第16話
巡礼の旅は、時々トラブルがありつつも順調に進んでいた。
当初予定していた日程よりも早く進んでいるので、ある時騎士団長さんがこんなことを提案してきた。
「しばらく野営が続いたし、この先の町で宿を取って少し旅の疲れを癒してはどうだろうか?ずっと休みなしで来たから、聖女様もお疲れだろう」
そう言って私に対し、ちょっと気遣わし気な目線を送ってきたので、ここんとこ元気のない私を心配してくれたのかな?と思った。
司祭様もそう思ったようで、すぐに同意した。
「そうですね。馬車や武具の調整もそろそろ必要だと思っていたところでしたし、少し長めに休みを取りましょうか」
司祭様が了承したので、私たちはその町で数日滞在することが決定した。
その町は運河が通っていて、物流が盛んな商業地区で有名なところだった。
ド田舎村から出たことのない私はこんな大きな町に来たことがなかったから、どでかい壁門を見ただけで完全にビビッていた。大都会!こんなにたくさんお店が並んでいるのみたことない!
「ねえ、お姉ちゃん!せっかくのお休みなんだから、僕らと出かけようよ!」
「美味しいスイーツの店とか行きたくない?僕ら案内してあげるよ」
大都会にびびる私をよそに、双子はテンション高めにお出かけに誘ってきた。
「す、すいーつ……?甘味処ですかね……?いや、私お金持ってませんし……」
「だったらあなたの財布として俺をお連れください聖女様。移動の足にもなりますのでお役に立ちますよ」
「騎士団長さんはどうして椅子とか財布とか人間以外のものになりたがるんですか?奢ってもらうわけにいかないので私は結構です」
私たちの会話を横で聞いていた騎士団長さんがお金を出すと言ってきたが、それはお断りした。
砂糖をふんだんに使った菓子店なんて、絶対高いに決まっている。
こちとら甘味といえば花の蜜を吸うとかいうレベルの暮らしをしていたのだ。サラサラの白砂糖が売っているのを見たことがあるが、値段を見て目玉がとびでそうになった。
砂糖を食べなくても生きていけるのに、そんな嗜好品なんかに大枚を払うなんてもったいない。
「巡礼のお仕事の経費として計上しますから行きましょう聖女様。滞在する町の様子を知ることも大切なことですよ。お仕事の一環です」
司祭様がそう提案してきたので、結局みんなに押し切られる形で、スイーツ店なるものに行くことになってしまった。
宿に荷物を置いて部屋を出ると、双子と騎士団長さんと司祭様が勢ぞろいして待っていた。
「え?まさかと思うけどみんなで行くんですか?」
「僕らは嫌だって言ったんだけどねー警備が薄くなるから三人だけじゃダメだって~」
「この面子じゃ目立ちすぎるから余計に危ないんじゃない?」
「双子は国内屈指の魔術師ですが、見た目で言えばまだ子どもです。女性と子どもだけでは変な輩に目を付けられるかもしれないですから」
双子も司祭様には反論しにくいようで、そのまま総勢五名でスイーツ店へと向かう。
が、目立つ。
すんごい目立つ。
まず司祭様が目立つ。いつもは修道服を召してらっしゃるので、髪も長いので中性的な印象なのだが、今はお店に行くためか普通のシャツにズボンといういで立ちだから、ただのカッコいいお兄さんになっている。
そして騎士団長さんはタンクトップ。そして剣しょってる。
なんでタンクトップ?ガチムチ丸出しでまあ強そうだけど、職業不詳の不審人物にしか見えない。
そして双子はいつもの魔術師の制服じゃなく少年ぽい半ズボン。可愛い。半ズボン可愛い。可愛いが×2だから余計に可愛い。冷静になってみてみると、双子の容姿はとびぬけて可愛いと思う。だから聖女様のおもちゃにされたんだろうけど、可愛いが×2ってとにかく人目を引く。
このメンバ―にヴェールを被った怪しい女が加わるんだから、なにつながりの集まりなのよと目立ってしょうがない。
目的のスイーツ店とやらに着いた時、店員さんがぎょっとして、慌てて出てきた店長さんが、こちらが何かを言う前に全てを察したみたいな顔になって、そのまま店は私たちの貸し切りになってしまった。職権乱用みたいで気まずい。
「どれでも好きなものを選んでください。セ……聖女様はどういったものがお好きですか?このフルーツたっぷりのケーキは今日のおすすめらしいですよ」
「気になるの全部頼んで分けっこすればいーじゃん!ね、お姉ちゃん」
「このフレーバーチョコレートも美味しそう。店員さーん、お勧めを適当に見繕って」
「あなたの財布はここに居ますから、どうぞ遠慮なく頼んでください!」
ふるーつけーき?ちょこれーと?
あれ?これ食べ物なの?宝飾品なにかじゃないの?
だってショーケースの値段をチラッと見たら、目ん玉飛び出そうな数字が並んでたよ?
見たこともないお菓子を前にして私が固まっているうちに、気付けば皆がいつの間にかいろんなケーキや焼き菓子を注文してくれていた。
アワアワしている私を他所に、まるで綺麗な宝石のような見た目の菓子がいくつも並べられていく。
芸術品みたいなティーカップに淹れられた紅茶と共に、色とりどりの菓子を皆がニコニコしながら勧めてくる。
さ、どうぞと言われたが、私は手を付けることができなかった。
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