ごはんと名前

「あたしリカコっていうの。リコでいいよ」

そうか、まだ名前も知らなかったんだ。

「登録しなおさないとね」

「登録って」

「ケータイ」

「何て登録したの」

リコがぼくのケータイをのぞきこむ。

「ごはん」

「ごはん」

「ごはんおごった女の子にしようと思ったけど、長いし」

「そう、ごはん。それでもいいよ」

「いいよ、リコって入れておく」

「やっぱりそれがいい」

リコがぼくを見て笑う。

リコと入った居酒屋。

そう、居酒屋だよねここは。

店の中は少し暗くて、壁が黒光りしている。

お客さんはちらほら。

リコとぼくはカウンターにすわっている。

店内がやけに明るい居酒屋より

こっちのほうが好きとリコは言う。

でも何なんだろう、店の中に流れているレゲエは。

そんなにうるさくはないけれど、

演歌が流れていそうな雰囲気なのに。

でも、居酒屋で演歌が流れていたことってあったかな。

思い出そうとしてみたけど、思い出せない。

「ねえ、キーちゃん。焼き鳥に七味かけていい」

「いいよ」

リコはぼくの名前を知らない。

でも、ぼくはいつのまにか

キーちゃんということになっている。

最初は自分のことだとは思わなくて、

リコが友だちのことを言っているのかと思って、

なんとなく会話がかみ合わないでいた。

「でも、何でキーちゃんなの」

「だってキーちゃんって感じだよ。絶対ヤーちゃんじゃない」

「ヤーって」

「トモヤーとかテツヤーとか」

そうだね。たしかにヤーちゃんよりはいいけどさ。

でもさ、キーがついてるわけでもないんだよね、ぼくの名前。

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