眉毛の話

 昔から、自分の眉が好きではなかった。

 母は「形が良い」と褒めるが、私の眉は始めから終わりまで太く、黒々と(正確には真っ黒という訳ではないのだが)濃く、また眉間がつながっているものだった。私が生まれて間もない頃、母方の祖父は私の顔を見て「格好良い眉毛だ」とまず褒めたそうだ――初めての孫娘にそれはないよ、おじいちゃん。中学以降はフェースシェーバーを使って剃っているが、それまではふとした時に指で引っこ抜いていた。

 以前、大学のある講義で向田邦子氏の『男眉』を扱ったものがあった。内容は――、読書好きの皆様になら、お読みになってください、と書いておけばいいだろうか。別にその本文は講義の内容とまで行かず、資料として紹介されただけだったため、それまで男眉だの地蔵眉だのという言葉は知らなかったが故の「へえ」という感想しか出てこなかった。


 骨格ウェーブで童顔――これが特徴だと書けば、フェミニンな服装が似合いそうだと普通は考える。しかし、私の場合はそこに二重のつり目と濃い眉が追加される。そして身長もそこそこある。バランスが悪い。人間そうも上手く出来ていないので仕方がないが。

 しかし救いの手はまだある。身長は削れないし、骨格も童顔も変えられないが、眉毛は剃れる。必死に動画を漁った。ファッション誌も見た。覚えたての知識と共に洗面所でフェースシェーバー片手に格闘を繰り広げた――あれはGWの頃だっただろうか。

 そして現在、私は怯えながらフェースシェーバーを持つ日々を送っている。

 二か月ほど前、バイトの前日に眉毛を整えていた時に手を滑らせて、ガッと右の眉頭を剃り落としてしまったのである。笑うしかなかった。母にも爆笑された。結局翌日のバイトには、必死にアイブロウで眉頭らしきものを書いて向かった。あれ以来眉毛を整えるのが怖い。少し向きを変えるのにも電源を切って進める。最初の時ほど大胆には、もうなれない。

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