第10話 RPG それを捨てるなんてとんでもない

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「装備品は装備しないと効果がないよ」

「装備品は装備しないと効果がないよ」

 見渡すとログハウスのような建物が数件広場を囲むように建っており、少し大きめの家が一軒。そして木々が周りを囲うように生えている。

「森の中のキャンプ場のようにも見えるけど、ゲームの中なのか?」

 光に包まれた次の瞬間に俺はこの場所に立っていた。空白が言っていた事から考えると、ここは精神世界なのだと思う。そして、一つの言葉しか話せなく、同じ場所を行ったり来たりしている人達。ロールプレイングゲームの世界観にそっくりだ。

 ロールプレイングとなれば基本は情報収集である。まだ話していない人と話そうとした時に急に身体に違和感を抱いた。そして何かに操られたかのように足が勝手に動く。

「なんだ! うわっ!」

 急な坂道を駆け下りている時のような感覚で、止まろうとしても止まれない。足が勝手に前に進もうとするのだ。

「おい。嘘だろ」

 歩くスピードがあがり駆け足になる。そして目の前にはログハウスが迫ってくる。

「止まれ! 止まれ! げひっ」

ゴンっ!

 その勢いのままログハウスの壁にぶつかる。咄嗟に腕を突き出したものの、勢いを殺しきれずに顔を壁にぶつけた。それでもなお足は勝手に動き膝が何度も壁に当たる。

(大丈夫?)

 空白の声が頭の中に響く。

「大丈夫じゃない。壁に突進し続けてる」

 痛みに耐えながらどうにか声を出した。

(えっ! 嘘)

 途端に足は動くのをやめた。身体の支配権が戻って来た。

「……もしかして、コントローラー弄ってたか?」

 今の足が勝手に動いた現象に対して、ひょっとしてという思いが走る。

(ごめんなさい。こういうゲームした事ないから)

 やはりか。ぶつけた額をさすりながらため息をつく。

「そのゲーム機には、お願いだから触らないでくれ」

 空白が外の世界でゲーム機の十字キー(移動の為のモノ)を弄った所為で、俺の身体が勝手に動いたって訳だ。

(触らないと奏流と会話出来ないわ。今、ゲーム機の魂の声を聞く事で奏流と話せてるの)

「分かった。十字キーにだけ触らないでくれ。あと他のスイッチもな」

 うっかりゲームの電源を切ってしまいでもしたら、どうなるか分かったものではない。

(分かったわ。で、そっちはどうなってるの?)

「よく分からないが、ゲームの中の世界みたいだな。ここから出る方法とか分かるか?」

(分からないわ)

「即答ありがとう。でもなんかないのか?」

(精神世界の事は正直分からないの。可能性としては成仏というか魂にまた寝てもらうとかだけど方法はさっぱり。一回精神世界から出てこれた奏流の方が詳しいんじゃないかな)

 俺は唇に指を当てた。ヌイグルミの中に取り込まれていた事は話したが、所々話していない事もある。

「そうか。取り敢えずゲームだからクリアしてみるしかなさそうか。歌音はそっちにいるのか?」

(居ないわ。ご飯食べに行ったみたい)

「えっ? こんな時に? 俺が壁にぶつかって苦しんでいる時に? 嘘だろ」

(居ないものは居ないわ。そうるん頑張れーって伝言を預かってるもの)

「あいつ後でシメる!」

(出て来れたらね)

「そうだな。それよりそっちは異変ないのか?」

 ヌイグルミの時は巨大化して歩き回ったと聞いているので心配になったのだ。

(こちらは今の所、異常はないわ)

「そうか、因みにこれが神祈さんの魂という事は無いよな?」

(多分違うと思う。神祈ではないわ)

「そうか、そんな都合よくいかねーか」

(それより、これからどうするの?)

「取り敢えず色んな人に話を聞けばこのゲームの目的がわかる筈だな」

 そういって俺は辺りを見回した。はたから見れば一人で話しているおかしな人だと思われてもしょうがない状況なのだが、こちらを気にかける者はいない。皆一様に同じ場所を行き来している。

「取り敢えずこちらはこちらで動いてみるから、そちらで何かあったら教えてくれ」

(分かったわ。色々なノイズが入ってこうして長時間魂の声を聞くのも難しいから少し休むわ。この場所からは離れないから安心して」

「あぁ、助かる。そっちは任せた」

 そして、空白の声は聞こえなくなった。

「さて、どうすっかな」

 一番大きい家は進行イベントが起こりそうな気がする。無いとは思うがいきなり戦闘になる可能性がある。まだ行かない方がいいだろう。

(あれ? もしかして魔物と戦闘とかあるのか、このゲーム)

(下手すれば死ぬんじゃね)

「空白ちょっといいか?」

(……)

 どうやらこちらからはコンタクトが取れないようである。精神世界で死んだらどうなるか聞きたい所ではあったが、よくよく考えれば空白も精神世界の事はあまり分かっていない様子だった。多分聞いても無駄だろう。その事は考えないようにして、調べる為、近くのログハウスの中に入る。

「おじゃましまーす」

 扉を開けると家の中にいたエプロン姿の若い女性と視線が合った。女性は無言でこちらをじっとみている。女性は何も言わず、奏流もドアノブを掴んだまま固まっていたのでそのまま数秒睨み合いが続く。

「失礼しました」

 耐えきれなくなりドアをしめた。

「なんだあれ、めっちゃ怖いんだけど」

 小声で呟く。ゲームだとは分かっていても不意打ち+無反応は恐怖を覚える。

「行かないと駄目だよなー」

 意を決して短く息を吐いた後に扉を勢いよく開け、その勢いのままに女性に話しかける。目は合わせない。

「すいません。ちょっといいですか?」

「困ったわ。どうしましょう」

「どうしましたか?」

「困ったわ。どうしましょう」

 またしても同じ台詞の繰り返しである。

「他の人の話を聞かないと進まないパターンだな」

 俺は改めて部屋の中を見渡した。大きなベッドが一つとタンスが一つ。あとツボが一つ。一体どうやって生活しているのか不思議に思ってしまう。トイレとかどうするんだろう。まぁ、ゲームだから仕方がないのかもしれないが。

 そうだこれはゲームなのだ。全部作り物だ。人も台詞を言うだけの作り物だ。割り切ってしまえ。

「そう決まればアレだな」

 アールピージーの鉄板。勝手に人の家に入り込みタンスやツボを探して破壊、窃盗!

 置物のように立ったまま、ただ一点扉を見続ける女性は取り敢えず無視する。

(急にこっちに来て襲ってきたりしねぇよな……)

 奏流はツボを調べた。しかし何も見つからなかった。

(何もないか…… 相変わらず突っ立ったままだしタンスも調べるか)

 ちらりと女性の方を見たが、こちらを見る事すらせずにじっと立ち尽くしている。

(本当に自由意識がない唯のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)なのか)

 奏流はタンスの中を調べた。 おっ! なんと。

 奏流は黒のパンティを見つけた。

(いやこれはマズイだろ。布面積せまっ!)

 奏流は黒のパンティを手に入れた。装備しますか?

(いやいやどう見てもあの女性の物だろ。色々問題あるだろ)

奏流は慌てて誘惑のパンティを捨てようとした。

 それを捨てるなんてとんでもない!

(いやいやいやとんでもないって! 確かにゲーム中、大切な物は捨てれないシステムあるけどっ!)

 奏流は混乱している。

 奏流は混乱している。

 急に奏流の足が勝手に動きだした。そして女性の脇を通り過ぎて壁に衝突する。

「げふっ」

(目を離した隙になにやってんのよ!)

 頭の中で空白の声がした。

「いや、誤解だって! コントローラーから手をはなしっ痛っ! 痛っ」

 ガンガンと膝が壁に当たる。

(そんな事言って、下着から手をはなさないじゃないの)

「いや、離したくても離せないっ痛っ! 痛っ」

 ゴンゴンと膝が壁に当たり、暫くすると世界が真っ赤に染まる。

 やがて目の前が真っ白になり、薄れゆく意識の中で女性の声が聞こえた。

「困ったわ。どうしましょう」


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