第14話 魔術オタクとギリ八百長じゃない試合 Ⅴ
「やっぱおかしいな」
ノアスクシー魔術学園、夏の大魔術祭。その目玉である全クラス対抗
残り3人。メンバーは4人なので、もう決まってはいるのだが、順位を決めるためには最後の1人が残るまで戦わなくてはいけない。
とはいえ残る女子3人、マリアが負ける要素はない……。と、思っていたのだが。
「マリアさん、調子悪いのか?」
キャットは確かに天才だが、今の彼女の実力は、マリアの攻撃をいつまでも捌けるほどではない。実際さっきは接近出来ずにいた。
「全く。美しくないね、彼女は」
しかし、少しずつマリアが押されている。
「魔力切れか?」
「いや。マリアの魔力がこの程度で尽きるはずがない」
明らかにおかしい。
ビームの威力は少しずつ落ちていき、キャットに接近を許している。
「
いつの間にか付き合っているということで話が広がっているようだが、まぁ今それはどうでもいい。
「何も知らない」
とはいえ、心当たりがないわけじゃない。
「なぁリナルド。お前、マリアと何話してたんだ?」
「僕?」
「お前にビームを撃ったとき、アイツ魔法陣を展開してただろ?」
「そうだったかな?」
「してたんだよ。で、途中だったんだ」
ジョーが尋ねる。
「どういうことだ?」
「誘導術式が完成しきる前にビームを撃った。だから、本当なら
「気がはやったんじゃないか?」
「いや。ジョーもリナルドとマリアの戦いを見てただろ? コイツに対して攻撃するのに焦りはないだろ」
「まぁ、確かに」
「ふっ。そう褒めるな」
「「褒めてない」」
くるくると回るリナルドを後目に、試合の様子を眺める。
杖を振り回し、ビームを撃ち続けるマリア。キャットは、受けつつかわしつつ、今度はしっかり距離を詰めている。
「そろそろキャットの間合いだぞ」
「ああ」
キャットの強みは、複数の術式の併用。とはいえ一度に使えるのは2種類までだが。それでも、彼女の発想力を以てすれば充分脅威になる。
ビームをかわし、左手で魔法陣を展開する。
「なんの術式となんの術式だ? あれ」
「固定術式と爆発術式」
左手で触れたものを爆発させられる。地面につけて目くらましか、そのまま
「杖⁉」
「なるほどな」
キャットが手を伸ばした先にあったのはマリアの杖。確かに長いタイプのマリアの杖は、手足の長いキャットからすれば楽に触れるものだろう。
距離を詰めていたキャットは瞬時にマリアから離れる。
そしてすかさず杖を爆破。
マリアは、その爆発の衝撃で杖を離してしまう。
「上手い」
キャットは間髪入れず、身体の柔らかさと瞬発力を活かして、マリアの懐に入る。
不意をつかれたマリアは成す術がない。
キャットが放つ魔力弾がマリアの
流れるように2つ目も狙う。
しかし、その時だった。
バキン、バキン!
背後を取ったリンリンが、キャットの
何が起きたのか分からない、という表情のまま、キャットは敗北。
フィールドの外へ転送されてきた。
「……俺も同じようにリンリンにしてやられたよ」
「なっ、なん……っ。いつの間に……⁉」
「わかるわかる」
「ずっと潜んでたのはわかってたからそれなりに気は張ってたはずなのに……」
キャットは大分驚いていて、納得できないようだった。
「ウソでしょ~⁉ そんなん聞いてない~! 知らな~い! めっちゃ調子よかったからいい気分だったのに~! もう少しでマリアに勝てるってときにぃ~‼」
やる気がなさそうな彼女だが、いくら何でも調子よく戦ってるときに不意打ちかまされたら不満は残るらしい。
「いや。固定術式と爆発術式の併用で杖吹き飛ばしたのは上手いと思ったよ」
「俺もなにが起きてるかわかんなかったけどすげーってことだけはわかったぜ」
「……負けたのに褒められてもうれしくな~い!」
そう言って、キャットは仰向けに寝転がった。
すっかり拗ねている。本当に猫みたいなヤツだ。
「おや。終わるんじゃないかい?」
マリアは残りひとつ。杖はない。
対して不意をついているリンリンには余裕がある。
これは大穴、リンリンの勝ちで終わり――。
そう思ったとき、最後のひとりが転送されてきた。
「ま、負けちゃいました~……。あはは」
恥ずかしそうに笑うのは、マリアではなく。
「「「なんでだよ」」」
思わず、俺とジョー、キャットは思ったことが口をついてしまった。
結局、1年Fクラスの
「杖吹っ飛ばされたときはどうしようかと思ったけどラッキーだったわ!」
そして、試合が終わってフィールドから出てきたマリアの様子はいつもとなんら変わらず。危機的状況下からの大逆転、勝ち誇って笑っていた。
「それにしても
「活き活きとしてらっしゃるようで、なにより」
言い返す言葉もない。少し心配していたのがアホらしくなった。
丁度良く授業時間の終了を告げる鐘の音が鳴った。
なんとなく先生へ眼を向ける。
「ぐ~……」
気持ちよさそうに寝てらっしゃる。
「凱也。先生どうする。起こすか?」
「いや。ほっとこう」
ジョーは心配そうな顔をしていたが、まぁ仮にも教員だ。寮の屋上で寝ていても大丈夫だろう。仕事がどうこうは……、知ったことではないが。
「ま、それもそうか」
生徒もみな先生をそのままにして、各々自分の部屋へと帰って行った。俺もその流れに乗ろうとすると、そうだ、とジョーに肩を掴まれる。
「マリアさんのことだけどな」
「あー。見ろよ、全然平気そうだろ。大丈夫だよ」
するとジョーは首を横に振る。
「ありゃカラ元気かもしれないぞ?」
「そうか?」
「女ってのは何か悩みがあったりすると、普段大人しい人は黙って、普段明るい人はいつも以上に騒がしくなるモンだ」
「なんでそんなことわかんだよ」
「妹がいるからな」
「妹……」
ジョーをそのまま女体化させたような姿を想像して、吹き出す。
「俺はマリアさんのテンションの違いはわかんないけどよ。お前ならわかるだろ?」
「いやぁ……」
マリアに限らず他人のテンションなんて考えたこともないのだが。
「とにかく、今度の休みにデートに行けよ」
めんどくせー。なんでだよ。と、口には出さないが思わず表情に出てしまう。
すると、近くにいたブレンに目をつけたジョーが、ブレンを呼んだ。
「お前からも言ってくれよブレン。実はかくかくしかじかで……」
「ナルホド! だからカイヤは、こんなゴキブリを噛み潰したような表情してたんデスね」
「苦虫な。ゴキブリは食っちゃまずいだろ」
「ブレンもデートに行くべきだって思うだろ?」
「それはそうデスね」
「なんでだよ……」
「だって、もしマリア嬢に何か不調があったとしたら。大魔術祭の
「お、おう。
それを言われると考える。
結果、メンバーは俺とマリア、キャットとリンリンになった。どの形式に出るのかは後日だが、マリアの調子如何で勝率が大きく変わるのは間違いない。
「何事もなければそれでヨシ。一番まずいのは、何かあるのに放置されているコトじゃないデスか?」
「ぐっ。確かに」
「お前ら俺にもわかる言葉で話してくれよ~」
「ワガハイの焼肉1回分をチャラにしてもいいノデ」
「焼肉って言葉だけはわかった! 俺も連れてってくれよ、凱也」
「あ、ワガハイも1回分はちゃんと奢ってもらいマスよ」
「ちゃっかりしてんなぁ」
「まぁ悪いことは言いマセン。カイヤにとってもメリットがないわけじゃないデショウ?」
「……、はぁ。わかった。わかりましたよ」
面倒ではあるが、ブレンの言う通り、一番まずいのは何かあって、それが放置される状態だ。であれば、不安は解消するに越したことはない。
「イェーイ。焼肉!」
「いぇーい! 焼肉ゥ!」
なぜかブレンとジョーはハイタッチして喜んでいた。
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