第7話 巨人の文明

タブレットを再び小道具入れにしまい、草原の先へと歩みを進める。


レーダーが使用できない中信用できるのは自分の目だけだ。


メインカメラの破損でサーマルが使えなくなった状態であちこちに視線を巡らす。


右手のダガーでは心細いが、幸いイーターの気配はしなかった。


それから更に進んだ後、草原の中にある物を見つけた。


「街道、それに車輪の跡……ここら辺に人がいるのか……!?」


草原のずっと奥まで続く街道に、まだ新しい車輪の跡が刻まれていた。


この惑星に来て初めて文明の痕跡を見つけたマリノフはその分析に夢中になる。


「4輪だが、車輪の幅が随分と小さいな。 これじゃまるで───」





だから、後方から密かに接近する存在に気付くことができなかった。



「馬車みた……ッ!?」


背中。


エグゾスーツの背中に何かが突き付けられた。


後ろにいるのが何者か知りたいが動くことができない。


それは正確にコックピットの位置に突き付けられている。


もし銃口なら動こうものなら一瞬で木っ端微塵にされる。


「何だ……サイズからしてエグゾスーツか……!?」


《動くなよ》


突然聞こえてきた男の声と共に背中により強く何かが押し付けられる。


どうやら無線ではなくスピーカーから直接話しかけてきているようだ。


相手が無線を使えない可能性も考え、マリノフも外部スピーカーをオンに切り替えた。


「……お前ら何者だ」


《それは此方のセリフだな、不法入国者》


「何だと? 不法入国者?」


マリノフの疑問に背後の男は淡々と答える。


声の大きさや、話し方からして軍人の類である事は間違いない。


《知らずに来たのか? ここはリドミア帝国の国境地帯だ》


更に男から聞き慣れない国名を聞き、頭の中が混乱し始めた。


数日前まで人ですらない化け物と死闘を繰り広げていたかと思いきや漂流し、気付けばイーターの1匹もいない文明の築かれた場所に来たのだから無理も無いが。


「待て……リドミア? 帝国? どういうことなんだ……」


《まぁ、詳しい話は後だ》


マリノフの機体の肩を何かの左手が握る。


やはりエグゾスーツか、と思いながら前に向き直る。


《お前を不法入国との不法所持で連行する。 馬鹿な真似は止せよ》


「言われなくても」


結局後ろにいるのが何なのか、はっきり分からずにリドミア帝国とやらの国境地帯の奥へと進んでいくこととなった。




歩いてからおよそ2時間。


国境から距離にしてだいたい40kmという所にその街はあった。


全方位を壁によって外界と隔たれた巨大な都市。


途方も無いほどの大きさの壁の上や内部には幾つもの砲台や銃座が備え付けられていた。


それだけではない。


都市に入る為の門から出てくる複数の巨体。


紛れもなくそれはエグゾスーツなのだが、マリノフの知るものとはかなり相違点があった。


ドラム缶に手足が生えたような形状のエグゾスーツは両手にボルトアクション式のライフル砲を持っていた。


銃口には銃剣が取り付けられている。


確かにマリノフ達のエグゾスーツも無反動砲や軽迫撃砲などのちょっとした火砲の類を装備する事はあるが、アレが持っているのはおそらく少なく見積もっても120mmクラスの口径だろう。


普通のエグゾスーツがそんなものを使えばまず反動に耐えられずアクチュエータが破損する。


カーボンナノチューブCNTを使用した人工筋肉は確かに強度は一般的なロボットアームよりかは遥かに耐久性に優れている。


とはいえ歩兵やイーターなどの大型生物を相手にする事をコンセプトとしたエグゾスーツはそんな大口径の火砲を使用することなど想定している筈も無い。


使えない事は無いだろうが、反動を抑制する為の専用の装備が無い1発か2発撃ったら両腕が使えなくなるに違いない。


それに武装が碗部への埋め込み式ではなく手で持っているというのも違う所だ。


後ろにいたエグゾスーツが門の前で止まると、門番のエグゾスーツはライフルを握り締めてマリノフを警戒するが、暫くすると門番は警戒を解き、門が開き始めた。


やっと入れるのか、と思った矢先に後ろにいたエグゾスーツが目の前に回り込んで来た。


《おっと、ここから先は徒歩で来てもらうぞ。 安心しろ、騎甲兵の方は俺達で預かっといてやるよ。 返すかは知らんが》


躊躇ったらまた銃口を突き付けられそうだったので大人しくコックピットハッチを開いた。


エグゾスーツから降りると、都市の中からまた別のエグゾスーツが2機やってきた。


2機はマリノフのエグゾスーツの両肩を担ぐとせっせと都市内に運んでいった。


《それじゃ俺は警備に戻る。 後は門の所にいる警備兵に従うんだな》


ドラム缶のようなエグゾスーツはライフルを肩に担ぎながらまた来た道を戻って行った。


未開の地、更に未知の文明が築いた都市にマリノフは1人取り残されたのだった。



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