生徒会ティータイム

 5時限目が終わると、生徒達の多くは速やかにギルドへと向かう。


「ちょっと遅くなっちゃったねー」


「近道を使う?」


「うん」


 人々の流れに逆らい、生徒会室の方向へ歩いていたミリカとユリナは、人気の少ない廊下で何人かが揉めている場面に出くわした。


 いじめでもない不良同士の喧嘩だったら、放っておこうというのが2人の一致した見解。その場合は気付かれぬように迂回して生徒会室へ向かおうと思っていた。しかしそれは喧嘩でもなければ、2人もよく知る人物がそこで一方的に追い詰められているではないか。


 行き場の無くなった背中を壁に預け、頭部の耳は元気無く垂れ下がり、ただでさえ小さな身長がさらに縮まって見える。


 3人の男達がマリに言い寄り、そのうちの一人が壁に右手をついてマリの逃げ道を塞いでいる状態。いわゆる壁ドンというやつだが、恋愛小説などでよく見かけるような胸キュンな方の壁ドンではない事は、俯いたマリの表情を見れば明らかだった。


「ちょっと、何してるの!?」


 考えるより先に駆け出し、マリと男達の間に割って入る。


 大丈夫かと問えば、2人の顔をみて安心したマリは泣きそうな顔で頷いた。目には光が戻り、項垂れていた耳もふわっと元気を取り戻したが、なおも男達に怯えて震える体を痛ましく思い、ミリカは怒りを険しい表情に込めて背後を振り返る。


 話をしていただけだと、3人のうちの一人が傲慢な態度で言った。


「話?ただのお喋りをしてるようには見えなかったけど」


「見間違いだよ。一緒にお茶でもしないかって誘ってただけだ。そうだよな?」


 白々しく笑いながら聞くが、マリは俯いて答えない。


「嫌がってるじゃない。女の子を無理やり連れて行こうとするなんて最低よ」


 ミリカはマリを庇うように立ち、ユリナも前へ出る。


 男は苛立ちを隠さなくなってきた。


「お前転入生だろう?この学園のルールをまだ知らないんだな」


「ルール?」


「俺たちが来いって言ったら来る、やれと言ったらやる。断ればここでの居場所はない。ゲーリーさんに逆らう奴はこの学園にはいられない。そういう事だ」


 どうりで、従わない者などいないというような態度にも納得がいく。この男達はゲーリーの手下というわけだ。よく見れば戦闘クラスの際にまわりにちょこまかと付き従っていた連中と顔が一致する。


「くっだらないルール。何それ、あんた達が勝手に作っただけじゃない。そんなものに頼ってまで、まわりに構ってもらって虚しくならない?」


「何だと?」


「長いものには巻かれろ精神なのか知らないけど、それで自分が強くなった気でいるなら大きな勘違いよ。あんた達はただ、優しいみんなに相手をして貰ってるだけ。それに、自分の弱さを隠すために恐怖や暴力で人を支配するような玉無しに取り入るなんて、自分が惨めにならない?そんな事してたらこの先もろくな仲間に恵まれないでしょうね、可哀想に」


「ミリカ」


 後ろから制止の声が掛かったが、もう遅い。ミリカの挑発に3人は分かりやすく顔色を変えた。


「俺達だけならいざ知らず、ゲーリーさんまで侮辱するとはいい度胸だ。一回痛い目見ないと分からねぇみたいだな」


「中身が空っぽな人ほど陳腐な台詞しか言えないって知ってる?」


 反射的に男3人が一斉に武器を構えた。放課後のギルド活動の時間帯。全員が防具と武器を装備しており、このままでは廊下で戦闘が始まる。


 マリに「カレン先輩を呼んできて」と耳打ちをして逃がそうとするも、彼女は激しく首を振ってこの場を離れようとはしなかった。


「もういいのミリカちゃん。2人を巻き込みたくない……私から離れて」


 そういうわけにはいかないと説得するが、押し問答が続く。普段は優しいが、優しすぎる故に自己犠牲と頑固を合わせて少しばかり拗らせた性格なのだと知り、そんな彼女に段々とやり場のない気持ちを抱えてしまう自分にも嫌気がさした。


 迫って来る男達に対し、ユリナがとうとう剣を構えて立ちはだかった時、自分達がやって来た方角から、何やら穏やかではない声と縺れるような足音が徐々に近づいて来るのを聞く。


「──して……離してッ!!」


 曲がり角から現れたのは、熊のような巨体をしたゲーリー。彼に腕を折れんばかりに掴まれ引き摺られているのは、


「シェーネル……!」


「ハハッ!とうとう見つけた!!おい、お前ら!例の人魚を捕まえた。屋上の小塔でおこぼれをくれてやってもいいぞ!グズグズしてねぇでさっさとついて来やがれ!!あぁ?何してる」


「シェーネルを離して!!」


「季節外れの転入生ってのはてめーか。人間なら見逃してやるぜ、とっととこの場から消え失せろ」


「失せるのはあんたの方よ。一体どういうつもり?」


「どういうつもりだと?それはこっちが聞きたい。人間のくせにこの化け物を庇う気か」


「化け物なんかじゃない。ゲーリー、人間以外の種族に乱暴をするのはどうして?この国には種族の隔りなんて無いはず。どうしてそこまで目の敵にするの!」


 ゲーリーは下劣極まりない表情を浮かべ、掴んでいた腕をこれ見よがしにギリギリと捻じ上げる。シェーネルの顔が苦痛に歪み、ユリナが声を上げた。


「やめて!」


「化け物は化け物らしく謙虚に息を潜めて生きてりゃいいのによ。顔を上げて堂々と外を歩けるのは人間からの情けと施しのおかげだっつうのが分かってねーよな!」


 ゲーリーの言葉に勢い付いた男達が湧く。


「俺達が一番優れた人種だ。ほら、劣勢種族は人間様に跪け」


「お前も俺たちと来るんだよ!」


 マリに手が伸ばされる。


「いや……っ」


「マリ!!」


 走ろうとしたシェーネルの腕を引き戻すのはゲーリー。


「おっと。また逃すわけには行かねーからな。楽しみだなぁ?今から俺が唾つけてやるからよ」


「この……クソ野郎……!」


 ボソッと吐いた言葉を聞いたゲーリーがシェーネルの腹に蹴りを入れた。床に倒れて蹲る彼女を見た瞬間、腹の中に何かひやりとしたものが落ち、殺意にも似た衝動が芽生えた。


 ひどい男。許さない。彼女は見つからないように隠れていたというのに、自分が無理に授業に出るように言ったから。自分のせいで怪我をさせてしまう。許さない。許さない。誰を?自分のせいだ。自分のせい。許さない。誰を?


「何……この呪文」


 シェーネルですら聞いたことのない呪文に、手下の男達は浮き足立つ。望むところだと、ゲーリーは大剣を鞘から抜いてミリカに構えた。


 口元でブツブツと発される言葉に魔力が反応し、足元には魔法陣が発現する。マナから熱へ、熱から炎へ、炎から……


「お前のような人間がいるから」


 誰にも聞こえない声で唸ったそれはユリナの耳には届いていた。真っ直ぐな彼女のねじ曲がった怒りが、道に迷って泣いているのを感じていた。


「へへっ、ぶっ潰してやる!!」


 ゲーリーは雄叫びを上げながら助走をつけてミリカに斬りかかり、ミリカは詠唱が完了した魔法をゲーリー目掛けて発動するはずだった。


 一瞬の後に光景は変わり、それぞれ鎖束捕縛バインド・チェイン詠唱妨害カーズ・キャンセルの魔法を受け、ゲーリーは身体を拘束されて床に倒れ込み、ミリカは術式を掻き消され、反動と負荷によって思わず床に座り込む。


「校内での戦闘行為は禁止です」


 2つの弱化魔法を同時に放ち、戦闘を阻止した人物。マリヤがヒール靴のかかとを鳴らしながら、2人の前へ立った。


「先生……」


「ゲーリー・ウトロクド。いくらお父様が庇ってくれるとはいえ、手に余る数の事件を起こせば揉み消しも間に合わなくなる。今までに起こした事件はいくつ?街の人の目もあるわ。あなたは色んな意味で有名だから」


 そう言うとマリヤは指を鳴らして魔法を解除した。拘束を解かれたゲーリーは、最初こそマリヤを睨みつけたが、彼女の鋭い眼光に射竦められ、最終的には捨て台詞を吐いて逃げて行く。その先からこちらへ向かって歩いてくるカレンの姿に全員が気付いたのがその時だった。


 カチ。


 剣を鞘に収める音が響く。この場の誰も納刀などしていない、カレンが腰に携えた双剣に手を添えている以外は。


「……えっ」


「わぁ」


「ぎゃああああッ!!!」


「ゲ、ゲーリーさん!!大丈夫ですかあああ」


「服が!服があああ」


「マリちゃん!見ちゃダメーーーッ!!」


 気付いたら裸でした状態のゲーリー。その辺に散らばる制服の切れ端をかき集める手下達を「馬鹿野郎そんな事して何になる」と怒鳴りつけるも、羞恥のあまり耳まで赤く染まる。


 ただ下級生とすれ違っただけですが。とでも言いたげな涼しい表情で、カレンはそのまま悠然と歩き去り、ミリカはマリに飛び付いて両手で目隠し。最初は笑いを堪えていたシェーネルも、彼等があたふたと尻尾を巻いて逃げ去る頃にはひたすら爆笑するばかりだった。


「すごい撃退方法だった……」


「はわわわ」


 指の隙間から見えていたらしいマリが赤面して手をパタパタさせる。


「先生、ありがとうございます」


「ユリナ。貴方という人がついていながら、どうしてこうなったのかしら。危うく大騒ぎになるところだった」


「すみませんでした」


「違います先生!私が挑発しただけなんで、むしろユリナは被害者です!」


「違います先生!2人は私を助けようとしてくれたんです!2人ともありがとう、私のせいでごめんね……!」


「ミリカ。貴方のその正義感はご立派だけれど、問題を起こせば私の顔に泥を塗る事になるし、戦闘で壊した備品の弁償は誰がするの?」


 あ、やばい。説教が始まった。


「彼等と交戦しても、どうせ揉み消されて自分だけが処分を受けるという事くらい念頭になかった?話は変わるけれど貴方は授業に付いて行けてない様子が見られるわね、居眠りする日もある。私の授業だけ真面目に受けていても他の先生方からの評価は私に筒抜けです。特に理数系の成績が思わしくないわね。夜中に部屋を抜け出して遊んでる暇があるなら、自習のひとつでもしたらどう?」


「ご……ごめんなさい……」


 決して声を荒げているわけではないのに迫力があり、彼女の前では、何もかもが見透かされているような気持ちになる。これにはミリカも、萎れた花のようにただしょんぼりとなって謝ることしかできなくなった。


 曲がり角からまた人影。今度は誰だ。


「おや皆さん。おはようございます」


「「エアート先輩!」」


 眼鏡の奥はいつも通りの優しい微笑み。マリは単純にエアートに会えたのが嬉しく、ミリカはただただマリヤの説教から逃れたい一心で、2人でエアートに纏わりつく。ユリナをチラッと見ると、シェーネルに手を貸しているようだ。


「その様子を見るに、どうやら一悶着あったようですね」


「そうなんです!そうなんですよ!そっちにクソ野郎達が行きましたよね?エアート先輩もすれ違いましたか?」


「ええ。服を切り取られていたので、またカレンの仕業かと思って丁重に謝罪を申し上げておきましたが、何故か逃げられてしまいました。私が何か失礼をしてしまったのでしょうか?」


 果たして皮肉なのか本気でそう言っているのか。


 その光景を想像したら、どうにも可笑しくなってしまい、マリと2人でクスクス笑い合った。


「お手柔らかにお願いしますね」


 そう言ったのはマリヤに対して。おそらくミリカへの説教も聞こえていたのだ。


 マリヤが小さな溜息とともに「早く生徒会室へ集合なさい。私は遅れるわ」との言葉を残してその場を去ると、エアートは4人を振り返った。


「さぁ、行きましょうか。今頃皆さん揃っているはずですよ」


 既に来ていたリオ、アルト、ユーファス、カレンは席につき、セラカも珍しく起きている。ミリカは生徒会室に着くとまずカレンに抱き付いた。


「カレン先輩っ!やってくれましたね!もう最高、大好きっ!!」


 笑うカレンの脇で、事情を知らないリオ達はなんだなんだと頭に疑問符を浮かべるばかり。たった今起きた事件とその顛末について話して聞かせると全員が笑った。普段は笑わないアルトまでもが。


「ぎゃははは!!それは確かに最高!カレン先輩さすがっす!」


「笑い過ぎだセラカ。さすがに可愛い後輩が痛めつけられたとあっては黙っちゃいられないだろう?でも、少々気の毒なことをしたかな」


「全然気の毒じゃないですってば!シェーネルなんて腹抱えてましたよ」


「あいつが今までしてきた事に比べたら罰とも言えない罰だけど、本当にいい気味だったわ。あんなに笑ったのは久しぶりね」


「その笑顔が見られたならやった甲斐があったというもの。今日は授業にも出席したんだろ?これからはもう大丈夫なのか?」


「まぁ、ミリカがうるさいですし」


 蹴られた腹に治癒ヒールを施してもらいながらシェーネルが言ったのを聞いて、ミリカの中に生まれていた罪悪感が再び顔を出す。


 自分がしつこく説得をしたせいで、シェーネルに怪我をさせてしまった。


 神妙な顔でそう言うミリカを、けれど彼女は笑い飛ばした。


「なんだ。それでさっき様子がおかしかったのね。気にする事なんかないのに馬鹿ね。私がサボらなくなったのは自分でそうしようと思ったからよ。だいたい私が、この私が!誰かに命令されて嫌々やると思う?ふふん」


「そうだぜ、こいつは嫌な時は絶対言うこと聞かないかならな」


「そうそう。あたし達がドライなわけじゃないよ~シェーネルは言っても聞かないから!」


「え、なんか、あれだね。シェーネルってゲーリーの件が無くても一人ぼっちだったんじゃ……」


 ミリカの脳天に氷塊が落ちた。


「痛!?!?なに今の!?」


「皆さん何を飲みますか?シェーネルさんが苺ジャムを作って来てくれましたから、お菓子の幅も広がりますね」


「ありがとうございます先輩。私は紅茶でお願いします」


「あたしはミルク!いちごミルクって美味しいよね」


「はっ!その発想はなかった!じゃあ私もいちごミルク!」


「紅茶に入れても美味いんだよな。俺は紅茶で」


「俺とユーファスはいつもの珈琲でお願いします」


「私も珈琲かな」


「誰が何だか分かりませんね」


 困ったように笑うエアートを、記憶力に自信のあるミリカが手伝うことにする。それからもう一人。


「先輩、私も手伝いますよ」


「ありがとうございます、シェーネルさん」


 マリヤ不在のまま始まったミーティングは、来月に迫った実戦テストに向けての調整と、遠征届の処理。それとユリナからのとある報告だった。


「ジャッカロープって、例の遠い国にいるやつ?」


 内容が気になったミリカは途中で給湯室を出てくる。


「ミモレザ公国周辺の森で生息する幻獣だな。マリの故郷だ」


「そうなの?マリちゃん」


「うん。私も何度か見たことがあるけど、ジャッカロープがミモレザ公国以外の国にいるのはあり得ない事なの。どうしてレイ王国で目撃情報があるんだろう」


「確かに不審だな。でもどうしてその情報をユリナが?」


「訳あって、とある病気に効く薬を探していたもので」


 紅茶を淹れていたシェーネルの耳がピクッと動いた。


「なるほど、でもそれが本当にジャッカロープなら、そのうち警察隊が動く。国交に影響するかもしれない事案ならさすがに軍が何か行動を起こすだろう。あと……アルトは何か報告ないか?」


「東の森の洞窟から魔物が出てくる件は俺とユーファスで連日退治してますが、減るどころか加速してます」


「なにかから追われてるみたいに出てくるんですけど、洞窟で何があったんですかね?できれば生徒会で確かめたいんですけど」


 アルトとユーファスは基本的には常に2人で行動している様子だった。東の森の洞窟といえばザストの生息地。あのザストがわんさか湧いているということだ。


「一年生から報告は?」


「あ、あの……」


 マリが控えめに手をあげる


「西区のジュリアン君からの依頼で、迷子の子犬を探しているんですが、どなたか見掛けた方はいませんか?白い毛並みで、黒い目の」


「お前まだ迷子探しばかり受けてんのかよ」


 リオが呆れた様子で言った。


「別に探し物の依頼を受けるのが悪いとは言わないけどさ、ここは戦闘ギルドなんだから」


「でも私ったら、いつもみんなの足を引っ張っちゃうから……」


「もう、マリちゃんったらまたそんな事言って」


「そうだよ、仮にもあたしと同じ獣人族なんだから、もっとシャキッとせんかい!ほら!」


 ユリナも何か言いたそうにしているが、マリを一瞥しただけだ。


「マリはエアートみたいな聖職者クレリックになりたいんだろう?」


「! はいっ、なりたいです!」


 カレンの質問にマリが目を輝かせた時、ちょうどエアートとシェーネルが飲み物を運んできた。シェーネルは給湯室にも聞こえていた話題について、マリに行った。


「あんまり自分を卑下しても良い事ないわよ。私は打たれ弱いから、盾や防御魔法で守ってくれるリオとマリを頼りにしてるんだからね」


「シェーネルちゃん……」


「私を目標として頂けるのは光栄ですが、私とマリさんとでは得手不得手が違いますからね。彼女にも戦闘面での長所がたくさんありますよ」


「こいつにいい所?本当にあるんすかそんなの」


 マリを励ましたいのか貶したいのか分からないリオの頭に氷塊が直撃する。


「この珈琲美味い!」


 ユーファスが声を上げた。アルトも心なしか感動しているような。


 頭を押さえて悶絶していたリオ含め全員が手元に出されたものを一口含んでパッと顔を輝かせ、口々に2人の腕を褒め称えた。


「シェーネルにこんな特技があったなんて!」


「これくらい、私にかかれば当然よ」


「先輩、さすがです!やっぱり先輩は私の憧れです!」


「ありがとうございます」


「そろそろ生徒会に一年生が加わって3ヶ月が経つし、当番とか決めてもいいのかもしれないな」


「いいですねカレン先輩!あたしは昼寝係で!」


「却下だセラカ」


 セラカにツッコミが殺到する頃、ノックされた扉が開き、アーミアが顔を出した。その後にはロークスの姿も見え、ミリカはゲッと思った。


「おつかれ様です。皆さんお揃いですね!それにとっても良い香り」


「スコーンの苺ジャムのせ。シナモンクッキーもあるわよ」


「アーミアさんもいかがですか?ロ、ロークス先生も、よかったら」


「結構だ」


「あ、私は報告書を届けに来ただけですので……」


「まぁまぁ、そんな固いこと言わずに~」


「人魚のよしみで付き合えよアーミア」


 セラカ達によって引き摺り込まれるようにして輪に入った2人。


「ちょっと待て、今はティータイムじゃないぞ」


 待ったをかけたカレンに、ミリカがじゃれ付く。


「いいじゃないですか~、放課後のティータイム。みんなでお茶会、賛成のひとー!」


「「「はーい!」」」


 カレン、アルト以外の全員が手を挙げた。


「ユリナまで手を挙げてる!さすがユリナ、分かってる~!」


「相変わらず仏頂面だけど話の分かる女だ~、このこの!」


「やめてよセラカ、苦しい」


「この苺ジャム、とっても美味しいですね!スコーンに合います」


「私が作ったのよ」


「私も手伝ったんだから!!」


 あっという間に賑やかなティータイムとなった放課後。生徒会業務は一体どこへやら。


 でも、こんなに楽しそうなのだから、もう少しだけこの光景を見ているのも悪くない。そう思ったカレン。同じ事を思っていたのか、アルトと目が合い、2人で苦笑する。


 マリヤ先生が来たら何て言うだろう、怒るかな。今日は特別に自分が庇ってあげよう。かわいい生徒達の笑顔を見れば、先生もきっとこんな気持ちになるはずだから。

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