第19話 琥珀の中の夢達 ???の記憶?

     3 ???



 私は――。私は? 僕は琥珀?

 ぞくっとする寒気で僕は目覚めた。どうやら湯船の中で眠ってしまっていたらしい。お湯もかなり冷め、腕を湯から出すとその寒さに震えが来た。

(身体冷やしちゃったな)

 湯船の外に出るのは躊躇われるが、お湯自体がもう冷え切っていて中に入っていても寒い。勢いよく湯船を出てシャワーの蛇口を捻るとモワッと湯気が広がった。湯船で寝てしまうほど自分は疲れていたのだろうか。熱い水流が冷たく硬くなっていた身体を緩めてゆく。

 シャワーの音に混じり音楽が聞こえてきた。短いメロディが三度繰り返されて消える。僕はシャワーを止めて携帯電話が置いてある洗面所に出た。

 留守電三件。タオルで髪の毛を乱暴に拭きながらリビングへ移動する。

メッセージを一件送信してから電話を掛ける。

「もしもし淡縞さんですか? 今電話大丈夫ですか? はい。ちょっと寝ちゃってたみたいで」

仕事上のやり取りと、探していた本を見つけてくれたというそんなやり取りが終わると、僕はもう二件の電話の主に電話を掛けようとした。すると、急に携帯電話が震え音を奏でる。僕は驚き画面を確認せずにその電話に出た。

 男の声。しかもとても慌てている様子で一方的な情報が頭の中を揺らす。

「えっ?」

 聞こえて来た言葉を頭の中で反芻する。

「琥珀君。実祈が! 今すぐ昼呼病院に来てくれ」

実祈が? 先ほど留守電で実祈の声を聞いたばかり。事故?

 何かが崩れてゆく。

(そうだ。これは夢なんだ)


   ◇◇◇


 いつの間にか僕はタクシーに乗り携帯電話を耳に当てている。

 二件のメッセージがあります。

「琥珀、今日何の日か覚えてるよね? ケーキ買って行くから。マロンケーキでいいよね?」

 もう一件のメッセージを再生します。

「もしかして寝ちゃった? ちょとトラブルで今終わったんだけど、急いでそっち行くから起きたらメッセージ頂戴」

 元気な彼女の声。これから降りかかる不幸をまるで知らない声は僕の後悔を呼び起こす。

(もし、自分が電話に出ていたら。一分彼女と話していたら事故に合わなかったんじゃないだろうか)

 頭の中を色々なもしもが浮かび、それは荊の蔦となって僕を縛り付けた。

「お客さん苦しそうですが大丈夫ですか?」

 茨の繭の中に閉じ込められた僕は身動きも返事も出来なかった。

(早く実祈の元へ)

「では飛ばしますね。地獄へ」

 タクシーの外は闇。運転席の骸骨はカタカタ笑っている。深淵の底に飲み込まれるように僕は堕ちていった。


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