第3話

僕は車の中で、押し入れの中で触った女の人のような股の感触を思い出していた。

身震いしたあと足がガタガタ震えてきた。


“ お母さんに話した方がいいのかな”


ヘッドライトをつけ車はゆっくりと墓地を通り抜けた。なんだか火の玉でもついてきてるような寒気がした。雑木林の角を曲がったところで、車は竹を踏んで左右に大きくぶれた。

「あー!」

とお母さんがさけんだ。

「…お母さん…大丈夫?」

「今…なんか通らなかった?…。」

「…なんだよ お母さん…やだよ」


車はピタリと止まった。

どしゃ降りの雨は竹をユッサユッサと揺らして、時折『バラバラバラッ』と、激しい雨粒が車のルーフに落ち、すぐに『ガンガン』と大きな音がした。


すると、運転席の窓ガラスをドンドンと叩く音がした。


“お化けだ”


「うわーっ」

僕は頭をかかえてしゃがみこんだ。


「奥さん、これ…たてなんだが…いらんかね」お化けが何かしゃべった…


お母さんは車の外へ出た。


“ダメだよ出ちゃ…お母さん”


「あら、いいん…おいし…ね。…ですか?」

「いいよ~たてや…あくはねえ…焼いて食ったらうまいど」


僕は怖くて顔をあげれなかった。焼いて食う?ってなんだ。


それから、後ろのトランクを開けると「ドサッ」と何かを積みこんだ。

お母さんは急いでハンドルを握り車は走りだした。


“良かった。お母さん無事で”


そっと後ろをみると、腰の曲がった小さいお化けは肥料袋を下げ、鍬を担いで雨の中に消えていった

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