曲がり角

「今日はスーツなんだね。カッコイイよ」

「今日は仕事だったから。リコちゃんは仕事してないの」

「見ればわかるじゃん。プーだよ」

「家は」

「そのへんだよ」

「そのへん」

「大丈夫。家賃は親が払ってるから。

キーちゃんのところにころがりこんだりしないよ」

「でも、そろそろリミットなんだ」

「何が」

「家賃。親はね戻ってきて嫁に行けっていうの。

いくらでもいるって。公務員とか銀行員とか」

「もうそんな年なの。そんなには見えないけど」

「そろそろね。曲がり角」

「そうか」リコは焼き魚をつつきはじめる。

「キーちゃんは結婚したことある」

「ないよ。しそうになったことはあるけど」

「どうしてしなかったの」

「突然時間が合わなくなって、気がついたらいないんだ」

「そう。あるよね。そういうこと」

リコはしみじみしている。

「今日は何してたの」

「ちょっとバイト。

つまんない仕事だけど、単純作業だから。

でも、ごはんつきだったの。

お金はあんまりもらえなかったけど」

ぼくとリコの後ろを香水が通り抜けていく。

ぼくは通り抜けていった方向をチラリと目で追う。

「どうしたの」リコが敏感に反応する。

「別に」

「そう」リコにはナツミの姿は見えないようだ。

でも、何でここにいるの。

ぼくはナツミが歩いてきた方向を見た。

少しきつそうな背広を着た男の後姿が見える。

髪にはかなり白髪がまじっている。

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