事情聴取

事情聴取

　平成二十八年は某国民的アイドルグループが解散するということで世を騒がせた年である。

　その年の五月二十八日、寺崎美穂は、同棲中の恋人である塚本大樹に対して殺人、また死体遺棄をしたとされ、新潟市中で逮捕された。彼女の逃走劇はわずか三日で終わった。

　警察の取り調べでは、彼女は殺人の動機に対して、ついカッとなって殺してしまったと話しており、具体的な内容については一切話をしなかった。

　これについて、彼女は何かを隠そうとしたわけではない。実際に彼女は殺人をした時間の前後、何をしていたか覚えていないのである。しかし、彼女の中で殺人をした自覚はハッキリと存在し、さらに、彼女自身の意思で死体遺棄は行ったため、無実を訴えることはなかった。

　では、なぜ彼女が殺人容疑で逮捕されたか。

　理由はあまりにも簡潔である。市内にあるコンビニ、マンションの駐車場、エレベータの防犯カメラを確認すると、塚本大樹を殺せる状況にあったのは彼女だけだったからである。塚本大樹は彼女のマンションの自室で殺されたのだ。

　警察は彼女の殺人の動機を、周囲の聞き込みから、別れ話などの痴情のもつれによるものと短絡的に判断した。

　事実、寺崎美穂が殺人をした理由は、些細な喧嘩から発展した別れ話だった。つまり警察の判断通りだったのである。また、喧嘩の内容は、どちらが酒のつまみをコンビニへ買いにいくか、という本当につまらないものであった。寺崎美穂や、塚本大樹の人生についてはこれ以上記載しない。

　しかし、警察は死体遺棄について奇妙な話を彼女から聞く。

　彼女曰く、「耳に追われていた」とのこと。