その11 手術
手術3日前に入院。
個室に案内されて戸惑う私。
確か個室ってお金かかるんじゃ……聞いてないんだけど……。
――と思っていたら、術前術後の人は個室と決まってるそうです。
差額ベッド代とかはかからないとのこと。
それは大変助かった!
その日に手術の具体的な説明。
というより、手術の危険性とそれを踏まえて手術OKか、の確認です。
手術は麻酔などもしますし、どうしても危険が伴うもの。
100%確実に無事に終えられる、という保障はないのです。
各種承諾書にサインとはんこを押して提出しました。
手術には前回の手術を担当してくれた先生も立ち会うことに。
こうやってお勉強していかれるわけですね、分かります。
後は術前の検査。
ここでも血液検査をしました。
全身麻酔をするので、肺機能の検査も。
私、タバコ吸ってるのに肺機能とってもよかったんですが、その機械大丈夫っすかね?
タバコといえば、全身麻酔の前のタバコは厳禁です。
呼吸困難になったり、血流が悪くなったりするのです。
本来なら1ヶ月くらい前から禁煙するべきだそうなのですが、その辺まで思い至ってなくて入院してからなので、わずか3日前からの禁煙でした。
術前の禁煙は重要!
ここ、テストに出ますよー。
手術当日は、家族、親戚一同がきてくれました。
父が
「最後やから、足触っとこう」
って右足を撫でてくれたのを覚えています。
私は当事者なのでつらいのは当然なのですが、義足で頑張ると腹を括っていましたし、なによりつらいのは両親だったろうと思います。
後に聞いた話だと、私の手術中、待合室でみんな泣いてた、と聞きましたし。
心は落ち着いていて、これが私の足と向き合う戦いの第一ラウンドだと静かにそのときを待っていました。
「みんな、足撫でていったら身体の悪いとこ持っていってあげるでー」
なんて言う余裕もあるくらい。
そしてそのときがきました。
前回は車椅子での移動でしたが、今回はベッドでの移動です。
いってきま~す、と笑顔で。
お守りを持って。
そのお守りは、前回書いたクラブハウスのみんなから届いたお手紙の入った封筒。
みんながついていてくれる、大丈夫だ!
まずは腰椎に麻酔を刺します。
これは手術のためじゃなくて、術後の痛みをとるための麻酔。
ボタンを押すと麻酔液が出て痛みを和らげてくれる仕組みになってます。
詳しいことは知らんけど。
看護師さんが笑顔で声をかけてくれました。
でも、看護師さん、その手に持ってるのは……気管内挿管に使う喉頭鏡ですね……。
聞いたことはあるけどそんなにでかいんですね……。
様々なモニターが装着されて準備完了。手術開始です。
「眠くなりますよー」
といわれて、
「あれ? 眠くなんないよ??」
と思ってたら、いつの間にか寝てて手術終わってました。
眠ってたというより意識が切断されてた感じですね。
「手術終わりましたよ~」
――の声で目覚める私。
まだ頭がぼーっとしてます。
ベッドに移動された感覚があって、気づいた。
お守り!お守りは回収したか!?
「あの……おまもり…おまもり……」
一生懸命訴えるのですが、まだ呂律が回ってなくて先生には通じず。
看護師さんが察してくれてお守り無事に回収しました。
部屋に戻るとみんなが出迎えてくれました。
まだ意識がはっきりしてなくて、ぼーっとしてました。
まあすぐ回復しましたが。
あー、もう足ないんだなー、とぼんやり思ってました。
母が一晩ついてる、とのこと。
しかし断りました。
完全看護だし、これからこの身体で生きていくという一日目の夜。
私は静かに時を過ごして、向き合う作業に入ろうと思ったのです。
――あんなことさえ起きなければね。
ことが起こったのは深夜。
夕食までは普通に大丈夫だったのですが、突然の激しい痛みに襲われました。
まさに足をちぎられるかのような痛み。
腰椎に刺してある麻酔のボタンを押すのですが効かない!
座薬をもらっても全く効かず。
翌朝は朝食を食べる余裕すらありませんでした。
もう、一晩に何回もナースコール押して迷惑かけてしまったのですが、あの痛みだけは本当に無理!
昼ごろには家族もきてくれたのですが、私の様子をみてびっくり。
そりゃそうだ。
その日の夜も痛みは続きます。
痛み止めを打ってもらうんですが、ぜんぜん効かないんですよね。
そしてナースコール。
「いだいです……(´;ω;`)」
「前の痛み止めから2時間経ってないのでまだダメです」
「Ω ΩΩ< な、なんだってー!!」
そんな夜を過ごし、明け方に頂いた薬でなぜかケロリと痛みはとれました。
あれ、なんだったんだろう。
切断するとよく幻肢痛というのが発現するらしいですが、それだったのかもしれません。
痛み止め効かないって言いますし。
痛みがなくなったのを確認して、看護師さんが車椅子に乗せてくれました。
着替える余裕もなかった術衣もパジャマに変更です。
その後、ベッドに戻ったのですが退屈なので一人で車椅子に乗ってウロウロしてたら
「と、遠野さん、大丈夫なの?」
看護師さんがびっくりしてました。
散々な夜を過ごしましたが、なんというか足をなくしてアンニュイ、な気分になる余裕もないくらいだったのでむしろよかったのかもしれません。いや、よくない。
でも本当に痛かった。
今までで一番痛かったことTOP1です。
そしてみるみるうちに回復して、術前部屋を出る日がやってきました。
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