごめんねお父さん。
実はかかしさんからも同じこと言われて、それで急におかしくなって、
かかしさんにも言ったんだけど、それだと同じ事があったら、また逃げなければいけなくなるようでいやなんだ。
そんなんじゃ、いつまでたっても強くなれないから。
僕強くなりたいんだ。
強くなりたいっていっても、ブルースリーやジャッキーチェーンみたいなことではないよ」
「おっ、よく知っていたな。
そういえば、死んだ兄きもカンフー映画が好きで、二人でよく見てたよな。
それでどのように強くなりたいんだ」
「うん、僕みたいに、いじめられたりいろんなことで悩んでいる人を、助けることが出来るようになりたいんだ。
だから、精神的というかなんというか、よくわからないけど、そんな感じで強くなりたいんだ」
「そうか、強くなったな」
「まだなにも強くなってないのに強くなったってどういうこと?」
「そうだな、そんなふうに考えることが出来るようになったことだけでも、強くなったってことだ。
おっ、もうこんな時間だ。
今日はもう遅いから寝なさい」
「うん、お休みなさい。
それからたった今思ったんだけど、僕、明日から学校に行ってみようと思うんだ」
父親はすこし心配そうに答えた。
「そうか、大丈夫なのか、無理しなくていいぞ」
浩太はしばらく考えて
「うん大丈夫だよ。
かかしさんもついているし」
「そうか、じゃあおやすみ」
浩太は自分の部屋に戻ると、明日の事を考えながらベットのなかにもぐりこんでいった。
父親は二階にあがっていく浩太の背中を見送ると
「心配しなくて大丈夫のようだな。
こんな時兄貴ならどうするのかな。
いまの浩太を見ていると、浩太の育て方間違っていなかったって、思っていいのかな。
不良にでもなったら、死んだ兄貴に顔向け出来ないからな。
でも死んだ兄貴に生き写しだな、兄貴も子供の頃いじめられて、今の浩太のような事を言って学校を卒業後、カウンセラーの道に進んだんだ。
しかし、かかしの話しはちょっとびっくりしたな」
「いやだ、お父さんたら、あの話信じたんですか」
「信じてあげようじゃないか。
もちろん空想だろうけど、すてきな話しじゃないか」
「はい、はい、信じる事にしましょう。
じゃあ、そういうことで私達も寝る事にしましょうか。
お休みなさい」
「お休みなさい」
次回、第15章、新しい朝
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