平成25年編再び
真夜中の帰還
目が覚めた.....暗い.....夜?東京の私の部屋
そうか。平成か。戻ったんだ.....。
スマホを確認すると夜中の2時14分。こんな時間....嫌な予感がした私は直ぐにばあちゃんの病院へ向かった。
病院の前につく頃母から電話が来た。
「もしもし真由、ばあちゃんが今危篤状態になったって連絡来て.....来れる?」
病室に入ると、母がばあちゃんの耳元でばあちゃんの好きな歌を歌ってた。
意識はしっかりしていないようだが、微かに目を開け口が少し動いているみたい。一緒に歌ってる。
穏やかな最期の時間だった。
まだ弱い太陽の光が少し入りだした頃、心電図の心拍数値がどんどん下がりナースの方がモニターの音をそっと消した。ばあちゃんは、ふうっーと息を吐き出したかのように見えたあと、亡くなった。魂が旅立ったように見えた.....。
大往生と言われるに十分な歳ではあるけれど、やっぱり悲しい。かなり悲しい。
ばあちゃんは私にとって特別だった。ばあちゃんは私が小さい頃から大人になるまで働いていた。愚痴一つこぼさず、人を悪く言ったことも聞いたことがない。四角い顔で、誰よりも優しかったばあちゃんを私はいつも尊敬してた。
+++
仕事でしんみりは禁物。よしっ。
夜勤のタイムカードを押し、定位置につく。
今日の相方は?田中あたりかな。
あっ浅井と書いてある。亮さんだ。
「よっ」
来た。短い挨拶...
「おつかれさまです。」
「おまえ、お疲れすぎだぞ」
私の顔を覗き込む亮さん。そうだ、私また昭和にいたんだった。
「おばあさんは?」
「あっ今朝亡くなりました」
「そうか。シフト調整するから言えよ...」
「はい。ありがとうございます。」
私の肩をぽんぽんと叩き亮さんは仕事に入る。
「巡回行く」
「あっはい」
私は懐中電灯持った亮さんの隣についた。
「は?」
「え?」
巡回はひとりが行う。完全に忘れていたというか、ミスったのだ。
「なに?」
「あっいえその、間違えて」
「どうせ、暇だ行くぞ」
私達は、肝試しのごとく静かに歩く。
毎度のことなら慣れるのだが、この夜勤巡回はなかなかスリル満点だ。
突然暗闇に佇んで驚かしてくる方
小さな声を響かせ驚かしてくる方
はたまた奇声を発して驚かしてくる方
皆さん、驚かそうとしている訳ではなく、ご老人はそういった症状がつきものだ。
私があっちの時代に行っていた間に入所者さんの顔ぶれが変わっている。驚かし方も変わるということ。
そして.....
私は気づけば亮さんにしがみついていた.....。
前方の病室のドアから床すれすれで顔が横向きにこちらを見ている。
悲鳴は絶対に上げてはいけない、さっと駆け寄り
「ベッドに戻りましょうね」が正解。
私は悲鳴こそは我慢したものの、とっさにこの失態だ。
こんな事しようもんなら、亮さんには突き飛ばされて当たり前「なんだよっ」て。離れろと言わんばかりに。
しかしこの時は違った.....。
「大丈夫か?待ってろ」そう言って覗く顔まで近づきそっと入所者さんを抱き上げた。
相変わらず冷たい表情だが、それがクール。クールなのに大丈夫か?なんて優しい言葉が更に優しい。
ばあちゃんの件で気を遣ってくれてるんだ。
いつもなら、ひとりでキュンキュンするんだろうが、私は戦時中に置いてきた、いいなずけがいるかのごとく、いや居る?居た?気持ちにブレーキがかかる。
そんなこんなしながら、仮眠時間がやって来た。
「先入れ」
ありがとうを言って立ち上がらなきゃ
「ありが....」
視界がぼやけるふわ〜と周りの景色がモヤのように回転し...目の前で立ちあがり驚く様子の亮さん....
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます