第11話 魔術オタクとギリ八百長じゃない試合 Ⅱ
俺とマリアの作戦は至ってシンプルである。
とりあえず勝つこと。それだけ。
決して侮るわけではないが、Fクラスの中でマリアや俺に勝つ可能性があるのはキャットひとり。そのキャットも、気まぐれな性格上、彼女に余程やる気がなければ俺たちが負けることはない。
今回は、
全員2つずつの
マリアと戦うときも毎回
「さて。最初は……」
魔術師たちは、フィールドの中に等間隔でランダムに配置されている。
ドガァアアン‼
瓦礫とともに空気を割って、見たことあるビームがうなりを上げながら空に向けて放たれる。
「あっちか」
俺とマリアの考えた作戦は、とりあえず勝つこと。しかし、ただ戦うのでは、イレギュラーで負ける可能性もある。俺は魔力が少ないため、その可能性も低くない。
そこで、マリアと結託して状況を操作することを思いつく。
バトルロイヤル形式であるにも関わらず協力するのは、俺も彼女も面白くないので、やり合うときは本気でやるが、ある程度打ち合わせした動きのもとで行動に出るのだ。
勝てるのなら、多少ルール違反だろうが、構うことはない。
しかし八百長はつまらない。
その辺は俺とマリアの総意だった。
そして、あれだけ派手なビームが見えたら、そこにいるのがマリアだということは誰でもわかる。正方形のフィールドの、東端。
今いるのが南西だから、フィールドの真ん中を突っ切って行けば遠くはない。
「となると、このまま西回りかな」
しかしそれでは今回の作戦の意味はない。
マリアの現在地が割れたことで、考えられる行動パターンは3つ。
そのまま仕掛けに行く。誰かが仕掛けるのを待ち、漁夫の利を狙う。
このどちらかの場合、東側へ移動する可能性が高い。
そしてそれ以外の場合は、一旦静観して、漁夫の利の漁夫の利を狙うだろう。
後出しじゃんけんになりやすい魔術師の戦闘性質上、バトルロイヤルでは如何に完璧なタイミングで漁夫の利を狙うか、の争いになりやすい。
ひとまず西端へたどり着く。探査探知の魔術を使うが何も反応がない。仮にここで潜伏していても東からマリアが来る。ここから移動したんだろう。そして、マリアの方も一発目以降戦闘音は聞こえない。
「ここまでは予想通りだな……」
本気で勝ちを狙うなら、最初に仕掛けに行くのは悪手。まして相手はあの魔力ゴリラ。下手にサシで戦いに行けば返り討ちに合うし、仮に勝てても消耗が激しくなることは目に見えている。
「と、なれば。次にマリアが取る行動は」
ドゴオオオオオオンッ‼
爆発音と、土煙。毎回戦う中で身につけた、マリアの新たな魔術。ビームではなく、着弾と同時に大爆発を引き起こす光弾を放つ魔術。それをドカドカと連続で撃って、周囲の建物を破壊。ゆっくりと西に向かいながら、辺りを更地にしていく。
マリアの様子を見に近くに来ていた場合は、この爆発であぶりだされる。近くにいなくても、いずれフィールド全部を更地にされてしまう。
すると、爆発音がぴたりと止んだ。やがて戦闘音が聞こえてくる。
「来たか」
誰かがマリアに戦闘を仕掛けた。キャットとリンリンが、自分から仕掛けるとは考えにくい。恐らく、ジョーかリナルドのどちらか。
膠着状態が解消されれば、他のヤツも動き出す。
一瞬、遠くの建物を屋根伝いに東へ向かう影が見えた。
「キャットか」
しなやかな動きと、適切な消音魔術、高速機動魔術を使って移動している。まさに猫そのものである。間違いなくキャットだ。面倒くさがりな性格であるということは、常に安全圏にいようとするということだろう。
北東、東端、南東、北西、西端、南西の6地点。西端から北へ逃げていたキャットが、更に移動をしたのだろう。両端はマリアとキャットだったと見てよさそうだ。
ここまで各人の動きも概ね予想通り。
となると、現状全く動きが読めないのはリンリンだけ。
東へ向かったキャットと、北東にいる誰かが遭遇すれば、俺にとって理想的な展開。
「俺もキャットを追って北周りで東へ行くのが一番か……」
戦闘になれば、良し。終わったところを狙っていけばいいだけ。
戦闘にならなかったとしても、マリアの戦闘地点に近づけば、相手が誰かわかる。そうすれば状況がもっと見通せるようになる、というわけだ。
北西の地点でも探査探知の魔術を使う。反応はない。
「東に移動したのか?」
一番怖いのは、裏を取られて挟まれること。できるだけ確実にいきたい。
「東へ行くよりも先に、マリアと誰が戦っているのかを確認する方が先決かもな」
進路変更だ。南東方面へ向かい、フィールドのほぼ中央で戦っているマリアを見に行く。魔力に余裕などないから、普通に走っていくしかない。
これで魔力にもう少し余裕があれば、移動しながら探査探知したり、逆に姿を消したり出来るのだが。
ギュッと力を込めて、背中のアザのあたりに触れる。
「ま、ないものを嘆いてもしゃあないか」
魔術師と対等以上に戦うために、本来魔術で出来ることを、自分の身体能力のみで補う。普通の魔術師とは逆のプロセスを要するが、俺はそのためにひたすらに身体を鍛えてきたのだ。
手に握る黒い杖を見つめる。
本番へ向けて、魔力以外に必要なものはほぼすべてそろっている。
「あとは弱点をどうにかしないとだな」
現状問題はないが、いつ何があるかわからない。懸念材料を排除するに越したことはないだろう。
「俺が人に攻撃できないってマリアが知ったらなんて言うか」
怒るかなぁ。怒るだろうなぁ……。
それってつまり今まで手加減してたってことじゃない! って。
そうじゃなくても、無駄な心配をさせないために、俺はアイツにバレないように弱点を克服しなくてはならない。
頬を勢いよく叩いて、気合を入れ直す。
「行くか」
俺はその場をあとにして、フィールドの中央へと向かった。
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