第11話 RPG 神官

  


(……起きて……)

(あぁ……そうだ起きないと……今ご飯を作ってやるからな)

 遠くから声が聞こえる。実祈が一階から呼んでいるのだろう。夏場だから傷みにくい物を詰めないとな。卵焼きにほうれん草を刻んで入れて……

(……起きて)

 今起きるから待ってくれ……ミニトマトにおにぎりは梅干しを入れて……

(奏流起きて!)

「唐揚げとハンバーグとどっちがいいか? ハンバーグだと冷凍だけど」

(……良かった)

「あぁ。空白か。どうしたそんな涙声で」

(うるさいわ。よく分からない事言ってないで早く起きて!)

(なんだろ。怒ってるのか?)

 身体を起こす。どうやら自分はベッドに寝ていたようだった。部屋には簡素なベッド以外他に何も無く、目に入ったのは一人の老人であった。

(神父様か)

 老人はコスプレでしか見ないような紺色の大きな十字架が入っている服を着て、頭には高い筒状の帽子を被っている。

「奏流よ。死んでしまうとは情けない」

(俺、死んだのか?)

 死とはこんなに寝て起きるみたいな感覚なのだろうか。生とは死の連続であり人は睡眠という死を迎え、そして朝、生を受けてこの世に生まれるといった話を聞いた事があるが、それにしてもあまりに現実味が薄い。

(一回死んでるからかな)

 神祈の魂を探した後、自分がどうなるかはあまり考えていない。空白に話をされた時も、あぁそうなのかくらいの感覚しか持たなかった。

(そうだ、余りに現実味が薄いんだ)

 自分が誰かに役を与えられて、その上を歩いているだけのような感覚にたまに陥る事がある。

(この人達を見ているからかもな)

 決められた場所で、決められた台詞をひたすら繰り返すだけの存在。

(さっさとクリアしてこの世界から出ないとな。それにしても空白は大人しいな)

 先程から何も話かけて来ない。様子もおかしかったし、少し気になる。

「はぁ」

 気持ちを切り替え変えようとベッドから降りようとした瞬間急に声がした。

「そうだよ。ほんと情けないなー。全然物語が進まないじゃん」

 少年の声。それは老人が発したものだった。あまりに外見から離れた声に神父を凝視する。

 無表情のまま少年の声で話す老人。それは単純に気持ち悪いものであった。

(さっきは普通の声だったし、何というかこれは意志のある会話のような気がする)

 こちらの気持ちを知ってか知らずか老人は話を続ける。

「まだ、街も出てないし、敵にも会ってないのに死ぬってある意味才能だけどさー。こっちが折角イベントだのなんだの作ってるんだから、少しは頑張ってよ」

「作った? 君がこの世界の主なのか?」

「そそ。ゲームマスターって呼んでくれていいよ」

 あっさり答えてくれた。

「この世界から出たいんだけど」

「じゃ、クリア頑張ってね。あと、外との接続は出来ないようにしといたから。また死なれても困るしね」

「外?」

「儂はこの村で神父をしておる」

 返ってきたのは低音の老人の声で、先程の少年の声とは似ても似つかない物だった。

「空白いるか?」

 多分先程言っていた外とはこの世界の外、空白の事だろう。確認の為に呼びかけてみたものの予想通り返事は無い。

「はぁ。ほんとやっぱリアルでアールピージーなんてやるもんじゃないな」

「セーブしておけば安心じゃよ」

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