第24話 魔術オタクと黒い鳥 Ⅵ

 一瞬の静止。

 最初に動き出したのは、マリア。

「吹き飛べ!」

 杖を振りぬいて、敵2人を難なく巻き込める大きさのビームを放つ。

第五の胴ミナ

 そのビームを、グーリアが受けきる。5つ目は少女の胴体トルソー

「フィアナちゃん。僕の杖の術式は彼にバレてるから、お願いしてもいいかな」

「グーさん、自分で喋ってましたよね」

「え? 聞こえてた?」

「はい」

「ボスには秘密にして、ご主人様には告げ口してくれない?」

「自分でやってください」

 フィアナ、と呼ばれた金髪の女性は、両手に杖を顕現させる。2本とも、50cmくらいの普通バトンタイプ。先端には、濁った白色の魔石。

「来る!」

 くるくると杖を回転させ、その勢いのまま両方同時に振り下ろす。

爆発緋火ダイナ・レッド

 2発の赤い魔力弾が放たれる。

「甘いわよ!」

 すかさずマリアは杖を2回振って、その魔力弾に当てる。

 ドガガァンッ‼

 凄まじい威力の爆発。

「まだまだ。爆発緋火ダイナ・レッド!」

 再び赤い魔力弾。

 マリアは防壁術式バリアで守るが。

「ぐぅっ!」

 ものすごい爆風でひるんでしまう。

 その隙を逃さず、フィアナは追撃を仕掛ける。

碧水飛燕ブルー・スワロー‼」

 高速の水の弾丸。

 マリアは、無理やり体勢を整えて、大きなビームで弾丸を消し飛ばす。

旋風碧水ハリケン・ブルー

 砂を巻き上げながら、水の旋風が俺たちに直撃。

 直接的な殺傷力はないが、上手く身動きが取れない。

竜爪翠風リュウソウ・グリーン!」

 合わせて、風の爪による連撃。

「マリア‼」

 激流から身を投げ出されたマリアに駆け寄る。

「おい! 大丈夫か⁉」

「平気よ……。こんなん大したことないわ……!」

 身体のあちこちから出血している。

「強がりはその辺にしておくことね。何発かは深く入ってるはず。もう諦めなさい」

 フィアナの言う通り、マリアの傷から血が止まらない。立っているのもやっとだろう。

「これでトドメよ」

 2本の杖が白く輝く。

獄番白衝デカ・ブレイク

 マリアの頭上に白い光の杭が何本も現れる。

 それを見ただけでこれから何が起こるのかは想像に難くない。


 ドガガガガガガッ‼


「ちょっと! 才賀凱也⁉」

 上ってくる血を、思わず吐きだす。身体中、あちこちに杭が刺さっている。

「いっ……てぇ……」

「何やってんのよ‼」

 思わず突き飛ばしてしまったが、マリアはこの杭をくらってはいないようだった。

「よかった。無事、だな……」

「私のこと心配してる場合じゃないでしょ⁉」

 光の杭が消えて、思わず砂浜に倒れ込む。

「俺はもう魔力もほとんど残ってない……。お前に攻撃を任せるしかねぇからな……。守れるときは守る。……つっても、これ以上は出来ないけどな……」

「才賀凱也……」

「すまん、……あとは頼む」

 砂浜に仰向けに寝転がった。マリアは、俺が一応生きてはいるということに安堵したのか、短く息を吐いた。

「まったく。無理せず休んでることね」

 敵に向き直ったマリアは、杖を構え、ビームを地面に撃つ。

「これなら――、どうだッ‼」

 左手で術式を展開。その魔法陣にビームを撃ちこむ。

 細い、速いビームが舞い上がった土煙を貫く。

第五の胴ミナ、守れ」

 しかし、その攻撃もグーリアの杖が守る。

「なんつー頑丈さよ」

 杖の術式がバレたから、と、グーリアはもう守りに徹するつもりか。だとすると、あの盾を攻略するのは厳しそうだ。

剛撃紫闇キョウリュウ・バイオレット‼」

 岩のような大きさの、紫色の魔力弾。

「はぁッ!」

 マリアも負けじと、それを超える大きさのビームで応戦。

爆発桃音ダイナ・ピンク‼」

 桃色の魔力弾。ビームを撃って処理しようとするが。

 ギィイイイインッ‼

「うっ‼」

 音爆弾。

 手あたり次第にビームで対応しているのを逆手に取られた。

「くっ……!」

 その隙を逃さず、フィアナは杖を構える。

黄雷大砲イエロー・バスター‼」

 雷の大放射。衝撃で電気がこっちにまで流れてピリピリする。

 同じ威力の雷を正面切ってぶつけ、マリアは反撃。

 ドガァアアン‼

 轟音と、衝撃で吹き飛ばされた砂が舞う。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 マリアは大分疲れている。魔力を吸収されているのか。

「ごちゃごちゃ小細工してきて鬱陶しいわね」

「魔術というのはこういうものですからね」

 堅固な盾と、多彩な魔術。ビーム一辺倒のマリアでは限界があるか。それに、魔力が多いとはいえ無限ではない。

「最後のチャンスです。マリア・アルクライン。我々に協力しなさい」

「――⁉」

 俺がグーリアと戦っている間、そんな話をしていたのか。マリアが現れてたとき言っていたことの意味がつながった。

 そして、マリアはそのときと同じことを、そのときより大きな声で答えた。

「なめんな、って言ったでしょ? 私はマリア・アルクライン! アンタたちに協力することなんて、何があってもあり得ない!」

 吠えると同時に、高出力のビームを放つ。

 グーリアが盾を構える。

 その隙に、マリアは左手で術式を展開。

「ふッ‼」

 そして放たれた3発のビーム。

 盾はそのままビームを受け止めようとするが。

「かかったわね!」

 ビームはぐぐっと曲がり、盾の裏にいる2人に向かう。

「甘い! 守護黒土ゴセイ・ブラック‼」

 しかし、フィアナはすかさず土の壁でビームを1発防ぐ。

翠風神速グリーン・レーサー

 そして、2発目、3発目は消えてかわす。

「――違う、マリア!」

「‼」

 消えたんじゃない。これは超高速の移動。

 そう気が付いた時には、フィアナはマリアの懐に入っていた。

「さよなら」

 2本の杖を合体させて1本の杖に。

 剣を構えるように、腰に据える。

真刀金輝シンケン・ゴールド

 光の剣。

 間に合わない。

「マリア‼」

 その瞬間。

 マリアは、確かに笑っていた。

 そして、自信たっぷりに言い返す。

「それはこっちのセリフよ」

「――‼」

 ドドォン‼

 2度の爆音。

 再び舞う土煙。そのなかから飛び出す人影。

 長い金髪と、外にハネたくせ毛と、アホ毛。

 着地した彼女は、杖をビシッと構えて、声高に叫んだ。

「どぉーよ! ざまぁ見ろってもんだわ!」

 徐々に晴れていく土煙の中で、膝をついていたのはフィアナの方だった。

「マリア、大丈夫なのか⁉」

 立ち上がって駆け寄る。

「ちょっと服切られちゃったけどね。予想通りだったわ!」

 確かに、マリアの服の腹部が切れている。が、ちらりと見える白い肌には傷はついていない。

 フィアナは、マリアが最初に撃った3発のうち、受け止められた1発以外は、高速移動でかわしていた。しかし、あの術式は曲がる術式じゃなかった。

「誘導術式だったのか、あのビームは」

「そういうこと!」

 にっ、と勝ち誇って笑う彼女を見ると、張り詰めていた気が抜ける。

「偽物! アンタの魔眼も、魔術も、私には通じない! 観念しなさい!」

 そのとき。

「起きろ。第六の女オルベリアン

 尋常じゃないほどの魔力。

「グーリア……!」

 その魔力を放っていたのは、グーリア・オ・フィヌだった。そして、鎖の先には――。

「鎖が、砕けて――⁉」

 鎖は途中で砕け、千切れていた。その先には、何もない。

「才賀凱也‼」

 マリアの声でハッとする。

 次の瞬間、左側から衝撃。

 吹き飛ばされ、砂の上を転がる。

「ごほっ、ごほっ‼ どういうことだ⁉」

 辛うじて剣でガードしたが、左半身の骨が大分イカレた。

 俺を吹き飛ばしたのは、つぎはぎ傷の歪な女。身体のパーツは、色も、大きさも、長さも不揃い。しかし、それを見て俺は理解する。

「全部乗せかよ」

 今まで使ってきた首、脚、腕、手、胴。その全てが歪にくっついて、ひとりの人間をかたどっていた。

「才賀凱也! 大丈夫⁉」

「まぁ、なんとかな」

 身体はボロボロだが、生きてはいる。

 しかし、第六の女オルベリアンと来たか。胸糞悪い名前だ。

「マリア。アイツは俺がやる」

「俺がって、アンタ身体ボロボロじゃないの。無茶よ!」

「ああ。だからちょっと、治癒術式かけてくれないか。俺の魔力じゃ足りないんだ」

 すると、マリアは顔を背けた。

「マリア?」

「治癒は、出来ないの」

「出来ない? まぁ確かに複雑ではあるけど。簡単な止血の術で大丈夫だから」

 首を横に振られる。

「ごめん」

 その表情に、何か深い理由があることは察せた。

「……わかった。じゃあ、援護してくれないか?」

「それは、いいけど。魔眼で吸われた分と、さっきの戦闘で結構魔力使っちゃったから、もうあんまり残ってないわよ。ビーム一発分くらい」

「OK。時間はかけない」

 どっちみち、そろそろ増援が到着するはず。

 モールにいたアレイとオルベリアンがここにいない。遅かれ早かれ、ここに来る可能性はある。同時に、ブレンに頼んだノアスクシーからの増援もそろそろ到着してもいいころ合いだろう。

 Λvisが早いか、こちらが早いか。

 どう足掻いてもここが最終局面。

「最後だ。やるぞ! マリア!」

「ええ!」

 ぐっと腰を落として、構える。

 そして。

 次の瞬間、一気に切り込む。

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