第13話 邂逅3

「ヴォルコ!! 1時方向だ!!見えるか!! 」


《連中、数を増してきています!!》


《このままでは包囲されます! 突破しましょう!》


アウスロの小隊は西区中央の川を超えた先で魔獣の待ち伏せを受けた。


瓦礫の中に身を隠していた魔獣の数は見えるだけでもおよそ30匹以上はいる。


ライフル砲では対処しきれない物量に5機は不利な状況に陥っていた。


「仕方ない、ここを突破するぞ!! 各機、着剣せよ!!」


《了解、着剣!!》


ディハールの腰にマウントされていた大型の銃剣をライフル砲の銃身に装着した。


そして目の前の魔獣の群れに対して突撃体勢をとる。


前方だけなら小型種は17、中型種も6匹。


大型種はまだいない。


「……行ける!!」


鋼鉄の脚が石畳の地面にめり込む。


「突撃!!」


瞬間、地面が爆発した。


一般的な騎甲兵の倍以上のパワーを持つディハールの脚部はその巨体からは想像もつかないようなスピードで駆ける。


バルーラとは比較にならないその脚力はまるで砲弾が着弾したかのように地面にクレーターを生み出し、衝撃波と破片が近くの家屋の窓ガラスを粉砕した。


楔形の陣形を保ちながら走る5機は魔獣の群れに肉薄する。


銃剣を中型種の喉に突き立て、左に投げ飛ばす。


勢い良く投げ飛ばされた中型種は他の群れに激突し、ボウリングのピンのように跳ね飛ばされた。


目の前の魔獣の群れを刺し、斬り、時に銃床や素手で脇に退けて行く。


足元の大量の小型種は超高速で走るディハールの質量に押し潰され、為す術なく轢き殺された。





それから程なくして、5機は既に要塞の壁が見える所まで来ていた。


複数の山を巻き込んだ形で作られたこのターブリール要塞都市。


特に西区は標高が高い為見通しはとても良かった。


「敵はもう来ていないか」


《はい、どうやら諦めたようです》


坂道の上から見下ろす西区はあちこちで黒煙が上がり、瓦礫の山が積み上がり、嘗てあった人の営みはそこには存在せず、世界の終わりを思わせるような光景が広がっていた。


《大尉、あの警察署はまだ無事のようです。 もしかしたらあそこに市民が避難しているのでは》


部下が指した方向には確かに警察署があった。


頭部メインカメラをズームすると損壊は殆どしておらず、壁などに穴も無く、魔獣に入られた形跡も無い。


「可能性はあるな、行ってみよう」


5機は警察署を目指して坂を駆け下りる。


家屋の影や瓦礫の山を警戒しながら歩みを進めているとアウスロがある事に気付いた。


「魔獣の数が増えてきている……」


《警察署辺りが1番多いですね。 恐らく、当たりかと》


「よし、ならば制圧するぞ」


「了か……」




アウスロには、今何が起きたのか一瞬理解出来なかった。


つい先程まで無線で話していた筈の2番機が、煙を上げながら地に伏している。


操縦席のある胸部には、表面が赤熱した風穴が開いていた。


残された4機が正気を取り戻したのは、2番機に向かって光線を放った6つ目の竜が空から猛禽類のように飛び掛ってきた時だった。


「散開だ!! 散開しろ!!」


《た、対空警戒!!》


蜘蛛の子を散らすように4機は散らばり、飛んできた竜は辛うじて回避出来た。


竜はアウスロ達を通り過ぎると彼らの背後で再びホバリング形態に入り、静止した。


《な、何を……!?》


その竜が口を開くと、喉の奥で何かが激しく発光している。


しかもその光は凄まじい勢いで強さを増していき、口の周りが放電現象を起こして稲光が瞬いた。


「ヴォルコ!! 狙われてるぞ!! 家の影に隠れろ!!」


《了解!!》


3番機が家の影に身を隠し、アウスロ達も隠れたと同時だった。


竜の口から瞳を焼かんばかりの閃光が迸る。


太陽と見紛う程のその光線はヴォルコのいた家を直撃した。


アウスロ達が間に合ったかと思ったその直後に、光線は家の石壁を蒸発させ、文字通り家ごと3番機を貫いた。


光線を吐き出しながら竜が頭を僅かに動かすと機体は焼き切られ、胴体が真っ二つになった。


《ヴォルコ!!》


「ここでは駄目だ!! 退避するぞ!!」


戦友の名を叫ぶ4番機を引き連れて坂を全速力で駆け下りる。


それを見た竜は飛び上がり、2機の追跡を始めた。


上空から撃たれれば此方は遮蔽物が無い分不利に過ぎる。


ライフル砲の弾も残っていない以上、反撃もできない。


《ヴォルコ……ヴォルコが……!!》


「恐れるな、走れ!! また次が来るぞ!!」


パニックに陥った4番機を叱責しながら走っていると、途端に機体が激しい衝撃に襲われた。


何事かと思い後ろを振り返ると、そこには






胸部を光線で貫かれた4番機がいた。


そして同時にアウスロの機体も脚部を焼き切られた。


「ぐぉおおあああ!!!」


大破した4番機がアウスロの機体に衝突する。


バランスを崩した機体はうつ伏せのまま坂道を滑り落ちていく。


機体が数度跳ね、手足の装甲が徐々にひしゃげていった。


漸く止まったと思った頃にはアウスロの機体は警察署の前に横たわっていた。


「ぐっ……うぅ……」


操縦席で突っ伏していたアウスロは血の流れる頭を抑えながら起き上がる。


身体のあちこちから激痛が走る。


骨も何本か折れてるに違いない。


機体越しに伝わる振動を感じ、後ろを振り向くと、そこにはこちらを見下ろす竜の姿があった。


「……な…にも…のなんだ……おま…えは……」


その6つ目と目が合い、アウスロは恐怖に目を見開く。


「貴様……何者だ……!?」


竜はアウスロの機体を転がし、仰向けにするとコックピットハッチに食らいつき始めた。


強靭な顎の力はいとも容易く装甲板を食いちぎり、中のアウスロが顕になる。


それは生物の本能としての恐怖。


小さき者が大きい者を恐れるのは、ごく普通の自然の摂理だった。


受け入れ難い。


受け入れられる筈が無い。


ファルダート家の人間としてではなく、兵士として。


アウスロはここで大人しく餌になるなど、認める訳にはいかなかったのだ。


「貴様ぁ!!!」


腰のホルスターから拳銃を抜き取り、照準を竜の額に合わせる。


「死ねるかぁああ!!!」


引き金を引いた時、何故か射線上にいたはずの竜はいつの間にか消えていた。


「何が……っ!?」


否、消えたのではない。


《そこの兵士! ハンターを地上まで誘き寄せてくれて助かった!!》




見たことも無い騎甲兵に、竜は首を跳ねられていた。


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