ばあちゃんの気持ち
退院後一週間は休業命令で、実家へ帰った。
亮さんから、虎吉さんが転院したときいた。賢人さんは気を遣ってもう、私に関わらない気でいるようだ。
私は時間をもてあまし、またアルバ厶を引っ張り出した。
何度見ても飽きないなぁ。
目をパチリと見開き、口を一文字に結んだ真面目な川端一家の集合写真。ばあちゃんにもう一度会いたいな。
集合写真の裏になにやら盛り上がったような手触りが....
裏から確認するも台紙で見えない。
破れないようにゆっくり、年期のはいったアルバムの台紙をめくる。
写真の下に小さく折りたたまれた紙
御達者で、そればかりお祈りして居ります
再びお顔を見たく
幾度 思い浮かべております
これはばあちゃんの手紙?
消えかかった字、力弱い字
昭和に書かれた手紙
出せなかった手紙
宛先が分からなかった手紙
私の感情はばあちゃんの感情だったのかもしれない。
職場復帰の日
「皆さんお騒がせいたしました。ご心配もおかけしました。今日からまた宜しくおねがいします。」私は深々と頭を下げた。
「あ゛ーよかったッス。無事で。よかったッス。」
田中が泣いている。
「あの時はどうなるかと思ったわよ。浅井くんがいて良かった。でも、面会NGだからってみんなお見舞い行けなかったのよね〜」と崎山さん。
ん?面会NG?亮さんは普通に来てくれていたが.....。
しばらくして、遅番であるにも関わらず早めに亮さんが出勤してきた。
「大丈夫か?おまえ。重いものは持つなよ」
あの.....この仕事大抵重いものなんですけど。ほら、ご老人方とか。
とりあえず私は、はいっと返事した。
「今日細谷さんの復帰祝しましょうよ。軽めに」
「復帰初日から?今度にしろ」
亮さんが反対したが、結局みんなで食事へ。
「あの日のことは聞かないからね。PTSDとかなったら困るでしょ。その代わりっちゃあれですけど、お二人の関係は?」
え?崎山さん。あっ!そうだ。私が入院していた方の職員達...毎日のように通う亮さんを見ていたんだ。
風の噂は早かった。隣の建物だし。
「関係って?」
ぶっきらぼうに亮さんが返した。目では何も聞くなと言っているような目。
「毎日来てたって噂ですよ〜」
「別に」
「あやしぃ」
「.....俺が第一発見者だったからな」
いやいや、死体じゃないですから....。
帰り道、また亮さんが送ってくれる。病み上がりだからと。
静かな通りを歩く、私達の足音だけが響く道でスマホが鳴った。
.....賢人さんだ。立ち止まるも緊張と不安で固まる私に
「出ろ」
「あっもしもし」
亮さんは、電柱を意味なく見に行ったりウロウロ少し私から距離を置く
「もしもし 賢人です。真由さん、本当にごめんなさい。」
「いえ、賢人さんが謝ることでは...」
振り向かなくても亮さんの突き刺すような視線は感じた。背後から。
「一度お会いしてお詫びさせてください。」
「あぁ.....はい。分かりました....」
なんだか、かしこまった賢人さんだった。
元々誠実な人だからきっと、心痛めたに違いない。
「会うのか?」
「あっはい。お詫びしたいと。きっと凄く気にされてると..... だから.....」
「やめとけ」
「え?」
「危ないだろ」
「でも.....」
小さな舌打ちが聞こえた.....こわっ。
「じゃ、俺も行く」
「はい?」
「近くで見とく」
いやいや、それこそ失礼な気が.....。
この人、一度言い出すと絶対に折れません。
私は仕方なく了承することにした。
あの危機を救ってくれた恩人ですから。
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