第13話 いつかの月夜の晩に 3

   いつかの月夜の晩に 3



「あれ? 所長がこんな時間に居るなんて珍しいですね。夜はできるだけ家族で食事するっておっしゃってませんでしたっけ?」

休憩場で女性職員と軽く雑談していると所長が入ってきた。確かにこの時間に彼がここにいるのは珍しい。

「二人ともお疲れ様。女房は同窓会。娘は友達の所に泊まりで家に帰っても一人だからな」

「所長の奥さんは綺麗で料理も上手ですもんね。娘さんも美人だし所長寂しいんじゃないですか?」

 お疲れ様ですと声をかける。丁度珈琲が沸いた頃だ。

「俺の家庭の事はいいさ。それより研究のデータ方どうなんだ?」

所長は苦笑いすると話を変えようとしてかこちらに声をかけてくる

「彼は優秀だから問題ないですよ」

 女性職員は意味ありげに笑って言う。

 僕はそんなこと無いですよと言いながらカップに黒い液体を注ぐ。

「はい。どうぞ」

「おぅ。すまんな」

「彼の入れるコーヒー絶品ですよねー。コーヒーの機械、私に触らしてくれないくらい拘ってるし」

「君が入れるコーヒーは薄かったり濃かったりするからな」

 僕はそんな話を適度に笑いながら聞き、自分のカップにコーヒーを注ぐ。

 それから数分研究についての話が続く。

「ゲームも程々にして仕事に早く戻ってくれよ」

 所長がテーブル端に置いてあったゲーム器を指さして言った。

「私はやらないですよ。所長もゲームしたりするんですか?」

「そうだな。昔はよくやったけど、今は全然だな」

「所長。僕は戻ります」

「あぁ。頑張ってくれ」

 所長の表情が一瞬だけ曇ったような気がしたので僕は早々に休憩所を出る事にした。

 待っていたエレベーターが開くと、中にいたゲーム機の持ち主が声をかけてきた。

「あれ? 先輩休憩おわりですか?」

「あぁ、所長が休憩所にきたからね。あと、ゲーム機を見て苦虫を噛み潰したような顔をしてたよ」

 少しオーバーに伝えると、彼は回れ右をしてまたエレベーターの中に戻ってきた。

「先輩だって一緒にやってたじゃないですかー。しかも鬼コンボ決めてくるし。はぁ、また小言かなー」

 ドアが閉まる前、ガラス越しに見えた月は遠くで白く輝いていた。


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