第16話 間奏 月の光の下で泡となる 死神空白
間奏 月の光の下で泡となる 死神空白
水の中をゆっくりと沈んでゆく。月が歪み、そして遠くなってゆく。
私、死神空白という存在は考えていた。だけれどもその考えは泡となってどんどん自分から離れてゆき、やがて消えてしまう。苦しくは無い。ただ静かに闇に向かって堕ちてゆく。いつしか私は考えるのを止め、ただ思い出していた。
◇◇◇
「結局、お主の想いなんて中身のない空っぽの器だったのだ」
黒いフードにひょっとこのお面を被った人物が言う。顔は見えないが、私はこの人物が誰か知っている。これは私だ。
「違うっ!」
「何が違うのだ。お前は神祈に心惹かれていた。なのに外見が同じとは言え中身が違う者に会ったばかりで心を許そうとしている。結局お前が愛したのは神祈そのものではなく、神祈の外側だけだったのだよ」
狐の仮面を被った人物が言う。これも私だ。
「違うっ……」
何か黒い物に押し潰されてしまいそうで、必死に声を絞り出そうとするが唇から出るのは弱々しい声だけ。
「違うなら何故この世界に連れ戻さなかった。中身を消し去らなかった」
最初に彼が神祈の身体に入って目を覚ました時は怒りもした。神祈が侮辱されたと思ったからだ。
「今でも神祈の事想ってるし、別に奏流に心を惹かれてる訳じゃないの!」
そう。彼は神祈に比べて粗雑でガサツである。ただ、奏流の流した涙が、その想いが何度も頭をよぎるのだ。
「でも、消し去っていい魂じゃない!」
「代わりに自分が泡となって消えゆくとしてもか?」
お多福のお面を被った私が私に向かって言う。
「それは……」
「お前には役目がある。神祈を護るナイトでならねばならぬ。それを忘れればこの世界ごとお前の存在価値が消えるという事を忘れるな」
「……」
「あの神祈は所詮偶像。ただの人形。不確定要素が増えるのは望ましくないが、それよりも接触する事で私の神祈を好きという気持ちが揺らぐ事があってはならない。奏流には精神世界で消耗して消えて貰おう。何より大事なのが神祈を護るという事」
「其れこそが私の祈り……」
「其れこそが僕の祈り……」
そこには青年が立っていた。これは私? 。
「おやすみなさい」
足元に波紋が立ち、私は深い水の中へと沈んでいった。
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