第23話 魔術オタクと黒い鳥 Ⅴ
「さぁ、マリアの居場所を教えろ!」
グーリアは歯噛みして、俺を睨みつける。
「僕に命令していいのは、ご主人様だけだ!」
「えっ」
腕が吹き飛ぶぞ、と脅したのにも関わらず、グーリアは躊躇いなく魔法陣を展開しだす。
「おいおいおい嘘だろ」
「
今度は脚。美しい長い脚だが、どんな能力か。
「喰らえッ‼」
空を割く音。
聞こえたときには、俺の身体はもう倉庫の壁に激しく叩きつけられていた。
「がッ……ぁッ⁉」
速い。
音を超える速度での射出攻撃。これが、脚の能力……!
ヒビが入っていた骨が、完全に折れる感触があった。
「ぐぅッ」
なんとか持ち直して、グーリアに向き合うが。
「まだまだまだまだまだまだァ‼」
シュドッ‼
顔の数ミリ横を何かが通り、それと同時に壁に足が突き刺さる。
これは見切れない。
見てから反応するんじゃ死ぬ。
恐らく、速度のあまりグーリアもきちんと狙えているわけではない。
「
バキバキッ‼
ドスッ‼
物資を貫いて、今度は地面に突き刺さる。
「チッ」
グーリアもコントロール出来ているわけではないとはいえ、だからどうということもない。どう足掻いても、当たれば死ぬ。
何か、他に……!
グーリアは、ぐっと右腕を引いて、勢いよく腕を振り下ろす。
「――‼」
そのとき。
「うぐぁぁぁああッ‼」
左腕に高速の脚が直撃。
「ハッハァ‼ 左腕! 貰った!」
「ぐ……ッ‼」
だらんと左腕が垂れる。もう左腕の感覚がない。
「次は身体に当てる」
「…………ッ」
グーリアは右腕を引いて、狙いを定める。
「もう逃げないのかい? 死ぬ覚悟が決まったのか?」
「バカ言えよ。負けるのはお前だ」
発射の直前。ここしかない。
「じゃあ、死ね」
――今!
高速の脚が背中を掠めて、壁に突き刺さる。
「‼」
そして、今度はその壁に刺さった脚に剣を当てる。
「
たちまち、バギン、と音を立てて脚が鎖に捕らえられ、壁に固定されてしまう。
「何だと⁉」
「手元に戻せなきゃ射出もできない。なんなら、別の杖に切り替えることも出来ないんじゃないか?」
拘束術式で捕らえたものは、解放術式をかけない限り解けない。杖とは魔術師にとって最も早く、正確に魔術を発動できる部分。杖を拘束しても、即座に解放されてしまうため無意味。
「お前の杖は、刻印術式以外は使うことが出来ないんだったな? なら、解放することもできない。違うか?」
「くっ」
「いい加減大人しく――!」
ドガァアアアアアアアアアアアアアンッッ‼
「なんだ⁉」
その音は、倉庫の奥から轟く。そして、辺りを飲み込む暴力的な威力の
「――まさか」
俺は、そのビームを腐るほど見てきた。
「なめんじゃないわよ!」
その声を、近くで聞いてきた。
「私を見くびらないでよね!」
グーリアのことも忘れて、呆気に取られてしまっていた。
「私は、マリア・アルクラインよ‼」
その名前を、探していた。
「マリア――!」
もう一発、ビームが放たれる。
倉庫の壁を壊し、暗かった倉庫に光が差し込む。
土煙を払って姿を現したのは、紛れもなくマリア・アルクラインだった。
「マリア‼」
俺の声に、マリアは振り向いて驚いた。
「
爆発音。
マリアがビームを撃ちこんだ先から、現れたのはひとりの女性。
「出たわね、偽物!」
「偽物?」
短い金髪に、目隠し。ブレンが言っていた人だ。
女性は、はぁ、とため息をひとつ、服についた埃を払う。
「あまり使いたくはないんですけど。背に腹は代えられない、か」
金髪の女性は、ゆっくりと目隠しに手をかける。
「才賀凱也! コイツ、蒼の魔眼持ちよ‼」
「やっぱりかよ‼」
マリアは、杖を振るって土煙を上げる。
「こっち!」
「いでででで‼」
腕をマリアに引っ張られながら、壊れた倉庫の壁から外に出る。
「ちょっと‼ さっさと走りなさいよ!」
「無茶言うな! こちとら骨折れてるわ腕やられてるわで散々なんだよ!」
すると、目の前に見たことのある折り紙が姿を現す。
「なにこれ、かわいいわね」
「犬馬、
「げぇ、あの性悪の? 前言撤回よ」
「そう言うなよ。愛恋もお前を助けるために協力してくれたんだ」
「ふーん。それは感謝しておかなくちゃね」
『それはいい心がけですね』
犬馬から、愛恋の声が聞こえる。
「愛恋?」
「ちょっ! あんたまさか盗み聞き⁉ 趣味悪いわね!」
『盗み聞きとは人聞き悪いですねぇ。マリアさんが勝手にかわいいだの感謝するだの言ったんじゃないですか』
「ぐぬぅううう」
「まぁまぁ2人とも。それより今は逃げること考えないと」
「逃げるぅ⁉ 冗談でしょ? 一発かましてやらないと気が済まないわよ!」
「今の俺の怪我の状態を見て言ってくれ」
「大丈夫よ! アンタ器用なんだから治癒術式くらい使えるでしょ?」
「魔力が残ってねぇっつの」
『凱也さんの言う通りです。撤退しましょう。閉じ込めるために術式をセットしておきました。この犬馬が鍵になります。この子がラインを越えたら、その瞬間防壁が発動する仕組みです』
「よし、じゃあ牽制しつつ逃げることに徹しよう」
「簡単に言うけど、そんな簡単には行かないでしょう」
俺たちの後を追って、グーリアと金髪の女が現れる。
「性悪。防壁術式ってことは魔力障壁でしょ?」
『性悪……。その呼ばれ方は些か引っかかるものがありますが……。まぁ、言いたいことはわかります。もう少し時間があれば、どうにか出来るんですが。なにぶん、マリアさんが自分から出てくるとは思わなかったので』
「……、確かに簡単には行かないか」
防壁術式、俗にバリアと呼ばれるその魔術は、魔力で障壁を作る。物質化した壁を作るわけではないため、性質としては魔力と同じ。つまり、
恐らく愛恋は、急造でこの術式を準備してくれたんだろう。だと言うのに、鍵をつけて、この規模で展開できているのは流石としか言えないが。
「アイツの魔眼は、虹の魔眼のひとつ、蒼の魔眼で間違いないわ。射程距離も効果範囲もとんでもなく広い。私も魔力を持っていかれた。このまま逃げても、逃げ切るのは難しいでしょうね」
「どっちみち、こいつらを倒さないことには逃げることも出来ない、か」
『では、私は魔力障壁を補強します。簡単には消されないように何重かに重ねて、強度も上げておきます』
「そういえば、マリアお前、どうやって逃げてきたんだ?」
「別に。普通にビームぶち込んでやっただけよ」
「さいで」
『……それ、おかしくないですか?』
「なにが?」
『いえ、マリアさんの短絡的思考がおかしいというのはその通りなんですけど』
「ぶっ飛ばすわよ」
『相手は
「あぁ、確かに」
「確かにってお前。気づいてなかったのか」
「当たり前でしょ。私は頭に来てんのよ」
『頭に来てなくても気が付かなさそうですけどね』
「次会ったら覚えておきなさいよ、ホント」
『私が覚えててもマリアさんは忘れてしまうのでは?』
犬馬に向かって杖を振りかぶったマリアを止める。
「とにかく! マリアの攻撃は効くってことか?」
『それか、強大すぎる魔力量ゆえに吸収しきれない、か』
「それなら色々とやりようはありそうね」
「よし、マリア。やるぞ」
「いいわね! そう来なくちゃ!」
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