てんとう虫の話
また虫の話か、と思った方もいるに違いない。そのとおり、これはつい先日私に起きた虫にまつわるちょっとした事件である。
先日――というか昨日、私は2時限目の授業に出るために学校へ向かっていた。2時限目から、というのが非常に都合が良い。1時限目がある日ほど早く起きなくていいし、通勤・通学ラッシュのピークを過ぎた頃の時間になるので電車もそれほど混んでいない。カフェで新作のドリンクを買ってから登校するも良し、授業開始まで図書館で本でも読みながらのんびり時間を潰すも良し、溜まった課題を一つだけでも片付けるも良し――、私が選んだのは二つ目の選択肢だった。
貸出カウンターのそばにある背の低い本棚から『もものかんづめ(さくらももこ/作)』を取って読み始めてから数分後、私は首に違和感を覚えた。――そう、これこそがこの後数分間に渡って私を震え上がらせる事件の幕開けであった。
何気なく触れた私の首筋に、奴はいた。思わず反射的に振り払うと、奴は私の持っていたトートバッグの持ち手に飛んでいった。そこそこの大きさである(私基準)。私がヒッと小さく悲鳴を上げながらバッグを床に取り落とすと、奴は今度はバッグのロゴの部分へと飛んでいく。私はち〇かわの如く半べそで手にしていた『もものかんづめ』でバッグを叩いてみるが、奴が飛んでいく気配はない。そして、こんな挙動不審の学生(私)がいるのに、カウンターにいる二人の司書さんは気付かない。私は思い切って奴のすぐそばを『もものかんづめ』で叩いた。奴はようやく地面へと落ちていったのだった。
さて、直接攻撃したのは最初の一発だけだったので、多少弱ってはいるが奴は図書館の床でちまちま動いていた。そのままでは何だったが、何せ私は虫が苦手すぎて何もできないので、近くを通りかかった司書さんに「あの、虫が……」などと遠慮がちに申し出た。司書さんはしゃがんで奴を両手で掬って「てんとう虫だ、どこから入ってきたんだろう」と呟き、立ち上がってから「踏まれなくて良かった、ありがとうね」と私に言ってそのままてんとう虫を逃がしに行った。
それにしても『もものかんづめ』、ただ引っ張り出されて読まれていただけだったはずなのに、虫を追い払うのに使われるなどとは夢にも思わなかっただろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます