第3話
姉、ソフィア
リュシー、リュシー、リュシー……
華奢な身体、控えめな胸、ほっそりとした腰。
優しい声、艶々の銀色した髪、深緑の瞳は垂れ気味で可愛い。
ねぇ、こっちに来て。
怖くないよ。
だって、私はお姉ちゃんなんだから。
「ん……」
寝てた?
何で?
確かご飯を食べて、お酒を用意して、リュシーは笑ってた。
最高の夜になる、ううん、するはずだったのに。
あれ……?
何だかピリピリする。この感覚、ダンジョンで……もしかして、強い魔物が近くに居る? 大変だ、リュシーが危ない。
「おお、信じられないな。もう目を覚ますとは」
頭の上から声がした。いや、寝転がってるから上じゃない。
「その声……」
ヌッと上下逆の顔が目の前に現れた。頭の方に立っていて、私を覗き込んできたんだ。
「やはり勇者。抵抗力も常識外れだ。あの香を嗅いで、普通に意識を保てるとは。ああ、何だか興奮して来たな……今ならお姉様を無茶苦茶に出来る」
長くて赤い舌がチロチロと見える。
「貴女……レンネ?」
間違いない。ナイトメア級ダンジョンのボス、アンデシュレンネ。浅黒い肌、人外の色気、波打つ長い銀髪。あと、デカイ胸が頭に当たってる。いや、当ててる、絶対。
慌てて起き上がろうとした。でも、全く身体が動かない。肌を撫でる空気やベッドの感触はハッキリと感じるのに。いや、寧ろ皮膚感覚は鋭いくらい……
「動けないだろう? 眠ったお姉様に、ワレが特製麻痺毒をタップリ体内へと流し込んだからな。どうやって流し込んだかは聞かない方がよいぞ? ん?」
「な、なんで」
「喋れるし、意識もハッキリしてる筈だ。でも魔力も当分は動かせない。ああ、ついでに感覚器は強化しておいた。だから触ると」
「ひぅ!」
サラリと頬を撫でられただけなのに、鳥肌が立ったのが分かる。
「ああ、堪らん、堪らんぞ……どれ、味見を」
ゆっくりと唇を近づけて来る。私の口に……
「や、やめて、私の最初は……」
リュシーと……
「やめなさい、レンネ」
ピタリと止まったレンネは直ぐに離れた。でも安心は出来ない。その綺麗で最高の声が誰か分かってるから。
「リュシー……? リュシー、逃げて! 今は私が」
アンデシュレンネは魔物。リュシーに何かあったら……
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。レンネに酷い事なんてさせないから」
フンワリと柔らかな声音。
「リュ、リュシー?」
どういう事?
ギシリとベッドが鳴く。リュシーが上に跨ったからだ。お尻や太腿の柔らかな感触、何だか熱い。そして小さな手で私の両頬を挟み、視線を合わせる。
可愛い……
「うむ、尊い」
レンネが何か言ってる。
「はぁ……お姉ちゃん……」
熱い吐息、お酒の甘い香り。
「な、なに? リュシー、どう、したの?」
「媚薬」
ドキリと胸が鳴いた。
「な、何のこと?」
「おかしいと思わなかった? 都合よく古代語のレシピが買った本に挟んであって、更に都合良く禁断の媚薬の作り方なんて。おまけに人体に悪影響が無いのも」
え? え?
「ひゃっ‼︎」
耳にフッて息を吹き掛けられた……
「あの薬は一応ホンモノよ? 効果は眠りで、一つだけ材料が足りないのと、経口摂取じゃない点を除けば、だけどね。実際には香を焚いて使うの。例えば、蝋燭とか」
リュシー? 私のリュシーだよね? 何だか雰囲気が違う。
両頬から手を離すと、首筋に指を這わされた。何度も。
「レンネ、説明してくれる?」
「お嬢の命令ならば仕方があるまい。お姉様、聞きたいだろう?」
返事をする前に話し出すレンネ。コイツ、命令とか言ってるけど、楽しそうだよ。それに"お嬢"ってなに?
「お姉様……ソフィアは勇者で、大抵の力に耐性がある。当たり前の戦闘では私の毒ですら短時間で無効化する訳だ。ああ、体験済みだったな。しかし我は諦められない。一目惚れだった。そして考えに考え、ある方法を選択したんだ。つまりお嬢、リュシーの使役を受け入れ、お零れに預かろうとな。お嬢相手なら集中力も欠け、何より油断する。そして予定通りにお姉様は罠に掛かった。あとは美味しく食べられたら完成だ」
実は内緒で、毎日の様に遊びに来ていたらしい。いつの間にか仲良しになって、意気投合した二人は契約を結んだ。リュシーの願いを叶える為に知恵と体液を提供し、同時にレンネは欲求を満たす……勘弁してよ。
「……なに、を」
この間もずっと、リュシーは私の肌に指を這わせている。
「我自らが遊びたいが……美しき姉妹の睦言を聞き、艶やかな嬌声を、鳴き声を好きなだけ耳にするのも一興。うむ、尊い。なに、精気ならば大丈夫だ。同じ空間、匂い、声、タップリ美味しく頂こう。お嬢、契約だな?」
「取引だもん、仕方ないね。ただし、私の許可なく勝手に触れないで。ホントはお姉ちゃんの肌だって見せたくないんだから」
「うむ、尊い」
何が尊い、よ!
「リュシー、正気に戻って」
「ん?」
「だって、無理矢理なんて」
「んふふ、お姉ちゃんが其れを言うんだ。ちょっとお仕置きしないとね」
「……え? きゃっ‼︎」
胸を鷲掴みされて、思わず変な声が出た。
「ああ……最高……」
「ちょっ、や、めて」
「やめないよ。もっと遊ぶんだから」
「おお、美しいぞ。お嬢、もっと緩急をつけるんだ」
「分かった」
「あ、いや、ちょ、やめ……」
「さあお姉ちゃん、脱ぎ脱ぎしましょうねー」
「え? 嘘、でしょう?」
だって、すぐそばでレンネが見てるんだよ?
「生誕の祭夜は始まったばかりだよ? 沢山可愛がってあげる。私だけを見て、感じてね」
「もっとやれ」
「レンネ! 後で覚えてなさいよ! 絶対に許さ……ひゃぁぁぁーーー⁉︎」
「いただきまーす」
「うむ、尊い」
おしまい
妹を美味しく食べる為に内緒で頑張る姉、実は知ってる妹が反撃を用意してる夜の話 きつね雨 @kitsune-rain
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