山菜採りであわや
東京にB29の空襲が来たと噂できいた。
ここは田舎だから大丈夫なんだろうか。
夏代姉さんは、学徒勤労動員として軍需工場へ通った。ばあちゃん、いや私も工場へ行ったのだろうか。聞いたことはない。
上の兄さんは、体が弱いらしく徴兵されていないが親戚の家から別の軍需工場へ通っていた。
私はまだ、平和に見えるこの田舎の山へ入り山菜を採るおつかいを気に入った。
山にあるちょっとした空間に腰を下ろし休むのが恒例。
この日も食べられそうな草をむしり大きな石に腰かけた。「はぁ――。」山登りなんて小学校以来したことがない。
鳥の声と得体のしれない虫の鳴き声だけが響き心地よい風が吹く。山の中は空気が澄んで気持ちがいい。
ガサガサ
葉っぱを踏むような音。
もしかしたら、冬眠前の獣?!!私は近くの木の枝をそっと掴んだ。
クマだったら?死んだふりは駄目だっけ......カンガルーならくしゃみすればいいらしい。って居るわけないか.....カンガルー。
「ここでしたか。」
正一さんだ。
「あーびっくりしたっ。クマかイノシシかと」
「残念。イノシシなら捕まえて食べられるのに」
私達は時々こうして、ここで話をした。
私の山菜籠をながめて、
「またまた食べられない物がはいってますよ。皆さんを殺す気ですか」
笑いながら言う正一さん。彼とは笑いのツボというか話が合う。
籠をしょい、山道を降りる。
なかなかの険しさに気を引き締める。転げ落ちれば命に関わるかもしれない。
ガサガサガサ.....
まただ 次は本当に獣...
私達は顔を見合わせ、緊張が走る。
「ギャーッ」悲鳴を上げる私
「人?」正一さんが私の視線の先の茂みにそっと近寄る
「うぅ あ゛ッ―――――――」
茂みから男が正一さんを殴り飛ばしたのだ.....よろめいた彼は下へ転げ落ちた.....
唖然とする私。悲鳴しか出なかった茂みから睨むあの目に驚いた。
何...私山菜しか持ってない...です。
男は獣のような目で襲いかかってくる。
そうだ、食欲意外に処理が必要なもの...
それに飢えた男、徴兵前死ぬ前に一回....そういったヤツである。
私は押さえつけられながらも、足をバタつかせ男の急所を狙う。こんなところで悲鳴を上げても仕方がない、ただただ力いっぱい足だけを頼りにもがいた。
どぅぐっあ゛ーーーと、いう呻き声と共に男は転げ落ちた。
私ではない、正一さんだ。死にものぐるいで山肌をかけ登り蹴り落としたのだった。
正一さんは、パニックになり散らばった山菜を集める私を抱きしめてくれた。
「大丈夫?危なかった...」
そういう正一さんの手も腕も胸も微かに震えている。
私たちは警戒しながら下山した。
あれから無言で放心状態の私の土で黒く汚れた足を川の水で、正一さんはゴシゴシこする。
「冷たいっ」
「やっと話した」
ついでに山菜も川で洗った。
家へつくと、いつものようにおひささんが炊事場で薪を吹きながら鍋を沸かす。
「山菜入れますね」
「待って。食べられるか見るわ」
「八千代 正一さんの服直してあげて。やぶれとるわ」
あっさっきの。
私は苦手な針と糸で何とか開いた穴に裏からあて布をし縫い付ける。
「ちょっと〜どないしたん!あんたの得意分野やのにね」
ばあちゃんは洋裁の先生もしていた。私にそれは全く遺伝しなかったのだ。
正一さんは笑いながら「十分です。ありがとうございます。」と言ってくれた。
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