いちごジャム

 リオと別れ、2回目の任務から帰還した夜。


 帰ったはいいがアーサーから貰った大量の果物や野菜をどうしたら良いか困っていたところ、野菜は貯蔵庫へ、果物は煮詰めてジャムにしてしまおうという天才的な閃きによってミリカは鼻歌を歌いながら寮の共同キッチンへ来た。


「あ」


 大きな石の炉が三台、壁には鍋や調理器具が吊り下げられ、天井からは誰かが買っておいた干し肉やチーズがぶら下がり、香辛料は木の棚に。水瓶は床に。雑多に収納されたおやつ類は誰かの記名入り。


 そして中央にどかんと置かれたレンガの作業台には籠に入った大量の苺。それと対峙していたシェーネルは、ミリカと目が合うなり(げ。)というような顔をした。


 よもや出て行ってしまうのでは。


「あれ!シェーネルさんもジャム作り?その苺はどうしたの?」


「どうもこうも。リオに押し付けられたのよ、食べきれないからって。全く、人魚を金で釣ろうなんていい度胸してるじゃない」


 隣へ来たミリカを睨みつけるも出て行く様子はないようでホッとしつつ、たじたじな笑いでひたすら誤魔化す。


「そんな人聞きの悪い!リオが強そうだったからちょっとだけ手を貸して欲しかったといいますか……さ、さぁて、ジャムを作ろうかな……」


 両手いっぱいに抱えた苺をそのまま鍋に放り込もうとして、慌てたシェーネルに止められた。


「ちょっと!そのまま火にかける馬鹿がどこにいるのよ」


「え、違うの?」


「下処理をして30分置くのよ。ジャムの作り方も知らないの?全く……そもそもこんな夜にやるような事でもないでしょうに」


「でもシェーネルさんもやろうとしてたじゃん。ねぇ、作り方教えてくれない?せっかくだから一緒に作ろうよ!」


 返事を待たず、ニコニコしながら鍋やヘラを取り出して準備をし始めるミリカにすっかり毒気を抜かれたシェーネルが渋々といった表情で作業に取りかかる。


 といっても、苺のヘタをとって砂糖、レモン汁にしばらくつけておかなければならないのだが、たったそれだけの行程に何故かミリカは感動し、何を思ったか突然キッチンを飛び出して行く。しばらくすると数学の教材を手に戻り、苺が砂糖と馴染むまでの30分でいいからと、シェーネルに勉強の教えを乞うた。


「わ、分かりやすい!!あんなに難しかった数式が解けるようになれた!」


「……何で唐突に数学?」


「もしかしたらシェーネルさん、教えるのが上手いんじゃないかって思ったらその通りだった!私にも分かるように噛み砕いて説明してくれるから、ユリナと違って分かりやすいよ!」


「それ、本人の前で言える?」


「ううん。言えない。あはは」


 悪びれる様子もなく笑うが、おそらく彼女なりに一生懸命教えていたであろう事が伺えるだけに、その無邪気な笑顔は時に無慈悲である。


「ただのお人好しかと思えば、意外に性格の悪いところもあるのね」


「あ、心外だなー。ユリナのことは大好きだよ?可愛いし優しいし頭もいい。だって、今日は人魚の血の代わりになる材料を探してあちこち飛び回ってたんだから」


「……は?」


「ええと、今日ね……」





 リオと別れ、次は魔物退治でもしようかとユリナと2人で相談していた時のこと。


 何やら様子のおかしい依頼書が目に入った。『薬の材料が欲しい』、対象物は不明、単なる素材収集にしては高額な報酬。


「リタさん、あの依頼って薬の材料なら何でもいいって意味ですかね?」


 ミリカは空いていた窓口へ行き、馴染みのギルド職員に事情を聞く。


「いえ?聞いてもはぐらかされるのよ、詳しい事は直接話したいって。怪しいわよね?でも何度も何度も依頼しに来るからとりあえず貼るだけ貼ってみますって言って、ひとまず対応しちゃったんだけど話を聞いてアウトなやつだったらすぐ帰ってきてね、通報するから」


「はぁ……」


 依頼人は南区の簡素な住宅地に住む、くたびれた雰囲気の中年男性だった。


「頼む……!!人魚の血を……一滴でいいんだ……娘の病気を治す為に……!」


 そのような必死の形相で、今生の願いだと頼み込まれても、到底聞き入れられるものではない。


 ミリカは両手のグーを腰に当て、心を鬼にした。


「あのですね、人魚の血は法律で禁止されているんですよ?」


「分かってる!!でも頼む!レイオークのギルド学園には人魚が通っているんだろう?君の友達に人魚はいないか!?クラスに一人や二人くらい、人魚がいるはずだ、お願いだ、血を、血を貰ってきてくれ、この通り」


 男は膝から崩れ落ち、神に祈りを捧げるかのように両手を組んでミリカとユリナに懇願した。


「だから、違法なんですってば」


「人魚の体を素材として扱う行為は犯罪です。血を娘さんに飲ませれば、あなたは極刑。血を提供した人魚側も罰され、それを仲介した私達も罪に問われます。エリクシャという万能薬があるのをご存知ですか?」


「そんな金があるならとっくに買ってんだよ!」


 男が豹変した。


「何だよ、血ぐらいいいじゃないか!俺の娘が死にそうだってのに、何が保護だ、何が法律だ、俺の娘よりも人魚がそんなに大事かよ、クソ!」


 愛する子供の命を救う為の計り知れない苦労があっただろう。全てを投げ打って必死に働いて稼いでも、高額なエリクシャには手が届かず、もうどうにもならないというところまできて、本当の最後の手段として脳裏に浮かんだのが人魚の存在だったというわけだ。同情できなくもない。しかし、リオやシェーネルといった大事な仲間がいるミリカにとって『血ぐらい』という言葉は黙って聞き流せるものではなかった。


「あなたね、」


「分かりました」


 キレかけたミリカを遮って、ユリナが言う。何が分かりましたなのか。


「娘さんの病気を治せる薬があれば良いのですよね。エリクシャよりも安価に手に入る薬屋が」


「あ、あぁ」


「探します」


 この世界にはまだまだ発見されていない魔物や素材が沢山あり、それだけ新たな武器や新薬が生まれる可能性もあるということ。あわよくば特許を取得して大儲けという夢に魅せられ、数多の冒険者達が人類未踏の地へ挑みに行く。


 つまり、ユリナは男の娘の病気を治せるような新たな薬を材料から探しに行くと男に約束したという事で、それがミリカはどうしてもやる気になれなかったのだ。


 東西南北中央区のワープポートを使って、広いレイオークの街中を文字通り飛び回っての情報収集。石畳を歩くミリカの足はついに止まってしまった。


「ユリナのお人好し」


「何をそんなに怒っているの。ミリカらしくない」


「あんな人の頼みなんて聞く必要ないよ。あんな、自分の子供さえ良ければ他人なんてどうでもいいみたいな言い方……さっさと学園に帰って通報しちゃえばいいのに、なんであんな約束しちゃったの?」


「父親がああでも娘に罪はない。一人の女の子が病に苦しんでいるのは事実なのよ」


「うーん、そうだけど~……」


「何より私の目的は、ああいった人達のあいだに、人魚に頼らなくても薬は作れるという認識を広める事。法律を理由に突っぱねるだけで代替案を示さなきゃ、人魚に対する認識は変わらないわ」


 時には、ただ無感動に世界を映しているだけにも思えたアイスブルーの瞳の奥底で、消えかけていた光が静かに輝きを取り戻す。


 冷たい氷で包み隠された、燃えたぎる信念をユリナの中に見た気がした。





「っていうわけなの。私は正直、自分勝手な依頼人の事なんかどうでもいいと思ってたんだけどユリナはそうじゃなかった。優しいでしょ?いつもは無愛想だけど実は正義感が強くて……えっと、何の話してたんだっけ?」


 ユリナとは会話らしい会話どころか目すらまともに合わせた事も無かったが、あの澄ました顔で、自分以外の誰かの為だけにそんな割に合わない依頼を引き受けたのかと、水面に張った氷を割られたような心境だった。


 初日にリオに放った言葉は偽善ではなく本心からだったのだろうか。人間だからという理由だけで無意識に彼女を避けてはいなかったか。目の前にいるこのバカっぽい転入生もそうだ。彼女が、今まで散々経験してきた、纏わりつくような嫌な視線を向けてくる者達と同じ類の人間なら、あの日、校庭の木の下で自虐の言葉を吐いたシェーネルにあのような怒りを示すことはなかっただろう。


 2人しかいない空間は自然とシェーネルを冷静さのなかへ引き戻し、ここへきて、はじめてまともにミリカの顔を見てみる。セミロングの茶髪はポニーテールに纏められ、ケアはしているが多少日に焼けている毛先からは活発な性格が伺える。見上げてくる瞳は緑色。宝石のような煌めきと聡明さを含んだ眼差しは、何も考えてなさそうに見えてその実、本当は賢いのではと錯覚させられる。先程から事あるごとに「美人で背が高くて爆乳でスタイルも良くて羨ましいな~」とやたら容姿を誉めてくるようだが、そう言うミリカの見目も、なかなか悪くないように思うのだが。


「そんな正義感の強くて優しいルームメイトの教え方がダメだって?」


 シェーネルは口角の片方だけを上げる意地悪な笑みを浮かべ、作業台に肘を突いてミリカの顔を覗き込んだ。どうせだから揶揄ってやろう。


「いやいやいや!そんなふうに言ってないよ!でも頭が良すぎて教え方が高度だからよく分かんない。その点シェーネルさんの説明は分かりやすくていいよね」


「何よ、私の頭が悪いって言いたいの?」


「ち、違うよ~!そういう意味じゃなくて、何だろう、教え慣れてる……って感じ。弟か妹がいるの?」


「えぇ、いたわ。死んだけどね」


 ぎょっとしてノートから顔を上げると、別になんということはない、シェーネルの顔があった。


「ごめん」


「そういう反応はもう飽きた。人魚は大抵家族の一人や二人殺されてるぐらい珍しくないのよ。いいから次のその問題解いてみなさい」


「あのさ、人間に復讐したいって思った事はない?」


「……急に何を言い出すかと思えば。あんまり変な質問するならもう教えてあげないわよ」


「きっとこの学園に来るまでにも辛い事がたくさんあったよね?あなたの家族を死なせたのも人間でしょ?そしてこの学園にもろくじゃない人間がそこそこいる。どうしてそんなに強くいられるの?」


 人の話を聞いちゃいない。数学の存在など忘れ、体ごとこっちを向いて熱心に訊く。その熱心さを数学に向ければいいのに、妙なことを気にするものだ。


「別に私は強くなんかないけど。そうね、理由があるとするなら、『人魚を傷付けるのも人間なら、救うのもまた人間』だと知ったから。かしら」


 窓の外の暗闇に目を向けると、真っ黒なキャンパスに記憶が描かれていくかのように思い出せる。


 本来人魚は、どこの国にも属さず水辺に独自の都市を築き、自分達の身は自分達で守るという生き方をする強かな種族だった。シェーネルの故郷は南東の砂漠の中に発展したオアシス都市で、魔法の力で気温を下げ、氷と冷気のバリアを張り、誰も侵入できないように徹底された『砂氷の都市』だった。


「リオの故郷は確か『癒水の都市』だったかしら、あそこももう無くなったらしいけど。…………で、あんまり思い出したくないから手短に話すけど、ある日、私達の都市は襲撃に遭った」


 盗賊など普段は人魚の敵ではなかったが、軍隊のような人数で一斉に奇襲をかけられ、多くの人魚が狩られ、都市は壊滅。シェーネル含め生き残った人魚達は、偶然通りかかったキャラバンの人間達とともに命からがら逃げ延びた。


「うちは6人兄弟と両親を合わせて8人家族だったのが、色々あって生き残ったのは私だけ。キャラバンでの移動中とか、途中で寄った国とか最終的に逃げた先でも色々……本当に色々あった。一晩じゃ語り尽くせない程に」


 あの時、2歳下の妹が目の前で殺された時、世界中の人間が八つ裂きにされて地獄のような苦しみの果てに死ねばいいと思った。だが、生き残ったシェーネル達を助けてくれたのもまた人間であった。憎い憎くないの二択で片付けるには、ヒトは複雑で一括りに出来ない生き物なのだと知った。


 ふいに嗚咽が聞こえて、ぎょっとしたシェーネルが振り向くと、そこには鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしたミリカ。


「うわ、汚い……」


「ふ……ふぇぇぇん……」


 そのぐしゃぐしゃな泣き顔のまま抱きしめようとして来るものだから、目一杯伸ばした両手で彼女の肩を掴み、汚物を遠ざけるかように距離を開ける。


「ちょ、来ないで!私は汚いのが大嫌いなのよ!とにかくその鼻水を吹いて……え、私のハンカチ?貸すわけないでしょバカ。しかもどさくさに紛れて胸を揉もうとして来るんじゃないわよ馬鹿!あぁもう!笑ったり泣いたり忙しい人ね」


「そ゛んな゛につらい事゛があ゛っ゛た゛のに……ヒック。友達を庇って、ヒック……自分から孤立するって、なかなか出来ることじゃないよ。やっぱり、シェーネルさんは強い……」


「……なるほど、知ってたのね。全く誰に聞いたんだか」


 やや落ち着きを取り戻した様子のミリカは自分のハンカチを取り出して鼻をかむ。貸さなくてよかった。


「イツミナちゃん……彼女、シェーネルさんの事心配してた。ねぇ、お願いがあるの。また前みたいに堂々と授業に出て普通に学園生活を過ごそう?ゲーリーの事は心配しなくて大丈夫。私が何とかするから!」


「何とかするって?具体的な対策でも考えてるわけ?あいつがどういう相手か分かってるんでしょう?」


「正直、全然思い付かないけど……でも大丈夫、私が絶対守るから。シェーネルさんもイツミナちゃんも……ううん2人だけじゃない。誰にも手は出させない。絶対何とかなるよ!」


 その根拠のない自信はどこから来るのか。呆れたものだが、その笑顔を見ていると不思議と本当に何とかなるような気がしてくる。実際は何も考えてないに決まっているのに、彼女なら本当に何とかしてしまいそうで。……一緒にいるから自分も馬鹿になったのかも。


「明日の一時限目は第二ホールで戦闘クラスの授業。絶対来てね!私達待ってるから」


「はいはい。30分経ったわね、火にかけなきゃ」


 石の炉に火をつけに行くシェーネルに、犬のように小走りでついて行くミリカ。背後から呼びかけられ、その声色の変化にシェーネルは振り向いた。


「シェーネルさんあの、話してくれてありがとう」


「?」


「今日話してくれた事、心にしまって、ずっと忘れないから」


 単に頭の中がお花畑なのかと思えば、急に真剣な表情になったり、変な質問をしたりする。透き通った緑色の瞳に影が落ちて見えるのは、きっと逆光のせいだ。


「……私を呼ぶ時はいちいち『さん』を付けなくていいわ。シェーネルでいい」


 それを聞いて歓喜したミリカがシェーネルに抱きつき、危うく苺の砂糖漬けが床にぶちまけられるところだったとシェーネルから叱り飛ばされるところまでがセットである。





 コト。とテーブルに置かれた赤い瓶に笑顔を添えて「はい、お土産」とミリカ。シェーネルと一緒に作ったのだと嬉しそうに語った後、いつものようにセラカ達のところへ行こうとするが、その背中を止めるまでもなくユリナの目がキラリと光った。


 玄関の扉を開けた先にいたのはマリヤ。


「マ、マリヤ先生!?それに寮長さん!?」


「セラカには逃げられたけど、イツミナ、コピュア、ミリカ。貴方達には部屋を抜け出した日数分の寮の掃除をしていただきます」


 星が綺麗な夜空にミリカの悲鳴が吸い込まれて行く。


「よっこらせっと」


 誰にも見つからない場所。人は得てして、どんなにくまなく探したつもりでも頭上には意識が回らないものだ。


 寮の屋根の上にリオが登ってくると、シェーネルは先程作ったばかりの苺ジャム瓶をそこへ置いた。


「へぇ~、マジで作ったんだ」


「何よ、いらないの?」


「いるいる。サンキュ」


「ねぇ、今の悲鳴聞いた?ミリカのリアクション最高。みんな……すまん!あたしだけ逃げて」


 パンッと両手を合わせて、詫びのポーズをとるセラカ。


「あんたに付き合わされる犠牲者が一人増えたわねセラカ」


「こいつとルームメイトやっていけるお前もすげぇよシェーネル」


 夜でも活気のある中央区の街明かりを見下ろしながら、ぽつぽつと3人で他愛もない会話を交わす。


「じゃあ明日から授業に出るの?」


「さぁ、気分次第かしら。言っておくけど、あの子に言われたから来るわけじゃないんだからね」


「うわ、ツンデレかよ」


「やだわぁシェーネルちゃんったら素直じゃないんだから!」


 シェーネルが指をパチンと鳴らすと、どこからか降ってきた氷の塊が2人の頭を直撃し悶絶させた。


「いっ痛ぇ~……と、とにかく良かったよ、お前が授業出る気になって。俺達がいくら説得しても聞かなかったのに、どういう心境の変化だ?」


「今までの人間とはどこか違う気がする。とでも言えばいいのかしら。表情がコロコロ変わるのは見ていて飽きないわね」


「分かるよ、あいつ面白いよな?ただの平和ボケしてる人間だと思ってたけど、#こっち側__・__#からの景色も見えてる感じがするっていうか」


「ミリカ面白いよね?ノリもいいし、何やらせても新鮮な反応が返ってくるのが最高!」


「あんたの面白いは別の意味でしょうが」


 シェーネルはため息を一つつくと、そういえばと話題を変えた。


「リオはやっぱり報酬に釣られて依頼を手伝ったのね。ミリカに鎌かけてみたら当たってたわよ」


「へっ!?あっ、あいつ……クソ、口止めしときゃ良かった」


「出た~、シェーネルの説教。別にいいじゃん!金は天下の回り物ってね」


「良くない!気高き人魚があろう事か金に釣られるとは何事よ!そこに正座しなさい」


「やだね。お前のその種族に誇りを持ちすぎるとこ直せよ、そういうの生きづらくね?」


「うっさい。また氷の鉄槌が欲しい?」


「ちょ、勘弁してくれよ!セラカっ、俺を助けろ!」


「えーどうしようかな?じゃあ明日のギルドの報酬8割で」


「あんた達ねぇ」


 二度目の氷の塊は、ひと回り大きくなって再び2人の脳天に命中した。





「あー、一時限目は戦闘クラスかぁ~」


 翌日の朝の教室で、Aクラスの仲良し3人組の一人キャロットが、仲良く雑談していたのを引き裂かれる気持ちを滲ませる声で言った。


「私達、剣士ソルジャークラスは校庭ねぇ。ドトリはまた後でね~」


 アランシアが移動の準備をしながらドトリに手を振る。そこへすっ飛んできたのはミリカ。


「ドトリちゃんっ!!お願い手伝って!」


「うおっ!?ミリカちゃん、どしたの」


「シェーネル包囲大作戦だ!」


 なにやら面白そうな事を2人で企てていると知ったキャロット、アランシアの2人は顔を見合わせると、


「じゃあ、うちらは」


 ユリナの両腕を両サイドからガシッと捕獲する。


「ユリナさん包囲大作戦!」


「え?あの」


「いいねいいね~!ユリナったら戦闘クラスでも一人だし、2人でそれはもうがっちがちにホールドしちゃって行ってらっしゃい!ばいばーい!」


「らじゃ!」


「はぁ~い」


 急な展開に理解が追い付かず、されるがままに有翼人2人に連れ去られていったユリナを送り出した後、ミリカの方はといえば、無事に第二ホールに現れたシェーネルをハヤブサのような速さで捕獲する事に成功。


 2人一組になって行う訓練ではドトリと組んだが、どうにも気になってチラチラ様子を伺ってみると、シェーネルとイツミナが何か話をしているのが見える。内容は聞こえなかったが、2人の表情を見るに、何も心配することはないのだと悟った。


「良かったね。2人、仲直りできたみたいで」


「別にもともと喧嘩なんてしてなかったんだから、大丈夫に決まってるじゃない」


「あ、調子いいんだから」


「そんな事よりドトリちゃん、炎上フレアの習得はできた?走り撃ちは?」


「うぅ……や、やっぱり難しいよね。私なんて、田舎から運良く試験に合格できて上京してきただけの雑魚だし。シェーネルさんやミリカちゃんに比べたらもうぜんぜん小物だよ。エリートのみんなが羨ましい」


「そんな事ないって。ドトリちゃんに出来て私に出来ない事だってあるんだから。長所を伸ばしてこう!私がついてるから大丈夫」


「出た、ミリカちゃんの大丈夫。なんか本当に大丈夫な気がしてくるんだよな~」


 ホールに飛び交う魔法、光る魔法陣、切磋琢磨する生徒達の呪文、たまに響く笑い声や、マカロン先生の可愛くて強烈な折檻魔法と、サボっていた生徒達の阿鼻叫喚。


 今日もそんな、学園の日常風景だ。

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