第5章、かかしの怒り

1年後、秋になり稲に実が付き始めたころ、かかしの私はこのカビ臭い蔵から

ようやく外の世界へと戻ることができた。


相変わらず、カラスとスズメの攻防と楽しげに学校に通う子供達の姿と、みんなが

通る道をわがもの顔で歩いてくる、あの忌々しい少年達の姿はあるのだが、

いじめられていたあの少年の姿だけはどうしても見つけることが出来なかった。


(どうしたのかな?)


(病気でもなったのかな?)


オイラは、心配で心配でいてもたってもいられなかった。

くそっ、こんな時動く事が出来たなら、話すことができたなら、と考えるがその願いは叶うはずもなかった。


その時たまたま通りかかった忌々しい数人の少年達がなにやら話しはじめた。

「浩太のやつ、近頃学校に来もしなくなったな!やつがいねーから退屈じゃねー」


「ばーか、おめーがあんまし、けりばっか入れるからじゃねえのか!」


「おめーだって正義の鉄拳とかいって、グーパンチいれてたじゃねえか!」


「どちらにしても暇つぶしに奴がいねーとおもしろくねーなー!」


「どうだ、いっそのことあいつの家までいって浩太のやつを上手く引っ張り出した

やつに皆でハンバーガーおごるっていうのはどうだ。

そのまま浩太を餌になにか面白いゲームでもしようじゃねえか」


「いいねー、それー、そうすんべ、そうすんべ」


彼らは一斉に方向転換して先を争うようにして走り去って行った。


かかしは思った。


(彼の名前、浩太というのか。

やはりいじめられていたのだな。

それで学校に行けなくなったのだな)


そう考えていると、今度は彼らとは違う子たちが小声で話し始めた。


「浩太君可哀そうに、とんでもない奴らに目を付けられたな」


「そうだな、でも関わらない方がいいよ、いつ奴らの標的にされるか解らないから

僕のクラスの健二君、ちょっとローカで彼らの前を横切っただけで邪魔だって因縁

つけられて蹴りを入れられてたよ」


「そうだな、触らぬ神に祟りなし、だな」


そんな話しをしながらそそくさと通りすぎていった。


その言葉をきいたかかしは心がはりさけそうになった。


(なんだよ、おめーらそれでも人間かよ。

情けねー。

そんなこと考えるお前らこそ、いじめっことおなじだぞ)


かかしは今までにない怒りが、心の底からわいてくるのがはっきりと感じられた。

そして、こんな危機的状態でも何も出来ない自分に怒りさえ覚えた。


次回、第6章、少年「今井 浩太」


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