第12話
馬車の中で司祭様は、『双子は聖女様を死ぬほど恨んでいるので、適度に距離をおいてください』とアドバイスしてきた。詳しくは言えないが、昔、小さくて可愛い双子を聖女様はおもちゃとして弄んで、双子たちの尊厳をバッキバキに折りまくったらしい。
だから双子は、自分の身を守るために必死に努力をして、あの年齢で正式な魔術師の資格を取得したのだという。
ウチの弟たちと変わらないくらいの歳だっていうのに、努力したんだなあ……。
双子が不憫でならないが、聖女様がやらかしたことを私が謝っても意味がないので、司祭様の言う通り距離を取るしか私にできることはない。
その話を聞いた私は、彼らの近くでは空気に徹すると決めた。
***
……距離を取れと言われたその翌日から、逆に双子がぐいぐい来るようになったんだけど、どうしてかな?
「ねえセイジョサマ。コレ食べるぅ~?昔アンタが僕に食べさせたムカデ入りクッキーだよぉ」
「ねえセイジョサマ。尻からしっぽが生える魔法かけてあげようか?僕にさせたのと同じように、四本足で歩いてワンと鳴いてみてよ」
軽いジャブみたいに言われる思い出エピソードがいちいちエグイよ聖女様。
お前の罪を忘れるなと言わんばかりに双子たちは私に付きまとって色々過去の悪行をお知らせしてくるようになった。
見かねた騎士団長さんが、二人を窘めるが、『楽しく会話しているだけですがなにか?』とかえされてしまい、昔の話をされること以外は特に実害もないので、それ以上どうしようもない。
私も、自分がやったことじゃないので正直他人事として割と受け流していたので、特に気にしていなかったのだが、ある日移動の休憩中に、司祭様も騎士団長さんも近くに居ない時に、双子に『ちょっと手伝って~』と呼び出された。
「ちょっと見てほしいものがあるんだけど~」
「はあ、私にですか?なんですかね?」
「こっちこっち」
森の近くに誘導されて、あまり皆から離れるのは……と思った瞬間に、『ズボッ!』と地面が抜けて私は無防備に落とし穴に落ちた。
「ぎゃはは!ひっかかってやんの!いっつも自分がやる手なんだから警戒しろよ!」
「ウケる~穴のなか、ミミズ大量に入れておいたからさっ。アンタ僕らにしたときは、蛇だったんだからミミズだなんて優しいでしょ~?」
「……」
「あれ?返事ない?ミミズで気絶した?」
「……違います……落ちた拍子に足折れました」
「……へ?マジで?」
はい、折れましたが何か?
さすがにやばいと思ったのか、双子は急いで穴から救出してくれたが、足は右の足首がぽっきりいってる。
「うわ……ホントに折れてる…………っで、でも!アンタがしたのと同じことなんだからな!僕ら謝らないし!それに聖女なんだし自分でそれくらい治せばいーじゃん!」
二人してわーわーとうるさいので、ガッと双子の頭を掴んでゴチン!と頭突きした。
「ぎゃ!」
「いった!なにすんのさ!」
未だ反省していない二人に、私は腹から声を出して怒鳴りつける。
「何すんのじゃないわ!なんつういたずらしてんの!落とし穴ってえのはねえ、あんたたちが思っているより危険な罠なの!しかもこんなに深い穴、首の骨折ったり、生き埋めになったりする可能性だってあったんだよ?!穴が深すぎるのよ穴が!なにをどうやったら五メートル級の穴を掘れるのよ!埋め戻すのも大変でしょうが!
今回は足の骨だけで済んだけど、もし間違って小さい子どもが落ちたりしたら大変なことになるんだからね!
いたずらがしたいなら、寝ているあいだにひげを書くとかそういう安全で面白いことにしなさい。ホラ、分かったら返事!」
「へっ?あっ、ハイ」
「ひげ?え?ハイ」
ウチの弟もそうだったが、男の子というのは危険な遊びほど魅力的にうつるらしい。多分男子というのはちょっとアホなんだと思う。それ確実に死ぬよね?てみれば分かることを平気でやろうとするから始末に負えない。
だから危ないことをしているのを見つけた時は、殴り飛ばす勢いで叱ったし、どのように危険なのかを滾々と説教したものだ。死んでからでは遅いのだ。
病気やケガなど、どうやっても避けられない命の危機がこの世にはたくさんあるのに、いたずらなんぞで死んではたまったものじゃない。
いたずらとは、安全で面白いからいたずらなのだ。
命大事に、といった趣旨の話をくどくど言っていたら、折れたところが洒落ならんくらい腫れてきたので、慌てて添え木になるような棒を探させて、ハンカチで固定した。しょぼい癒しの力を死ぬ気で自分にフル稼働させたらなんとか骨がつながった気がするが、正直歩くと死ぬほど痛い。
しつこく説教したおかげか双子が責任を感じたらしく、二人係で私をみんなのところまで運んでくれたので助かった。まあ運び方が丸太の持ち方だったのが少々どうかと思うが。
怪我をした私と見た司祭様と騎士団長さんはものすごく驚いて、双子がなにかしたんだろうと激高していたが、『こけた私を双子が助けてくれた』ということにしておいた。
さっきメチャクチャ説教したせいで二人ともぺしゃんこにヘコんでいるから、もう一度大人から怒られたら立ち直れなそうだ。すごい魔術師なのかもしれないが、しょせんはまだ子どもなのだから。
ともかく私を安静に休ませるのが先決だということで、急遽寄る予定の無かった町で宿を取って怪我の様子をみると司祭様が決めた。
一番近い町は女神教が浸透している地域だったので、宿は聖女様ご一行と知って一番いい部屋を用意してくれた。
フツーに生きていたらこんな高級宿一生泊まることはないから、本当だったら隅から隅まで見て回って満喫したいところだが、如何せん体調が悪すぎて喋るのもしんどい。
フルパワーで癒しの力を使ったもんだから、頭がぐわんぐわんして熱も出ている。完全にオーバーヒート。
司祭様が珍しくまともに心配しているようだったが、とにかく寝かせてくれと言ってベッドに運んでもらった。
熱出すとか、いつ振りだろ……。いつも弟妹たちの看病に追われて、自分の具合が悪いとか考える余裕もなかったから、多分熱がありそうでも気合で治していた。
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