第8話

セイヤ君が断ってきた。藤原さんが言うには、僕だけなら良いが警察には話せないということらしい。深夜ということでそれ以上食い下がることはせず、大人しく電話を切った。




カメラとパソコン、デスクに保管していたメモリーカードは警察に押収されることとなった。しばらく時間がかかるらしい。連絡手段がなくなるという理由でスマホだけは持っておくことができたが、それも近々提出する必要があるようだった。






その日は行く当てもなく、繁華街のインターネットカフェに泊まることにした。




時間は午前3時。これ以上ないくらいの疲労感はあるのだが、慣れないリクライニングソファはなかなか姿勢が決まらず、眠気が襲ってくる気配がしない。


なんとなしに目の前のパソコンを操作して、ふと、栄田のサイトを思い出す。




そのサイトを探す時は、「グロ 画像」と入力していた。するとトップではないにせよ2番目か3番目くらいにはいつも並んでいた。ページトップにクマとウサギのコミカルなイラストが表示され、下にページをスクロールしていくと、人間の遺体やけが、事件、事故の無修正画像と動画が次々と現れてくる。


「いざという時の覚悟のため」「何かの参考に」「普段の自分に戻るため」。かつて僕も、目的のない娯楽サイトだと理解しつつも何かと理由を付けては訪問し、気が済んだら罪悪感でページを閉じるというのを繰り返していた。




臭いに悩まされるようになってから栄田のサイトを訪れることが少なくなっていたため多少の躊躇はあったが、検索で表示されたそのサイト名を僕はいつの間にかクリックしていた。






目が泳ぐ。ページを一度戻して再びアクセスしても結果は変わらない。検索結果に並んだほかのサイトは開くことができた。栄田のサイトだけが表示できない。


個室を出て通話ブースを探し、スマホの電話帳をスクロールさせる。登録してある番号はそう多いものではないので、バイト先の芹川さんの名前まですぐに辿り着いた。もう一度「か」行の後ろに戻る。最後尾からも当たってみる。




何度探しても「栄田」の文字が見当たらない。通話履歴にも一切残っていない。


すると一通のメールが届いているのに気が付いた。




「雨のかくれんぼをしましょう。動画を撮って送ってくれたら色々教えます」




僕は杉崎刑事に電話をつなぐと、挨拶もなしに絞り出すような声で言った。




「さっきの遺体、誰ですか」


「まだ身元不明だよ。まあ、安藤君の恋人さんじゃないことは確かかな」


「どういうことです?」




長い沈黙の後、杉崎刑事は声を潜めた。




「……あんまり詳しいことは言えないんだけどな。長い間冷凍されてた跡があったよ。少なくとも昨日今日で殺害された感じじゃない」




ただの妄想かもしれないが、不穏な形のピースのいくつかが、つながろうとしていた。




「今から出かけます」




外は強い雨が降っていた。


ネットカフェを飛び出した僕は、駐車場に停めた車に乗り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る