ギルド学園の放課後
学園の正面玄関に足を踏み入れたところで、少し前を歩いている人物に気が付いた。
長い十字架の
頭の上でもふもふしている耳に触りたいのをグッと我慢して声を掛けた。
「マリちゃん」
振り返ったマリの顔にパッと花が咲いた。耳もピンと立つ。
「ミリカちゃん、ユリナちゃん。おつかれ様!」
「お疲れ様」と、デカい剣を背負ったユリナも挨拶に応える。
「お疲れー!今帰ってきたとこ?」
「うん。迷子の子犬を探しに行ってきたの」
「迷子……そ、そっか」
「ミリカちゃん達は魔物退治?」
「そうなんだけど、魔物って、こんなに多いものなの?」
「ん~、最近になって増えてきた気がするかも。もう魔物退治が出来るなんて、ミリカちゃん強いんだね!」
「そ、そう?」
えへへ。とミリカは照れ笑いをした。
本日の生徒会は、先のように依頼が舞い込んでくる事も無く、事務仕事や雑用をこなすだけのものだった。
一年生メンバーの間には微妙な空気が流れていて、ミリカとマリでなんとか場を明るくしようと話題を振ったりしたのだが、ぎこちなさが解消される事は無く、しかしセラカだけは窓際で気持ちよさそうに寝ていた。
マリと結んだ『一年生メンバーを盛り上げよう同盟』は継続中である!
「さっきはじめて敵の攻撃を食らっちゃって、痛すぎてもうこんな学園辞めようと思ったよ」
ミリカの冗談に、マリは小さな口に手をあてて上品に笑った。
生徒会のメンバーとは廊下ですれ違えば軽い挨拶を交わす程度だが、マリだけは、会えばこうして足を止めて雑談に興じてくれる。おっとりした喋り方と、太陽のような笑顔にミリカは癒されている。
「分かるなぁ、私も何度経験してもツラいもん。怪我自体は回復魔法があれば一瞬で治っちゃうんだけどね」
「そう!そうなの、回復!だからマリちゃんが一緒に来てくれたら、きっと任務も楽になると思うんだよね~?」
話の流れでナンパしてみる。
「ありがとう。でもやっぱり私は弱いから、きっとみんなの足を引っ張っちゃう」
また断られてしまった。何度かこうして誘ってはみるものの、マリは一緒に仕事をしてくれない。昨日の失敗のことで自分を責めているようなのだ。
「いつもそうなの、みんなを助けなきゃって気持ちが空回りしちゃって。あの時も、魔物がこっちを見ていない隙に走ってユリナちゃんのところへ行けば回復してあげられるって思ったんだけど……やっぱり駄目ね」
「そんな事ないよ!」
ユリナが何かを言いかけた気がするが、自分を否定するような口ぶりのマリに、思わず反論せずにはいられなかった。思ったより大きい声が出てしまい、マリが驚く。
「あの時はみんなの息が合わなかっただけで、マリちゃんが悪いわけじゃない。カレン先輩もそう言ってくれてたでしょ?だから、またみんなで……」
「マリ~?」
今、大事なとこなのに!
Cクラスの生徒達がマリを呼んでいる。まぁ、マリはCクラスの生徒なのだからCクラスの生徒が一緒にいるのは当然だ。
「あ、呼ばれちゃった……ええと」
「気にしないで。引き留めちゃってごめんね、早く行ってあげて」
「うん……また明日ね!」
一旦は踵を返したマリだったが、体半分だけミリカに向き直る。
「ありがとうミリカちゃん。気持ちは嬉しい……けど、少し考えさせて欲しいの」
そして、半ば独り言のように。
「私にはまだ、大事な人達を守れる自信がない」
ちなみに、生徒会ではやはりマリヤに小言を言われてしまったが、既にロークスから叱責を受けたのを知っていただろうし、過ぎたことをいつまでもチクチク言っても仕方ないと本人も分かっているのか、あまり厳しくは咎められなかった。
「先輩達も怒ったりせずに励ましてくれて優しかったのに、なんか、あの4人とは距離を感じる……私嫌われてるのかな?」
ギルドの受付窓口で報酬を受け取る。
「おつかれ様でした」と受付職員。学生なのに立派に依頼をこなしている……不思議な気分だ。
「ミリカじゃないわ。どちらかといえば、嫌われてるのは私のほうね」
「ユリナが?何で?」
時間的に頃合いだった為、2人で寮へ繋がる通路を目指した。
「人魚と獣人族が、人間に迫害されてきた歴史があるのは知ってるでしょう?」
「それって、ずっと昔の話じゃないの?」
「差別というのは、すぐに無くなるものじゃないの」
「それは分かってるけど……それとユリナが嫌われてる事に、何の関係があるの?」
「私が人間だから近寄りたくないのよ」
「まさか!」
そんな事あるわけないと笑い飛ばしたかったが、かといって、ユリナと彼らが仲良しに見えたかと聞かれると、お世辞にもそうとは思えなかった。マリとは比較的喋っているようだが、リオとは全然話さないし、シェーネルに至っては目を合わせているところを見たことがない。
本当にそうなのだろうか?ユリナは嫌われているのだろうか。
「やっぱり違うよ。もしそうだとしたら、私も嫌われてるはずだよ。私も人間だもん」
「……そうね」
寮への通路に差し掛かった時、前方の交差部分を見知った顔が横切るのが見えた
「あ、リオ君だ。ねぇユリナ、あれってリオ君だよね?おーい!」
鮮やかなコバルトブルーの髪が目に飛び込む。おまけに背が低いときたら、それはもうリオで間違いない。この特定の仕方は本人にはあまり言えたものじゃないが。
2人のクラスメイトと共に歩いていたリオは、こちらの存在に気付いたはずなのに、ちらと一瞥しただけで進行方向に視線を戻し、姿を消してしまった。
「無視……」
ミリカの心に、木枯らしが吹く音が聞こえたような気がした。
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