ギルド学園のギルド
「魔物というのは本来、生息地域が決まっている事が多くて、そこから違う場所へ侵入してしまうと縄張り争いが始まってしまうの。すると野生動物や無害な魔物までとばっちりを受ける上に、安定した素材収集場所が失われて、回り回って人々の生活にも影響が出る」
「昨日のザストみたいな例だよね?洞窟に生息しているはずが、何かの弾みで外に出てきてしまった、そうすると生態系が崩れる、それを防ぐために魔物を退治するのがギルドの大事な仕事のひとつ!でしょ?」
ギルド。もはやホールといってもいいぐらいの広さのあるここも、放課後になれば学園中から生徒が集まり、あっという間に混み合う。
掲示板が全方位の壁にずらりと並び、中央にある口の字型の窓口ではギルドオフィサーが依頼を受けに来た生徒達の対応をしている。
生徒同士で待ち合わせや勧誘をすることも配慮してか、置かれたテーブルとベンチには既に数グループの生徒達が集まって作戦会議が開かれていた。
ミリカとユリナは生徒会へ行く前に、ギルドで依頼の下見をしているのである。
『ザスト退治』
場所:東の森の洞窟付近
依頼者:レイオーク管理局
報酬:一体8,000G
『ゴブリン退治』
場所:ゴブリン村から東の森へと侵入
依頼者:レイオーク管理局
報酬:10匹1,500G
『キングオーガ討伐』
場所:レイオーク北平原
依頼者:レイオーク管理局
報酬:一体28,000G
『廃鉱山の魔物調査』
場所:ヒスイ村付近、旧翡翠鉱山
依頼者:レイオーク管理局
報酬:800,000G
※支援オーブ貸出
『畑を荒らす野生動物の駆除』
場所:東区、農業地帯
依頼者:レイオーク管理局
報酬:一匹1,000G、大型は一体5,000G
『危険な薬草の採取』
対象:マンドラゴラ
依頼者:レイオーク管理局
報酬:一本8,000G
※通信オーブ貸出
『応援要請』
場所:ガストロック町
依頼者:ガストロック管理局
報酬:120,000G
「こっちの黄色い紙が管理局からの公的な依頼で、街のほぼ全てのギルドに張り出されるの」
「倒した魔物の素材って、どうすればいいんだろう?」
「自分達の獲得物になるから、好きに売り捌いてもいいのよ」
「じゃあ報酬と素材を売ったお金の両方が収入になるんだね。緊急の依頼が入った時はどうなるの?」
「赤い紙。もしくは緊急警報が鳴って、出動要請がかかる」
「なるほど……オーブっていうのは何?」
「遠隔操作ができる魔導具。使う時があれば詳しく教えるわ」
『ラビの肉買い取ります』
対象:ラビ、その他野生動物の肉でも可
依頼者:ゴーン料理店、店長ゴーン
報酬:1キロ5,000G
『モスの皮買い取ります』
対象:モス、スピアーモス、ハンターモス、ブラッドモス
依頼者:マナリル薬店
報酬:10枚1,500G
『探し人』
場所:サラセス荒地
依頼者:エイダ
報酬:50,000G
『素材収集』
対象:金属全般
依頼者:レイオーク国立南ギルド学園、鍛冶科
報酬:1キロ12,000G
『エスカルクイーンの殻買い取ります』
対象:エスカルクイーン
依頼者:レイオーク国立南ギルド学園、フィーナ
報酬:一個10,000G
『暴走した魔導書の捕獲』
場所:ウェストレイク大図書館
依頼者:ウェストレイク魔術学校、生徒会
報酬:55,000G
『迷子犬の捜索』
特徴:白い毛並み、黒い目の小型犬
依頼者:ジュリアン
報酬:300G
『台所のいたずら妖精』
場所:レイオーク中央区02-14
依頼者:ハンナ
報酬:3,000G
「こっちの白い紙が、個人やグループからの依頼」
「このレイオーク国立南ギルド学園って、確かここの姉妹校だよね?」
「生産ギルドだから、素材収集の依頼がよく来るの。こっちからも南学園に依頼を出せるのよ」
「こうして見ると何というか……いろんな依頼があるんだね」
依頼主は大丈夫か心配になるような切羽詰まった依頼もあれば、『飲み仲間募集中』といったギルドに頼むような事でもないものまで。端から端まで見ていったら日が暮れてしまう量だが、これで多過ぎるという事はなく、毎日やる気に溢れた生徒達が続々と解決していってくれるのだとか。
「最初のうちは弱い魔物退治からって感じかな。ユリナはいつもどんな依頼を受けてるの?」
ユリナが指差した依頼書には、レイオーク管理局からの依頼で、オーガ退治と書かれていた。
「一年生でオーガ退治って、相当すごいんじゃない?何人ぐらいで行ってるの?」
「ひとり」
「ヒトリッッ!?」
聞けば、ギルドの依頼は毎日ほぼ一人でこなしているだという。では入学式からミリカが転入してくるまでの約2ヶ月の間、ずっと一人で戦い、寮も一人部屋に住み、教室でもあのように孤立した状態で過ごしてきたというのか。
「ユリナ……可哀想」
ユリナは失礼ね、と適当にあしらったが、ミリカの目にはみるみるうちに涙が溜まっていく。これは面倒くさくなる予感。
「ミリカ……何か勘違いしてない?」
「ユリナ、大丈夫……!これからは私がいつも一緒にいるよぉ!?もう寂しくなんかないからねぇ!?よしよしユリナぁ~」
こんなところで号泣しないでほしい。
ユリナは周りからの刺さるような視線から逃れるため、ミリカを連れてギルドを出た。
「全く……私は好きで一人で過ごしているのだから可哀想でも何でもないの。分かったらもうその涙と鼻水は引っ込めて」
「ぐすん……本当?グスッ……今までルームメイトがいなかったのはどうして?」
「一人で部屋代を払うなら一人部屋に住むことも可能なのよ」
ここの寮の部屋は10人程度入って遊んでも余裕なぐらいの贅沢な広さ。にも関わらずルームメイトと割勘せず一人で住み続けるというのは経済的にきつそうだ。
「そんな非効率な生活やめよ!?これからは私と一緒に住むし、ギルドの仕事も私と一緒にやろうよ。この後の生徒会が終わったら、さっそく一緒に依頼を受ける!決定!」
「まぁ……いいけど」と、ユリナは生徒会室の方向へ歩きはじめる。
「ねぇ、どうしてそんなに一人が好きなの?」
「元からこういう性格なの」
「でも私とはルームメイトになったよね?」
「……世話係みたいなものよ。転入生は何かと分からない事が多いだろうって」
「いやぁ親切システム!そういうの助かるぅ~、ユリナみたいな人が一緒だと心強いもん!」
背中をポンポンと叩かれる。昨日一緒に廊下を歩いた時よりも体を密着されたが、嫌な気はしなかった。
「私、出て行くつもりないんで、よろしくです!」
「はいはい」
「あ、話は変わるけど、私的に売店で一番美味しいと思ったのがね……」
ミリカはひとしきり喋る。ユリナが無愛想に頷くだけであっても、勝手に一人で楽しそうにしている。それが煩いと感じないのは、自分本位にならず、相手に寄り添う姿勢は崩さず、けれど適度に視線は外し、聞いていても聞いていなくてもどっちでも良くて、相手がユリナであればいい、いてくれるだけで良いのだと、そう言われているような錯覚までしてくるから。
懐に入るのが上手い。
特に自分のようなガードの固い者には慣れていて、セラカのような底なしの元気さとは違った人懐っこさがある。
ギルドから生徒会室までの道のり、ただ適当に聞き流して歩いていただけの時間は、不思議と、一人で歩いている時よりあっという間に感じた。
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