第20話 魔術オタクと黒い鳥 Ⅱ
猛スピードで雲を割き、俺たちはトトンドへと向かう。
「
「何?」
「
「多分、ヤツらの転送術式のからくりは、鏡面術式だ」
術式で指定した面から、反対側にある魔術式を反転させて写し取る魔術。それが、鏡面術式。
「つまり、駅の転送魔法陣をコピーした、と?」
「そう。鏡面術式は相手の術式を鏡みたいに反転してコピーする術式だけど、駅の転送魔法陣は安定性を保つためにすべて上下左右対称で描かれてる。模倣術式よりも鏡面術式の方が魔力が少なくて済むし、圧縮もしやすいからね」
鏡面術式のネックは、術式が複雑なこと。その場でさっと展開するのは少し慣れる必要がある。しかし、予めどこかで展開しておき、圧縮していたのであれば別。圧縮術式を展開するだけで、連動的に鏡面術式も展開できる。
「なるほど。トトンド行きの魔法陣をコピーしたのであれば、それも納得です。ですが、鏡面術式をはじめとするコピー系の魔術は、往々にしてオリジナルよりも
「そこはまだ分からないけど、恐らく、なにかで魔力を奪ったんだ」
「駅周辺で発生した大規模な魔力不足はそれですか……」
「だと思う」
「なにでやったのか、は検討ついているんですか?」
「たぶん、
「魔眼――!」
目隠しをした女がいた、とブレンは言っていた。大規模な魔術をコピーし、発動するほどのことが出来る魔力を吸収したとなれば、並の
「目隠しをした女がいたって話なんだ。消えるまで道具を使った様子もないなら、魔眼しかない」
魔眼。それは、現代においてはほぼタブーとされるもの。
「目隠しをしてるってことは、多分自分の眼じゃない」
魔眼は、魔力を持つすべての人間に等しく発現する可能性のあるもの。しかし基本的にそれは生まれつき持っているものであり、後天的に魔眼を発現することは極めてまれ。
「となると、
眼に魔術式を持つ、特異体質。それが魔眼である。一度発現すれば、持ち主が死んで、魔力が供給されなくなるまで消えることはない。それはつまり、魔力さえ供給されれば、誰が持っているかは関係ないということ。
「魔眼狩りで失われた魔眼の中に、ひとつあった気がする。虹の魔眼のひとつ、蒼の魔眼だ」
「虹の魔眼――! いえ、規模を考えれば、ありえない話ではないですね……」
本来の持ち主かどうか、明確に違うポイントがある。先天的、もしくは後天的でも、自分の眼であれば、普段は魔眼の能力を使わないことが出来る。しかし、なんらかの方法で他者の魔眼を自分の眼に移植した場合は、能力のオフが出来なくなり、ずっと発動しっぱなしになるのだ。そのため、そのような魔眼持ちは目隠しをする。
「ですが、そうなるとやりにくいですね」
「だから、トトンドの中心より少し外れたところで降りよう。空中にいるときに魔力を吸われたらまずい」
「そうですね。なら、そろそろ降りましょう」
南西の港町、トトンド。
エイギリアイム人以外の人も多いこの街は、エイギリアイム国内でも少し雰囲気が違う。常に祭りのような活気があり、人でにぎわっている。
「まずは、トトンドの駅に向かおう。そこから魔力痕跡が辿れるかもしれない」
「そうですね」
もし、鏡面術式で移動したんだとしたら、転送先はこの駅の魔法陣。つまり、魔力不足で誰も移動できなかったはずなのに、アミュールドからこの駅に移動した痕跡が残るはず。
「出ました。凱也さん、ビンゴです」
「やっぱりか」
そして、その予想は正解だったらしい。アミュールドからこの駅に転送してきた痕跡がある。それもついさっきだ。
「ここから転送した痕跡はない。ヤツらはここにいると見てよさそうだ」
「では、ヤツらのアジトもここに――」
「いや。それはどうだろう」
「え?」
「あ、いや。えっと、Λvis研究の書類を読んだことがあって。ヤツらはいつも事件を起こす目的地のすぐそばにアジトを構えるから、って」
「つまり、トトンドで何かするのが目的じゃない、ってことですか?」
「予想に過ぎないけど」
以前捕まったときもそうだった。俺が捕まっていたのはアジトではなく、拠点のうちのひとつ。ボスがいるアジトは、その国で行う目的地のすぐそばにある、とオルベリアンが言っていた。そしてやつらは、どの国でも、大きな都市や、魔力が豊富な土地や、魔力格差が酷いところに現れる。エイギリアイムにもある程度それに該当する都市があるが、トトンドではない。
「多分、マリアを監禁するための場所がどこかにあるはずだ。目的は情報か、血か……。どちらにしても、どうにかして見つけなくちゃ……」
とはいえ、Λvisのアジトはどこですか、などと聞き込みするわけにもいかない。この街では怪しいヤツなどごまんといるから、基本住人同士、深いところには不干渉の暗黙の了解があるし。
「では、私の出番ですね」
そう言って、愛恋は一気に何枚かまとめてお札を取り出す。
「『
今度は、小さな折り紙の四足歩行の生物。
「犬? 馬?」
「犬の探索能力と、馬の脚を持ったハイブリット、犬馬ちゃんです」
犬馬、と呼ばれたそれらは、一斉にばっと散っていった。
「私たちも、魔力痕跡を辿りつつ、探索しましょう」
「ああ」
魔力痕跡は、魔術を使う以上どう足掻いても残るもの。それを隠す術式もあるし、発動後自動的に隠れるように術式も組むことが出来るが、結局それは綻びをどう上手く隠すか、というそれだけ。完璧に痕跡を消し去ることはどう足掻いても不可能。
「ありました。だいぶ隠蔽術式を使ってはいますが、雑ですね」
愛恋の魔術によって白日の下に晒されたそれらは、確かに点々と、ところどころ消え、ところどころ見え、というなんとも中途半端な具合である。
「気を付けていこう。罠かもしれない」
「そうですね」
活気のある市場から道をひとつ外れ、ふたつ外れ、みっつ外れ。
山と海の狭間、人気のないところに、レンガ造りの倉庫があった。
「あの倉庫に続いてますね」
いかにも、あつらえ向きな人気のなさと、広さ、立地である。
「飛び込んでは危険ですし、ここで隠れて、様子をみましょう。犬馬の探索もそろそろ終わるはずなので」
「……」
それはその通りだ。相手は少なくとも2人。片方は虹の魔眼持ち。魔力総量の少ない俺にとって、
「愛恋はここにいてくれ」
「凱也さん? まさかひとりで行くつもりですか?」
「ああ」
「気持ちはわかりますが、待ちましょう。ここで焦って逃がしてしまうのでは本末転倒でしょう」
「うん。わかってるんだけど」
「なら――」
「でも、それとこれとは別なんだ。ごめん、ちょっとここで待ってて!」
愛恋の声を背中に受けて、俺は倉庫へと駆け出した。
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