第22話 魔術オタクと黒い鳥 Ⅳ

 ドガァアアン‼

 壁を使って宙返り。グーリアの攻撃をかわす。

第一の首イザベラ‼」

 グーリアの右手首の手枷。その手枷に繋がった鎖は上に伸び、女の首が、風船のようについていた。

 イザベラ、と呼ばれたその首は、口から魔力光線ビームを放ってくる。

 倉庫の中にある物資の影に隠れ、飛び出して、物資を飛び越えて、足場にして。

 縦横無尽に駆け抜ける。

「アハハハッハハ‼ いいねぇ! 逃げる相手を追い詰めるのは久しぶりだ!」

 ビームの威力はマリアほどではない。しかしほぼ休みなしにガンガン撃ってくる。これでは、外力展開で幻影術式を組む時間がない。

「イザベラは大学時代の僕の恋人でね。最初は軽いプレイだったんだが……。段々エスカレートしてきて、最後には首を絞めて殺してしまっていたんだ!」

 声高に叫ぶ。

「興奮したよ……。張り詰めた糸が切れる瞬間……。人の命を左右しているという全能感すらあった!」

「クソ野郎が」

 ビームをかわしつつ、吐き捨てる。

 すると、グーリアは俺に語り掛けてくる。

「君も同じじゃないか? ご主人様の屍人兵を殺したんだろう? それとも、あんなおもちゃじゃ満足できないか」

 頭にきた。

 物資の中にあった木箱をグーリアに投げつけた。

「どんな状態でも、人殺しは人殺しだ。でもって、同じなワケないだろうが‼」

 グーリアは、その箱をビームで破壊する。

 その破片を目くらましに。

「ハァッ‼」

 剣で鎖に斬りかかる、が。

「斬れない……⁉」

「フッ」

 至近距離でビームが撃たれる。間一髪、直撃は避けるが。

「ぐぅッ‼」

 右足の太腿に少しくらってしまう。

 バッと距離を取って、物陰に潜む。

 応急処置として、痛み止めの術式をかける。

第一の首イザベラァ!」

 グーリアもすかさず物陰をビームで焼きだす。

 間一髪、別の物陰に移り、様子を窺う。

「うーん。どうにも、捕まえなくてはいけなさそうだ」

 すると、今度はグーリアの身体の右横に魔法陣が開かれる。グーリアは、首をその中へと入れ、そして引き抜いた。

第三の腕ルーシー‼」

その鎖の先には、美しい白い腕がくっついていた。

「今度は腕……⁉」

 グーリアが右腕を振るう。

「――しまっ」

鎖の先の腕が巨大化し、あらゆる物資を巻き込みながら、俺を壁に勢いよく吹き飛ばした。

「うぁッ‼」

 パラパラ、と音を立てて瓦礫と物資の破片の中から這い出る。

「クソ……」

「フフフフ、素晴らしいだろう? ルーシーは切られたがりでねぇ。彼女の手首を切って、その血をローションみたいにして――」

「うるせぇっ!」

 瓦礫を思いきりぶん投げてやる。グーリアを守るように、腕が瓦礫をキャッチした。

「どうでもいいプレイの話ばっかしてんじゃねぇよ」

 とはいえ、どうしようもないのも事実だ。

 コイツの事件で亡くなった人は5人。ということは、恐らくあと3つ、コイツの悪趣味ショーは続く。

 ぐっと腰を落として、一呼吸置く。

 そして、一気にグーリアめがけて一直線に走る。

第三の腕ルーシー!」

 再び巨大化した腕で殴りかかってくる。

 ギリギリまで引きつけて。

 間一髪で身体をひねりながら、跳ぶ。

「‼」

 繰り出された右腕に手をついて、その勢いを借りて加速。

 猛スピードで回り、そのまま右足を振りぬく――。

「――ッッ!」

 ブン、と右足の蹴りは宙を切った。

 その瞬間。

 ドガァアアアアンン‼

 白い腕が、俺を地面に叩きつけた。

「がッ……‼」

 瞬間的に防御術式を発動したが、それでも骨にヒビが入っている。

 俺は巨大な手に押しつぶされたまま、グーリアに頭を踏みつけられる。

「男とヤる趣味はないんだ。殺すだけになってしまうけど、いいよね?」

 起き上がろうとするが、力が強すぎてそれも叶わない。

 くそ、絶体絶命か。

 しかし、こんな時だというのに、俺はワクワクしている。

「げほっ、なぁ、この悪趣味な魔術は何なんだ」

 口の中で鉄の味がする。咳と一緒に血が少し出てしまったらしい。

「まぁ、冥途の土産に教えてやろう。これは、僕の杖さ」

「杖……だと?」

「便宜上、だがね。この手枷が本体で、ここに術式が刻まれているってことだ」

「じゃあ……、あの首やこの手は、普通の魔術師が、杖から魔力弾を出しているのと理屈は同じってことか。いや、だとしたら貯めなしのビーム連射とか、この腕の力とか、刻印術式としては強すぎる」

「それは、この杖が杖としての役目を果たせないから成せる芸当だ。異なる刻印術式の杖を5本持っていて、この手枷でそれをひとつにまとめている。しかしそれぞれの杖は、刻印された魔術しか使えない、というわけだ」

「なるほどな……」

「さて。おしゃべりはこのくらいにして、このまま潰させてもらう。ああ、安心してくれ。君の死体は僕のご主人様の魔術で有効活用するから」

「ふっ。さて、それは……、どうかな――!」

 俺は指を鳴らす。

 ドゴォンッ‼

「⁉」

 同時に、白い腕が突然爆発し、衝撃で少し腕が浮く。

 俺はその隙に這い出して、すかさず外力展開。

爆裂流星群インパクト・シューティングスター‼」

 無数の魔力弾が白い腕をめがけて降り注ぐ。

「ハハハハ! いいね! まだ終わらないってことかい!」

 魔力弾は着弾と同時に爆発。爆音が続けて鳴り続ける。

第四の手ハンナ‼」

 新しい杖。

 爆炎と土煙に身をひそめ、俺はグーリアの背後を取る。

 さっきまでの白い右腕と違い、今度は黒い肌の左掌。

第四の手ハンナは魔力攻撃を吸収できる! 爆発術式の魔力弾なら着弾する前に吸収できるのさ!」

 あっと言う間に、魔力弾は全て吸い尽くされる。

 しかし。

「残念だったね! 君の攻撃は、僕には――!」

「俺の勝ちだ」

 ガッと、グーリアの手枷に触れる。

 そして素早く離脱。

「何を――⁉」

「それはキャット俺のクラスメイトがやってた術式併合の+α、&外力展開バージョンだ」

 固定術式と、爆発術式。キャットが、マリアの杖を吹き飛ばしたときの魔術。そこに、威力の増強や、隠蔽術式など、他にも色々な術式を盛り込んだ、+α。そして、マナで術を展開した、俺バージョン。

「下手に動かない方がいい。俺が指を鳴らしたら、腕が吹き飛んで、まず間違いなく、手枷は壊れるぜ?」

「なんだと……⁉」

 さっきの白い腕も、軽く触れたときにこの術をくっつけた。威力もその時に確認したが、人間の腕くらいなら軽く吹き飛ばせるだろう。

 直接魔術で攻撃が出来なくても、くっつけるだけならば俺にもできる。むしろ、身体能力と得意な間合い的に、大分性に合った攻撃方法かもしれない。

「さぁ。マリアの場所を教えろ!」

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