第24話(別視点)




「なんてことを!」


 思わず声をあげてしまうと、船上の者たちがこちらを振り返った。

 しまった、と心の中で舌打ちをする。あちらが飛び道具を持っていれば、セイランを救う前に私がやられてしまう。今彼女を救えるのは自分しかいない。



 攻撃魔法は神に仕える者には許されていないが、ここは戦うしかない。

 知識程度にしかない攻撃魔法を詠唱して反撃に出るが、付け焼刃で身を守りつつセイランを救出しに行けるのかと不安が頭をよぎる。この時初めて己が聖職者の道を選んだことを激しく後悔した。




その時、空を切り裂くような光と轟音が鳴り響き、稲妻が貨物船に直撃した。


『ドオオオン!』


 まるで大砲に打たれたような音を立てて、雷に打たれた船は真っ二つに裂けた。




 突然の、あまりの出来事に現実感がなく、荒れ狂う波に小舟の縁に捕まっているのが精いっぱいだった。だがすぐに我に返り、セイランの名を大声で呼んだ。



 だが何度呼んでも声が返ってくるとはなく、それに先ほどの衝撃で水しぶきが上がり、川は荒れ、彼女の姿はどこにも見えなかった。


 雷が落ちた川に自分も飛び込んでしまっては、共倒れしてしまうかもと頭では分かっていたが、銛を打たれたセイランの姿が蘇ってきて、私は矢も楯もたまらず荒れ狂う水の中へ飛び込んでいった。




 泥が舞い上がって川の中は視界が悪い。探索魔法を駆使し周囲を探索すると、泥の向こうに光る何かが見えた。


 光に導かれるように泳ぎ進むと、気を失い流されるセイランが居た。


 急いで彼女を抱き水面に上がるが、水から顔を出した瞬間、裂けた船が倒れるようにして沈み始め、川は津波のように荒れ狂った。


その衝撃で泳ぐことも叶わず、私とセイランはなすすべもなく川を押し流されてしまった。




 荒れ狂う水に、必死に彼女を離さぬよう抱きしめるだけでどうにもできずに波に翻弄されていると、急に水面に体が押し出された。


水の圧力が無くなり、ようやく呼吸ができるようになった時には、私たちは川べりに打ち上げられていた。



 顔をあげ周りを確認するが、どこまで流されたのか全く見当もつかない。


セイランを見ると、肩のあたりから出血していて顔色は真っ青だった。


 急いで水から引き上げ、乾いた岩の影に寝かせ濡れた服を脱がせる。

傷は思ったよりも深くなかったが、水の中にいたせいか失血が多い。服を破り傷口をきつく縛る。


 冷え切って意識のないセイランの姿を見て、彼女を失ってしまうかもしれないという考えが頭をよぎり、情けないことに手が震える。



 とにかく温めないと、と思い固く絞った布で濡れた体を拭いていく。


 さすがに肌着まで脱がせるのはためらわれたので、水気だけでも取ろうと布で拭いていた時、彼女の腿の内側になにかがチラリと見えた。

 素肌をなるべく見ないようすぐに目をそらしたのだが、一瞬見えたものに見覚えがある気がして、どうしても確認しなくてはならないと頭の中で警鐘が鳴った。




「…………まさか」


 意識のない彼女の足を持ち上げて、腿の内側を見る。

 


 足の付け根に近い部分には、聖女のしるしがあった。


 本物の聖女の足裏にあったものなど比べ物にならないくらい、完璧で美しい形のしるし。一目でこれが聖女の証だと分かるほどの神秘的な造形だった。



「なんてことだ……セイランが……本物の……」


 まさかこんなところにしるしがあるとは……今まで誰にも気づかれなかったわけだ。

 

 こんなタイミングで知ってしまって、どうすればいいのか。

 私は彼女の美しいあざを見つめながら、必死に考えをめぐらせていた。


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