その9 その頃の私について

切断を宣告されてから、精神的に不調をきたしてしまいました。

 頭と体がだるくて、動くのがつらい感じ。

 仕事へ行くのも難しくなって、自助グループのスタッフにヘルプを求めました。

 本当なら、長期間休むことになることを直接所長に会って伝えるべきだったのですが、もう頭がぐらぐらで寝込んでる状態でしたね。

 夢と現実との区別がつかなくなるくらい調子崩してました。

 そのうち風邪をひいてしまい、ますます仕事場へ行くことは困難になってしまって、結局入院前の挨拶ができなかったことを、今でも悔やんでいます。

 

 そんな中、自助グループのスタッフが家に来てくれました。

 足の切断は避けられないこと、場合によっては化学療法をするので入院は長くなるかもしれないということ、ちょっと精神的に調子を崩しつつあることをお伝えしました。

 激しく励ましてくれるのではなく、仕事の心配はしなくていい、元気で帰ってくるのを待ってるから、と言ってくださったのがありがたかったです。


 ここで少し、これまでの私について説明しますね。


 私は20年前にうつ病を発症して、大学を一年休学。卒業後も良くなって仕事を始めてはまた再発して、というのを繰り返していました。

 そもそも私は人間関係がとても苦手だったのです。

 このまま同じことを繰り返していても意味がない、そう気づいた私は通っていたクリニックに併設されていたデイケアに行くことにしました。

 精神科デイケアというのは、陶芸や絵を描くなどの作業療法や、メンバーみんなでなにかをしたりなどの集団療法などを行います。

 私は特に文章を書くことと、絵を描くことが好きでしたね。

 元々絵は苦手、と思っていたのですが描いてみると意外と描けるもので少しずつ自分に自信がついてきました。

 人とのコミュニケーションのとり方もうまくいくようになり、症状は劇的に変化したのです。

 

 2006年に施行された障害者自立支援法の関係で、予算の都合でデイケアにそのまま通うことは難しくなり、他の施設を、と探したのが自助グループでした。

 この自助グループは正確にはクラブハウスといいます。

 なのでここからは「クラブハウス」と表記しますね。


 このクラブハウスはアメリカで誕生した精神科リハビリテーションモデルのひとつです。

 特徴のひとつとして挙げられるのは「クラブハウス」というみんなで集まる場を、スタッフ、メンバー全員で運営することです。

 食事の準備や会計などもメンバーがします。 

 スタッフルームなどはなく、クラブハウス内全ての場所をメンバーとスタッフが共有します。


 スタッフだけの会議は基本的にはなく、問題が起こったら必ず全員で話し合います。

 このクラブハウスは日本にはまだ6つしかありませんが、世界には発祥の地であるアメリカを中心に300箇所以上あります。

 共有するキーワードは「We are not alone」。「私たちはひとりではない」です。


 数年に一回、世界中のクラブハウスの仲間が集まって世界会議というのを行います。

 各クラブハウスの活動報告などを行う、結構大きな会議です。

 その合間を縫って、アジア圏内でもアジア会議というのが行われます。

 2006年、韓国にてアジア会議が開かれ、それに私も参加しました。

 一言で言うと「すっげー楽しかった!」。

 沢山の人と会って、話して、今まで私はどこかひとりぼっちという感覚をぬぐえないでいたけれど、世界には沢山思いを共有できる人がいる。

 そんなことが私にはとても嬉しかったのです。


 それ以来、クラブハウスの活動にのめりこむようになりました。

 日本ではまだあまり知られていないため、講演の依頼がたびたびきます。

 人前で話すのは苦手だった私ですが、思いを伝えるため日本各地を周りました。

 

 そんな頃出会ったのが今の仕事です。

 長い長い時間をかけて、ようやく私は「自分でも続けられる仕事」を見つけたのです。

 仕事は病院清掃をしている事業所の経理、その他事務。

 事務経験があり、PCが比較的得意な私にはうってつけの仕事でした。

 仕事にも慣れ、クラブハウスの活動にも精力的に取り組む、そんなときにこの病気が見つかったのです。

 

 ずっと遠回りをしてきた。そしてようやく居場所を見つけることができた。 

 なのにどうして?

 どうしてこんなことになったんだろう。


 軟骨肉腫という病気は、生活習慣などからくる病気ではありません。

 骨由来のガンでは骨肉腫がもっとも多く、それでも100万人に2~3人という発症率です。

 その次に多いのが軟骨肉腫ですが、当然100万人に数人レベル。 

 頑張ってきたのに、どうしてこんなに悪いクジをひいてしまったんだろう。 

 私はそのことがつらく、とても悲しかったのです。



注:ここに記載されている「クラブハウス」は昨今話題のSNSとは全く別物です。

 

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