第4話 方舟
次の日の早朝。
その時にはもう全ての準備が整っていた。
飛行場からは無数の無人戦闘機が飛び立ち、飛行型の撹乱へと向かっていった。
発射台に乗せられたHLVはその中に何百人もの人を抱え、飛び立つ時を今か今かと待っている。
そしてマリノフやジャクソン達のエグゾスーツも同じくフライトユニットを身に纏ってカタパルトで待機している。
《作戦開始まであと1分!》
「ホーネット01から各機、エンジン回せ!」
ホーネットというコールサインを持ったマリノフ率いる第4中隊はジェットエンジンに火を付け、発進体勢へと入った。
カウントが50を切った所でマリノフはふと、ベリィの事を思い出す。
あいつは大丈夫だろうか。
今までどうやったのか分からないが化け物だらけの廃都で生き残ってきたとはいえ、もしまだこの近辺に彼女がいるのならイーターの襲撃があった際に生き残る可能性は低いだろう。
《こんな時まであのペットの心配か? 愛犬家の鑑だな》
「軽口は止してくれサリー。 気が散る」
サリーは同じ部隊の隊員ながら唯一階級関係無しに話すことが出来る人間だ。
モルニヤにいた頃はそれぞれ別の部隊に配属されていたが、合同作戦などで会うことは何度かあった。
彼の陽気さには戦場でいつも救われたものだ。
《
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遂にカウントが秒読みに入った。
マリノフはジェットエンジンのスロットルを上げ、機体を前傾姿勢にする。
ジェットエンジンのノズルから発せられた熱が蜃気楼を生み出し、景色が揺れ動く。
《5!》
スロットルが更に上がる。
《4!》
飛行場はジェットエンジンの甲高い音が支配している。
《3!》
操縦感を握り直し、フットペダルに置いた足に力を込める。
《2!》
最後に、深く溜息をつく。
《1!》
HLVの発射場の方から轟音が聞こえてきた。
向こうが先に出たのだろう。
マリノフ達も、それに続かねばならない。
《作戦開始!全機発進せよ!!》
リニア式のカタパルトが動き出し、機体が急加速する。
カタパルトから足が切り離されると機体は浮き上がり、空へと舞い上がる。
他の機体も次々発進し、モニター上に複数の味方機が映し出される。
ジェットエンジンから火を噴きながらエグゾスーツは高度を猛スピードで上げていく。
図体の大きいHLVとはいえ、搭載された大出力のロケットエンジンのお陰で速度はエグゾスーツ隊とあまり変わりはない。
「ホーネット01から各機、周辺空域を警戒! ハエ1匹見逃すな!」
頭部の複合カメラが周囲を見渡しながら倍率を変えて蠢く。
カメラのモードをサーマルに切り替え、モニターを凝視するが近くに味方以外の熱源はまだ来ていない。
《現在高度3000! 周囲に敵影無……》
HLVの周囲を警戒していたファイアフライ隊のエグゾスーツが突然雲の間から放たれた光線によって貫かれた。
コックピットを焼かれたエグゾスーツが煙を上げながら落ちていく中、一番行動が早かったのはスケープゴート隊だった。
《光線の照射された方向から逆算して位置を特定しろ!》
「飛行型、それも
レーザーは大気中でも減衰する気配を見せずエグゾスーツの装甲を容易く融解し背中も貫いていた。
ジャクソン率いるスケープゴート隊の機体が雲の向こう側にいた飛行型を見つけた。
500匹は軽く超える後続と共に、だが。
《こちらスケープゴート04!ハンターを60匹確認!! 後続に
凄まじいスピードで飛行しながらまるでドローンスウォームのような統率力で大編隊を形成しながら竜の群れはHLVへと一直線に向かって来る。
高度が4000まで来た頃、またもやハンターによるレーザー攻撃が始まった。
しかも60匹同時による集中砲火だ。
「レーザー来るぞ!! 攪乱膜を張れ!!」
エグゾスーツの肩部ランチャーから複数発のグレネード弾が発射される。
グレネード弾は空中で炸裂すると灰色の煙のようなものが広範囲に撒かれる。
50発以上は発射されたそれはたちまち雲で目の前を覆い尽くす。
ハンターがそこに向かってレーザーを撃つと煙の中でレーザーは著しく減衰し、エグゾスーツの装甲を僅かに焼く程度にまで威力が弱まった。
《この重金属雲、例えハンターとて破れまいよ! 全機、交戦を許可する!!》
《レーザーをチャージしてる今がチャンスだ!!》
キティホーク隊が敵への反撃をする為に重金属雲を突っ切って群れへと向かっていった。
「待て!! 敵にはサプライヤーが!!」
マリノフが叫んだ時にはもう遅かった。
通常、ハンターのレーザーは1発撃つ毎に10~15秒のチャージを必要とする。
敵がハンターだけの場合はそのチャージ時間の間に攻撃を仕掛けるのだが、今回は状況が違う。
ハンターの背後にはサプライヤーがいるのだ。
サプライヤーは補給種と呼ばれている通り巣を作る為の資源を運んだり何らかのコミュニケーション手段で群れの統率も行ったりする。
他にも原理は不明だが群れに属するイーターの身体能力を強化したり、ハンターにエネルギー供給を行いレーザーのチャージの手助けなどをするのだ。
サプライヤーによる補助がある時のレーザーチャージ時間は平均………………
4秒になる。
《キティホーク08!! 奴らチャージ時間が……》
《キティホーク08ロスト!! このままじゃ射程外から撃たれ放題だ!!》
《後退しろ!! ミサイルでハンターを牽制するんだ!!》
キティホーク隊はハンターの速射砲並の発射レートで放たれるレーザーに次々落とされ、撃墜された機体が空中に煙の柱を作っていた。
マイクロミサイルによる牽制が上手く効いたのか煙で様子は確認できないがハンターの攻撃が止んだ。
「言わんこっちゃねぇ……!」
あっという間に10機以上を喪失したキティホーク隊を横目にマリノフは煙が晴れていくのを見ていた。
しかし、煙が晴れた先にいたのはハンターではない。
高速でこちらに向かって来る700匹ものファイターの群れだ。
オマケにサプライヤーによって身体強化を施されている。
《お前らハンターに構いすぎだ!! 各機迎撃用意!!》
HLVを背後に4個中隊が防御陣を形成する。
100機を超えるエグゾスーツによって作られた壁をファイターが打ち破らんと突撃する。
《撃て!!》
エグゾスーツ隊による一斉射撃が始まった。
右腕の30mmアサルトライフル、左腕の14.5mmガトリングガンが激しい銃声でがなり立てる。
ファイター達は相手がどんな武器を使ってくるのか分かっており、途中で散開した。
これによって射線が分散し被弾の確率が低くなる。
「つくづく頭の良い奴らだ!」
飛びかかってくるファイターを1匹1匹撃ち落としながら僚機に目をやる。
《ホーネット09! 落ち着いてよく狙え!!》
《14.5mmじゃ怯まねぇ!! サプライヤーに強化されてやがる!!》
たかが100機ちょっとのエグゾスーツなどで、700匹の敵など相手に出来る筈もなかった。
弾幕を掻い潜ってきたファイターは次々とエグゾスーツに襲い掛かり、コックピットに食らいつく。
《スケープゴート13!! 取りつかれた!! 助けてくれ!! 早く!!》
背中に飛びつかれ、エグゾスーツのパイロットがパニックに陥った。
《落ち着け!! 腕を振り回すな!!》
スケープゴート13の機体にファイターは何度も噛み付き、その度に装甲が抉られる。
重火器を搭載した腕を振り回す為に僚機も迂闊に近付けずにいた。
《食われる!!食われる!! 助けてくれ!!》
《ヤバいぞ!! フライトユニットが!!》
ファイターは背中に装備していたフライトユニットをその顎で食いちぎった。
飛行能力を失ったスケープゴート13は重力に従って落ちていく。
《脱出しろスケープゴート13!!》
《スケープゴート13!!脱出する!!》
機体の頭部がパージされ、そこからコックピットブロックが射出される。
そして、そのまま下で待ち伏せていたファイターにコックピットブロックごとスケープゴート13は噛み潰された。
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