幕間 普通に行き交わない人①②+αと黒い影
お互いに見つめ合ったままの
そう。普通に行き交う人々にとっては。
「おいおいおいおいおい。確かにデートに行けとは言ったけどよ!」
普通に行き交わない人①見た目はヤ○ザ中身は堅気、ジョー・ヴァン・ウォルフ。
「これはデートどころじゃないんじゃないですか⁉」
普通に行き交わない人②ゴシップの道を往き、総てを司る男、ブレイナック・ステイシー。
ジョーとブレン。2人のノアスクシー生は、他の人の視線も気にせず、自分たちで演出したその状況を楽しんでいた。
なぜこうなったのか。というのも非常にシンプル。昨日の夜に凱也がマリアと出かけることを知ったブレンは、何気なく凱也を見送ったあと、すぐに自分もショッピングモールへと急いだ。その先で、ジョーと出くわす。特に意味もなくぶらぶらしに来た、という彼に凱也とマリアのことを話すと、ジョーは食いついた。
結果、今のような状態が完成することとなる。
「ブレン。あの2人、どこまで進んでるんだ?」
「わからないんですよね。少なくともこのノアスクシーは全寮制だから、そこまで進んではないとは思うんですけど……」
6階建てのFクラス寮は、3学年合同で、男女で階が分けられている。1階と6階、屋上は共有スペース、2、3階は男子、4、5階は女子。転送魔法陣のみで行き来ができ、非常階段は通常は使えない。即ち、絶対的な男子禁制、女子禁制なのだ。
つまり、寮でナニするチャンスはほぼないと言ってもいいだろう。
「凱也、休日はずっと机に向かってよくわからない魔術書ばっかり読んでるんですよ。だから、出かけること自体珍しいんですよね」
「ははは。まぁアイツらしいといえばらしいな。でもそうなると、ますます経過から目が離せなくなるな」
「あ! ジョー、見てください!」
「なんだ? 女の人が2人に近づいていく? 黒髪……、
「いや、多分あれは
「Aクラスの? 凱也とマリアさんと知り合いなのかな」
「まぁ、凱也は東倭人ですし。アルクライン家は天明家と並ぶ御三家ですし。知り合いでもおかしくないんじゃないですか?」
すると、マリアが立ち上がり、凱也の腕を掴んでどこかへ行ってしまう。
「まさか、凱也の取り合いか⁉ くっそー、羨ましいな!」
「いやいやいや、ヤバイ魔術オタクの凱也がそんなにモテる理由がわからないですよ」
「凱也が東倭ノ国にいたときの彼女が愛恋さんで、それから東倭を出て、エイギリアイムに引っ越して、マリアさんと出会った、とか! それで、凱也を追って愛恋さんは東倭からはるばるエイギリアイムのノアスクシーに――」
そのとき、ジョーのポケットが震える。
「っと。すまん、通話だ」
「凱也とマリアはしっかり見張っておくから大丈夫です。行ってらっしゃい」
「助かる!」
魔術の発展によって革新的だったのが、情報伝達。
そして誕生したのが、
他にも、
「すまんすまん、待たせちまったな」
「いえ。早く2人を追いましょう」
「よしきた!」
===
「まったく。凱也さんはいつまでもマリアさんに甘いですねぇ」
休日のショッピングモール。とある用事があってやって来た天明愛恋は、昼食を取ろうと立ち寄ったフードコートで、とあるコンビを見つけた。
期待の新星、才賀凱也と、彼の足を引っ張る魔力ゴリラ、マリア・アルクラインである。愛恋にとって、凱也とマリアが2人一緒にいるのはあまり面白くないのだ。
というのも、マリアのような大雑把かつ感情的な人間は、凱也のように知的かつ論理的な人間のストレスになると知っているからである。だんだん慣れてくれば、そこまでストレスにはならないということも知っているが。だとしても、凱也はFクラスなどに埋もれていていい人材ではなく、同時にFからAに上がるのに時間をかけていてはいけないと分かっているのだ。
以前、凱也の戦い方を見た愛恋は、外力展開を使っていたことからも、魔力量がある程度少ないのであろうことは察しが付いていた。同時に、魔力量のせいでFにされたんだとすれば、もうそれは変えることが出来ないため、Fから上がることはできないということも。
ゆえに愛恋は、学長に掛け合った。すると、事情は分からないが、凱也が夏までにFからAにならなくては退学だと知った。
マリア・アルクラインには才能がある。それは、本気になれば、何があっても、いつでもAになれるほどの。そして恐らく、マリアは凱也のことを知らないのだろう、と愛恋は考えた。ここで会ったことも、マリアに連れてこられたのだろう、と。
「
愛恋は拳を握り、親友の笑顔を思い浮かべる。
彼女がノアスクシーに来た理由のひとつが、
ちなみに、マリアもそこに含まれている。しかし、マリアは典型的な何も考えていない天才タイプ。才能ゆえ、何もしなくても要求に応えてくると知っていた。だからこそ、色々と手を回す必要を感じないというだけ。
タイムリミットは夏。
計画のため、自分にできることは全部やる。そのためにどれだけ手を汚すことになったとしても。
すると、愛恋のスマホが震えた。
「もしもし」
相手は、その計画の中でも、特に重要なパイプのひとつ。事務的に、いつも通りのやり取りをかわし、通話を切る。
「さて、と。行きますか」
用事を済ませて、さっさと帰ろう。
===
休日のショッピングモール。人々が目まぐるしく行き交う。その中に、4人の男女。
「チッ。かったりィなァ」
不貞腐れたように吐き捨てる、白髪の女性。露出の多い服から、死人のように青白い肌が、見えている。
「ボス直々の指名です。我慢してください、オルさん」
短い金髪に特徴的な紋様が描かれた目隠しをした女性。
「ッせェな。わかってんだよ、ンなことはよォ」
口の悪い白髪の女性は、舌打ちする。
「こんなお使い、オレが来るまでもねェだろォが。お嬢ひとりで出来んだろ」
見下すような視線を、金髪の女性に向ける。
「ボスは念には念を入れただけです。あなたのように短絡的ではないので」
金髪の女性も、棘のある言い方で返す。
「あ? やるか?」
白髪の女性は足を止め、金髪の女性に掴みかかる。
「死んでも知りませんよ」
金髪の女性は、目隠しに手をかける。
「お前にオレは殺せねェよ」
「殺せますよ」
すると、長い銀髪の男性が、2人を制する。
「おい、オル、フィアナ。その辺にしとけ」
「止めんなよアレイ。このクソアマ前から気に入らねェんだよ」
「私は一向に構いませんが。むしろ部隊長の椅子がひとつ空くのは好都合です」
「はぁ。なんだってボスはコイツらを組ませたがるんだか」
彼ら4人は、とある任務のために、このモールを訪れていた。
「アレイさん。連絡取れました。作戦実行可能です」
ふわふわとした黒髪天然パーマの優男は、銀髪の男性に告げる。
「あれ、いつものですか?」
「ああ。ほらお前ら。もうやめろ。作戦開始するぞ」
睨み合っていた金髪と白髪の女性2人は、仕方なく話に耳を傾ける。
「グー。情報は?」
「はい。現在南端フードコートから中央広場へ移動中。私服で、同じくらいの歳の男性と2人組だそうです」
銀髪の男性は頭の中にモールの全体図を思い浮かべる。自分たちが今いるのも北端フードコート。で、あれば。
「よし。回収はフィアナとグーで行け。俺も途中まではついていく。オルはここでお留守番」
「はァ⁉ ざけんなよおっさん‼ お留守番だァ⁉ ンなもんお嬢かクソ犬にやらせろよ!」
そう言って白髪の女性は黒髪の男性の腹を思いきり蹴る。
「ぐはッ! ありがとうございます!」
黒髪の男性は、痛みと恍惚の混ざり合った表情である。
「ダメだ。この任務はフィアナが一番適任だというのはお前もわかってるだろ?」
「それはわかるけどよォ」
「フィアナの言う通り、お前は戦闘になったときのために参加してるわけだしな。念には念を、ってな」
「であれば、僕がご主人様と待ってましょうか?」
「いや。目標達成後の動きを考えたら、フィアナが転送魔術使うよりお前がいた方が早い」
「そうですか」
黒髪の男性は少し残念そうに頷いた。
「フィアナにこれを渡しておく」
それは、今回の作戦の核となる黒い長方形の箱。
「さて。じゃあぼちぼち初めていこう」
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