第5話 方舟2
敵が来る。
6つ目の化け物が大口を開けて俺を喰らわんと飛び付いてくる。
奴の口の端にはさっきまで普通に顔を合わせ、会話をしていたサリーの下半身だったものがぶら下がっていた。
ニールも、他の隊員も、皆死んでしまった。
頭上では、成層圏を突破したHLVが宇宙へ向けて突き進んでいた。
もうイーターが辿り着くことができない高度だ。
─また、置いていかれるのか。
思い出すのはマリノフがまだモルニヤにいた頃。
軍の将校達と富裕層の民の脱出する時間を稼ぐ為に彼は数万のイーターの群れを食い止める為に1000機を超えるエグゾスーツと共に戦った。
しかし、津波の如く押し寄せるイーター達にモルニヤや他の部隊はダムが決壊するかのように総崩れとなり、敗走した。
飛び立っていく将校や富裕層を乗せたロケット達を見ながら散々恨み言を吐いたのは今でも覚えている。
今日とて同じだった。
自分達は生贄にされたのだ。
化け物達の撒き餌となることが与えられた任務だった。
しかし。
欲深い俺は生きる事をまだ、諦めることができないでいた。
「クソがあぁああぁあぁああぁぁぁ!!!!」
左腕のガトリングガンを目の前のファイターの口にねじ込んだ。
3砲身が高速回転し、喉奥を掻き回す。
その1秒後には、ファイターは体を引き裂かれて吹き飛んだ。
しかし、マリノフの周りには未だ多くのイーターがいた。
100機を超える数のエグゾスーツをもってしても、敵を食い止めることはできなかったのだ。
ファイターに食い散らかされるエグゾスーツ達は、まるで鳥に啄まれる骸のようだった。
レーダーにはまだ味方の反応があり、あちこちで銃声が僅かに聞こえてくる。
《こちらファイアフライ21!! 誰か!! 誰かいないのか!?》
《俺達は何処に逃げればいいんだよ!?》
《誰だこんなふざけた作戦を考えた奴は…………》
ちょうど、目の前で戦っていた味方機がハンターにコックピットを撃ち抜かれた。
その様を見たマリノフは作戦を放棄。
戦域から離脱する事にした。
「死ぬか……死ねるかよ!」
なけなしの燃料を使ってフライトユニットの出力を全開にする。
それに気付いたファイター達が追ってくる。
「死んでたまるか……死んでたまるか……死んで──」
追い付いてきたファイターが1匹、右から体当たりを仕掛けてきた。
「たまるかぁ!!」
右腕に格納されていた近接戦闘用のダガーを展開し、ファイターの喉元に突き刺した。
動脈を斬られ、力を失って地に落ちていくのを見ながら操縦桿を引き起こす。
しかし、ファイター達は巧みな機動でマリノフを追い回し、機体に飛びつかんとする。
このままでは逃げ切れないと悟ったマリノフは急降下し、雲の中に突入する。
雲の中に入った瞬間、後方に向けてグレネードランチャーを撃った。
近接信管が作動し、ファイターの群れが怯んだ隙にフライトユニットの出力を下げ、敵の後方へ回り込んだ。
「お前らにはもうウンザリなんだよ!!」
30mmと14.5mmの弾幕が後方から襲い掛かり、群れはあっという間にバラバラになった。
辺りを見渡し、敵が近くにいないことに安堵し溜息をつこうとした時だった。
突然、フライトユニットが大破した。
いや、ハンターのレーザー照射を食らったのだ。
運悪くそれはフライトユニットに被弾し、2基のジェットエンジンの内1基が燃料に引火し爆発した。
「やろォ……!!」
コックピットがけたたましい警告音に包まれる。
フライトユニットで自重を支えられなくなったエグゾスーツはどんどん高度が落ちていく。
雲はとうに突き抜け、下には広大な海原が広がっていた。
「もう機体が持たん!!」
このまま海面に激突する訳にはいかないと、股の間にある緊急脱出用のレバーに手を掛ける。
そのまま思い切りレバーを引っ張るが、何故か緊急脱出装置は作動しない。
モニターに警告が表示される。
どうやらコックピットブロックがつっかえて脱出できないようだった。
「フレームが歪んだか……!! このままじゃ!!」
慌てている内にも、海面はどんどん目の前へと迫ってきていた。
「残りの第2エンジンだけでも!!」
大破したフライトユニットを無理矢理動かし、滑空による着水を試みることにした。
残された片方のエンジンを全開で噴かしながら海面と平行に姿勢を安定させようとするが、やはり1基だけでは出力が足りず高度は落ちていく。
「く、クソォ!! 落ちる!!」
気付いた時には、もう目の前に海面があった。
機体を襲う凄まじい衝撃。
それはコックピットにまで伝わり、マリノフは意識を手放した。
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