第7話
子どもの頃、私が初めて教会に足を運んだのはクソ親父を呪うためだった。
クソ親父が金だけ持って行方をくらました時、『よし、アレを呪い殺そう』と思い、浅はかにも私は本気で父親を呪いに教会に向かったのだ。
そんな邪な気持ちでお祈りに来たけど、女神像の前で祈り続けているうちに、『まあ呪い殺しても腹は膨れないよね』と、急に自分のしていることがばかばかしくなり、いつの間にか荒れた気持ちが凪いでいた。
それからも、いつもイライラもやもやした気持ちで来ても、お祈りをして帰るころにはなんかスッキリしていたので、私はなにか嫌なことがあるとすぐお祈りに行くようになった。
だから私はこの祈りの時間が好きで、教会で雇われるようになってからはそれこそ毎日欠かすことなくお祈りしていた。
ちっぽけな祈りが女神様に届くとは思っていないが、祈りはあくまで、大切なひとのために幸せを願うものなのだということをおじいちゃん神父さんに教えらえてから、私は一生懸命聖典を読み、書かれている祈りの言葉を全て覚えて、それからは家族のことを考えながらお祈りをしている。
(あ~なんか今日調子いいなあ。活舌絶好調で全然かまない)
調子に乗って祝詞を節つけてメチャクチャテンポよく言っていたら、お祈りハイみたいになってきて、いつもより多めにパアァァとお掃除魔法が飛び出した。
その効果でほこりっぽい空気がどんどんきれいになっていく。お掃除魔法とは私が勝手に名付けたのだが、真面目にお祈りをするようになってから、この現象が起きるようになった。
最初にこれが起きた時、こりゃ掃除の手間が省けた!と喜び勇んでおじいちゃん神父さんに報告したら、『便利なお掃除係に使われるから村のみんなには黙っときなさい』とアドバイスしてくれた。
祈りの言葉が終わって顔をあげると、ほこりだけでなく部屋全体のシミや汚れまで丸洗いしたみたいにすっきり綺麗になっていたので、私は大満足だった。祝詞は節をつけたほうが効果倍増するのかもしれない。
初仕事としては上出来じゃないかしら~とどや顔で立ち上がって振り返ると、後ろに控えているこの教会の神父様や赤髪騎士団長さんたちが茫然としてこちらを見ていた。
すると我に返ったように神父様がこちらに向かってダッシュしてきて、私の手を取って跪いた。見ると神父様めちゃくちゃ泣いていた。えっ?なんで?
「聖女様の奇跡をわたくしこの目で直接拝見できましたこと、生涯忘れません!あのような美しい祈りをわたくしは初めてみました……!ああ、あの神々しさを言葉では伝えきれません!聖女様、ありがとうございました……!」
「へ?そうなんですか?あ、それはどうもありがとうごさいます?」
あの変な節つけた祝詞がそんなに気に入ったの???
お掃除魔法は正直、掃除と花粉症軽減くらいしか効果ないとおもうんだけど……。
あ、そうか、本当の聖女様は女神さまの御使いだとされているから、神聖視されているんだよな。こんなしょぼい効果でも聖女補正がかかってすごい奇跡みたいに思っちゃってるのか。
ニセモノなのになんか申し訳ないなー。
泣く神父様に手を握られ、申し訳なさいっぱいで動けずにいると、赤髪騎士団長さんもこっちに近づいてきて、なにをするのかと思ったら、いきなり地面に突っ伏して土下座をした。
「聖女様……!俺は、今まで聖女などというものは、聖教会によって作られたただの傀儡だと思っていて……あなたの酷い態度ばかりが目について、少しも敬意を払わずにいた。だが今、初めて聖女の祈りというのを目の当たりにして、己の思い込みと浅慮に猛省している!本当に済まなかった!」
そう叫んで赤髪騎士団長さんはでかい図体を丸めて地面に頭をこすりつけている。えっ怖い怖い。本物聖女様の前評判も怖いけど、騎士団長さんの思い込みの激しさも怖すぎるよ。つーか私ニセモノだし謝る相手を間違えているんだよ。
「……俺のこれまでの失礼な態度がそう簡単に俺の許されるとは思っていない。だからどうか、あなたの気が済むまで踏んでほしい!」
「いや、別に謝る必要など……って、踏む?……あの、私、ちょっと聞き間違えたみたいで、もっかい言ってくれます?」
「踏んでくれ」
「聞き間違えてなかった。ん?どういうこと?踏む必要ある?いや、ないよね。私が踏む理由が見つけられないので立ってください」
「嫌だ!!聖女様!どうか俺を踏んでくれ!足置きか椅子にしてくれて構わない!」
ダメだ、話が通じない。後ろのほうで司祭様がこれみよがしに懐中時計を取り出して『マダカナー』て顔してる。
いくら言っても騎士団長さんは床に四角く蹲って道をふさいでいるので、しょうがないからなるべく踏まないようにジャンプして跨いでいった。
着地に失敗して足の小指かなんかヒールで踏んだらしく、『はうっ!』と変な声が聞こえたけど気付かないふりをした。
騎士団長さんはちょっとアレな人だったのかな?なるべく関わらないようにしよう。
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