生徒会

 力強く扉が開かれた──のだが、中から何かが飛び出してきて、驚いたユリナは一歩退いた。


 内側から何者かが扉を開けて出てきて、それとユリナが扉を開けるタイミングが被ってしまったらしい。ぶつからなくてよかった。


「わっ!ご、ごめんなさい!ユリナちゃん、怪我はない?」


「大丈夫。マリは?」


「私も大丈夫」


 室内から誰かが「そいつが新入り?」と質問を投げかけた。ぐぐもっていた声は扉を開けたことで鮮明になったが、何やら騒がしい。


「そうよ。ところで何をしているの」


「射影オーブが届いたから組み立てようとしてたんだよ。そしたらこいつが部品を壊しやがって」


「軽く握っただけなのに外れちゃったの!」


「なにが外れただよ!接合部が粉々になってんじゃねーか!どんな怪力で握ったらこんな事になるんだ。シェーネルもそう思うだろ?」


「だからセラカには触らせるなって言ったのよ。こういう細かい作業は向いてないんだから」


「う~。カレン先輩ごめんなさい~」


「まぁ、部品の一つや二つなら追加で買えるだろうから、あまり気にするな。部品代はセラカに支払ってもらうことになるが」


「あはは……そりゃもちろん」


「えー?それじゃあ完成はおあずけかよー」


 会議室にあるような大きなテーブルの上で何らかの作業をしていたらしき男女が揉めている。上級生らしき生徒も数人いる。


 セラカと呼ばれた女子生徒が何かを壊したとかで、青い髪の男女2人が怒ったり呆れたりしていて、それをカレンと呼ばれる先輩らしき女子生徒がフォローを入れるといった流れのようだったが、そんな事よりミリカの目は、その青い髪をした男女2人の姿に釘付けになっていた。


「に……に……」


 驚きのあまり、人に指を差してしまう。


「あ?」


「に……ににに、人魚!!??!?」


 ドタバタと急接近してきたミリカに少年がビビって後退する。


「よ、寄るな人間!」


「すごい!!!私人魚見るのはじめて!!この学園には本当にいろんな種族の人が通ってるんだね!!素晴らしい!!!」


「寄るなってば!それ以上近付くな!何なんだよこいつは!?」


「何?この子」


 2人の問いにはユリナが答えた。


「だから、昨日言ってた転入生よ。人間以外の種族が珍しいらしいわ……カレン先輩、彼女が新しいメンバーです」


 座っていた上級生の一人が立ち上がった。


「話は聞いてる。ようこそ生徒会へ。貴方を歓迎する」


 目をキラキラさせたミリカがカレンと挨拶しているあいだ、ユリナはマリに質問した。


「そんなに慌ててどこへ行こうとしていたの?」


「あ、ええと、アーミアさんを呼びに行こうと思って。セラカちゃんがあれ壊しちゃったでしょ?だから何とか誤魔化す方法はないかって3人は言ってて、私は正直にマリヤ先生に謝った方がいいって言ったんだけど……」


「だって怖いじゃんか」


 人魚の男子が言った。


「部品が足りなくても一応使えるかもしれないでしょう?」


 同じく人魚の女子が加勢する。


「で、でも、それで組み立ててもちゃんと機能しないかもしれないじゃない。やっぱり正直に言ったほうがいいよ、て……手が滑って落としちゃったとか言えば、そんなに怒られないよきっと……」


「マリ……お前も言い訳する気満々じゃねぇか」


「ち、違う!壊れた事実だけはちゃんと伝えようねって事!」


「ちょっと待って!あたしが壊したんだから、あたし一人が謝りに行けばいいよ」


「待て待て待て、お前いつも何かしら壊してるんだから、今回は3人で手が滑ったって事にしとけよそろそろ退学の危機だ」


「そんな事ない。戦闘中に通信オーブを割っちゃったくらいだよ」


「更衣室のドアが外れたのは?」


「あれは普通に開けたら勝手に外れたの!」


 ユリナは呆れて溜息をついた。マリはこの状況をどうしたらいいか分からないようであわあわしている。


「それを壊したって言うんだよ。あー……とにかく何か策を考えねぇと、先生に殺される」


「私が何ですって?」


「あっ……先生」


 扉口に現れたマリヤの姿に、言い訳を考えていた3人の顔から血の気が引いた。


「私が買った射影オーブを早速壊したみたいだけれど、小細工を働こうとするのは感心しないわね。3人そこに並びなさい」


 この世の終わりかのような顔になった後輩達を見て、沈黙を貫いていた上級生達からは「あーあ」と同情しつつも堪えきれなくなった笑い声が漏れていた。

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