第8話 いつかの月夜の晩に2
いつかの月夜の晩に2
「先輩なんですかこの油絵」
「あぁ、この部屋は殺風景だからね」
白い部屋。先程持って来た絵を飾ったばかりだ。
「何が描いてあるんすかねー。悪魔召喚?」
「そんな物騒な物じゃないと思うけど何だろうね」
僕は壁から絵を外した。花を摘んでいる少女の絵だなんて言えない。
「んー。絵心ないからさっぱりですよ。あ、それより先輩」
「なんだい?」
「いや」
彼はガラス越しに眠っている女性を見ていた。
「よく寝てるよ」
「目、覚ましますかね」
彼は言ってから顔を曇らせた。こちらを気遣っての事だろう。
「どうだろうね。それよりデータの方どう?」
「うーん。理論値に近づかないんですよねー。なにかの原因があるんでしょーけど」
「まだノイズの原因は?」
「そっちもさっぱりですよー」
「そうか。後で僕も見てみるから、今日は帰っていいよ」
「すみません。先輩も無理しないで下さいよ」
「あぁ。そうだね」
「あとこれ。お土産兼誕プレ」
一緒にするなよと笑って言うと、彼はハピバーという言葉を残して部屋を出ていった。
礼を言いそびれたな。彼なりに気を使ってくれているのだろう。
僕は苦笑いした。
「彼はいいやつだよね」
カーテンを開けると月が夜空に浮かんでいる。
僕は窓際の椅子に座って彼女に語りかけた。
「そうか。もうずいぶん経つんだね」
黒髪の女性はベッドでその瞳を閉じている。普通に寝ているだけのように思えた。
「時間は人に平等に訪れない。君の時間は止まってしまったままだ」
窓の外は冷たい世界。そして冷たさの象徴である月がその光を投げかけている。
ガラスに手を当てる。急激に奪われていく熱が逆に自分の存在を感じさせる。
「この間は眠り姫のお話をしたっけな。今日はゲームの中に閉じ込められた少年の話をしようかな」
「一緒にやったテレビゲーム覚えている? クリスタルを護る戦士達の戦い」
冷たい光の中で眠る女性に僕は話かける。その中に暖かい光を灯る事を期待しながら。
ただ、今は冷たい夜の時間。
彼女は一体どんな夢を見ているのだろうか。
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