第9話 再会

鍵を手に入れたマリノフは散弾銃を片手にシャローの元へと向かった。


「今開けてやる」


「ありがてぇ! アンタ命の恩人だ!!」


解錠した扉を開くと痩せ細った身体のシャローが駆け寄る。


これからは外に出て安全な場所を探さなければならない訳だが、それに関してはこの街に詳しいシャローが頼りになりそうだ。


建物から外へ出ると通りには既にはいなかった。


その代わりに、イーターによって食い散らかされたであろう死体が幾つも横たわっている。


「あぁ……なんてこった……!」


通りを歩きながらシャローはその惨状を見て思わず口を抑えた。


男も、女も、老人も、子供も皆等しく食い殺されていた。



散弾銃を構えながら進むマリノフの目にある死体が映る。


子供、それも兄妹のようにも思えた。


路上に放られている妹の方は腹から下が全て持っていかれて無くなっていた。


レンガ造りの家の壁にもたれ掛かっている兄の方は首元を食いちぎられて大量出血で死んだようだ。


「ぅぷ……」


それを見て吐き気を催すシャローを他所にマリノフは基地にいた時に病気で死んだ幼い兄妹の事を思い出した。


この兄妹も、同じ位には幼かった。


「等しく平等に……か」


イーターは全ての命に平等だ。


平等に、全てを食らう。


どんな尊き存在であろうと。


「あぁ……可哀想に……」


「行こう、まだイーターが近くにいるかもしれない」


哀れみの目で死体を見るシャローを引き連れて名も知らぬ街の先を行く。


商店街を抜けた先に、真っ直ぐ街の中央へと続く大通りがあった。


シャローはそれを見て大通りの先を指さす。


「大通りの向こう、多分警察と民兵が集結するなら中央区のシクドース広場辺りだ」


シャローの誘導に従い、大通りを早足で進む。


大通りを進んでいる内に、民間人に混じって警官や兵士の死体も見受けられるようになってきた。


棚や机やその他の家具などでバリケードが作られていた痕跡もあり、ここは最初の防衛線で既に突破されたのだろうと推測する。


道中のシャローの話によるとこの都市の名前は「ターブリール要塞都市」と言い今いるここは西区らしくターブリールは広い面積を持っている為中央区までは時間が掛かるそうだ。


走り続けて何十分が経ったが、中央区はまだ先にあり、その代わりにファイターの死体の数が増えて来た。


警官や兵士の死体も減ってきていることから彼らはなんとか上手く戦えているようだ。


この先に集結した部隊が防衛線を貼っていることを祈りながら走っていると近くから物音が聞こえて来た。


それも屋内からだ。


「気を付けろ、ここに誰かいるぞ」


物音が聞こえたのは木造建築の住宅。


家に近付くと、窓越しに誰かが階段で上の階へと登っていくのが見えた。


恐らく此方には気付いていないが念の為階段を警戒する。


散弾銃を片手に扉を開け、家の中へと足を踏み入れる。


家の中は荒らされており、食器やガラス片等が散乱している。


しかし、これはイーターによって荒らされたものではないとマリノフは気付いた。


イーターならばもっと周りの家具どころか壁や天井すらも滅茶苦茶にして暴れ回るものだ。


間違いなくこれは人の手によって荒らされたものだろう。


「おい、これ……」


シャローが居間で何かを見つけた。


そこにあったのは幾つかの空薬莢とまだ新しい血痕だった。


「これは……」


辺りに散らばっていた空薬莢の中に、ある物を見つける。


マリノフが手に取ったのは、真鍮製の空薬莢に混じっていたの拳銃弾の空薬莢だった。


ポリマー製の薬莢は東欧連合国だけでなく他の国々の軍隊も昔から制式採用しているタイプの薬莢だ。


技術力で遅れを取っているこの世界にこんなものがある筈が無い。


まさかと思いながら階段を登り始める。


激しく音を立てないようにゆっくりと登り、2階に顔を出そうとした瞬間、頭上を銃弾が通り抜ける。


急いでしゃがむとさっきまでマリノフがいた所の壁に銃弾が撃ち込まれていた。


銃声からして恐らく短機関銃を使用しているだろう。


一瞬だけ覗く事はできたが逆光でシルエットしか見えなかった。


そうこうしている内に2階にいる誰かがまた発砲した。


着弾した床と壁の木材が抉れ、散った破片が2人に降りかかる。


「待て、撃つな!! 敵意は無い!!」


マリノフが必死に呼び掛けると、相手は意外とすんなり応えてくれた。


「ならば去れ!! 近付くな蛮人共が!!」


2階から聞こえて来たのは女の声だった。


しかも、マリノフはその声を知っている。


「まさか、お前シティ32奪還作戦の時の女か!?」


「……!? お前は、何者だ!?」


シティ32という単語を聞いて動揺する女に自らの所属を明かした。


「俺は東欧連合国軍所属のマリノフ大尉だ!!」


「友軍……? そんな馬鹿な……」


女の口調からは明らかな動揺が感じられた。


恐る恐る2階を覗くと、女は銃口を下に下ろしていた。


どうやらもう撃ってくる気は無いらしい。


「今そっちに向かう。 撃つんじゃないぞ」


2階に上がった先にいたのは、兵士と言うにはあまりにも若々しい。


少女と言っても差し支えない程の綺麗な顔付きだった。


東欧連合国軍の戦闘服の下からも分かる、筋肉が程よく付いた肢体。


身長は低く小柄でその体格はそこらの女子高生と大して変わらない。


髪は白髪でポニーテール。


額に巻いた黒いバンダナの上部分から2本の角のように前髪が飛び出している。


控えめに言っても美人だった。



女の元へ近付くと、彼女は負傷していた。


左足と左腕に銃創があった。


彼女の手によってか既に応急処置は施されているが念の為ちゃんとした施設で見てもらった方が良いだろう。


「ここから出るぞ、立てるか?」


「そ、そこにいるのは?」


手を引っ張って立たせると、女がマリノフの背後にいるシャローを指さした。


「ただの案内人だ、気にするな。 早く行くぞ」


思わぬ再会を喜ぶ暇も無く3人は中央区を目指して歩く。




一方で、リドミア帝国領ターブリールの守り手たる帝国軍第34師団は突然の敵の襲撃に混乱状態に陥っていた。


「第4中隊応答ありません!」


の数およそ300! このままでは西区が突破されます!!」


「おのれ……騎甲兵の出撃はまだ出来んのか!!」


西区からの敵の侵入から第34師団によって直ぐに作られた師団司令部では多くの騎甲兵の操縦手達が出撃の時を待っていた。


そしてそこに彼、「アウスロ」はいた。







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