その10 脱分化型軟骨肉腫

 胸のCTの結果はシロ。肺転移はありませんでした。

 そして、生検画でました。


 でた病名は「脱分化型軟骨肉腫」


 悪性度の高いガン細胞と悪性度の低いガン細胞が混じった状態の肉腫のことです。

 これは軟骨肉腫の中でも化学療法が期待できる、というか化学療法で消せる細胞がある状態となります。

 そのため化学療法はやる方向に。


「大体半年くらいの入院になりますね」

 その先生の言葉にがっくり。

 半年……。長い戦いです。

 化学療法の副作用も当然あることでしょう。

 私はまた元気になれるんだろうか、少し不安でした。

「切断の手術は私ではできないので、私の先輩のいる病院を紹介しますね」

 先生はそう仰って、裏へ。

 携帯電話で先輩に連絡しながらウロウロしてる姿に


――助けて~ドラえも~ん


 ってアテレコしたけど、それは私とみなさんだけの秘密で。

 てか、よくそんな余裕あったな、私。

 

 後日、その先生のいる病院へ。

「どういう手術をするか、は分かってますね?」

「はい」

「説明どおり膝下から切断することになります。その後、化学療法をします」

 まっすぐ目を見て話してくださったのが印象的でした。


 手術の予定は1月14日。この日付を私は一生忘れないでしょう。

 その3日前に入院する予定になりました。


 その頃はもう、毎晩寝る前に泣いてましたね。

 なんで、なんで、ってそればかりが頭の中を渦巻いていて。

 その頃は日記をつけてました。

 「何で私がこんなことにならなきゃいけないんだろう」

 そんな繰言を繰り返していました。


 ある日。

 書いていて、だんだん腹が立ってきたんですよね。

 100万人に数人レベルの病気にぶちあたるなんて、運悪すぎ、むかつくぅ~。

 私は何も悪いことはしてない。たぶん。

 病気したけど充分頑張ってきた。

 それを否定されてたまるかっつーーーーーーーーーの!

 足の1本くらい、膝下からならくれてやる。

 ガン細胞なんて化学療法で消えてしまえ!

 私は絶対にこの病気には負けない。

 見てやがれ、一年後には私は笑っていてやる。

 ――そんなことを書きなぐっていたらすっきりして、それっきり夜に泣くことはあんまりなくなりました。

 

 ネットでも脱分化型軟骨肉腫について調べていたのですが、本当に情報が少ない。

 特に当事者の声が見当たらない。

 結構詳しく書いてあるサイトがあって、ふんふん、と読んでいたら犬の話だったり。

 (このネタは入院中看護師さんに話して爆笑いただきました)


 気力はずいぶん戻ったけれど、落ち込んでいる状態は変わらず、風邪は長引きました。

 結局2週間くらい風邪気味だったような……。

 年が明けてもまだ風邪気味だったので、さすがにやばいと病院にいきました。

 インフルエンザの検査をしたのですが陰性で、一安心。

 お薬をいただいたらすぐに治りました。医学ってすごいね!


 入院前、どうしてもしたいことがありました。

 それは私と右足とのお別れ写真の撮影。

 ちゃんと写真館に行って撮影したかったのです。

 数十年、一緒にいた足。

 海にも山にも行きました。短距離走は遅かったけど、3~5kmくらいの中距離走は得意で、学年10位以内に入ってメダルもらったこともあります。

 ありがとう、でもキミとはお別れだ。

 私は生きるために足を手放さないといけない。

 その前に、お別れ写真を撮ろうと思ったのです。


 気持ちもずいぶん落ち着いていましたが、心細さは変わりませんでした。

 そこで、クラブハウスのスタッフにメールを送ったんですよね。

 みんなが写ってる写真がほしい、って。

 お守り代わりに持っていたいと思ったのです。

 後日届いたのは、写真を現像するともらえる小さなアルバム。

 様々な写真が沢山収められていました。

 写真の裏には、一枚一枚にみんなからのメッセージ。

「講演会、楽しかったね、また行こう!」

「この旅行のときから足痛いって行ってたねぇ」

「またキャンプ行こうね!」

――などなど。

 お手紙もついていました。そこにもみんなからのメッセージが。

 ああ、そうだ。私、ひとりじゃなかったんだった。

 本当にありがたかったです。


 同じ頃、夜にバイト先からの所長からも電話がありました。

――待ってるからな、絶対元気で帰ってこいよ


 沢山のひと、そして家族が私を支えてくれている。

 バイトだって、本当なら切られても仕方がないくらいの長期入院なのに、待ってるって言ってくださってる。その間フォローしてくれる人もいる。


 何を恐れることがあろうか。


 私は絶対に戦い抜く、そう誓った2010年の始まりでした。

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