第7話 魔術オタクと魔力ゴリラ Ⅵ
夕陽の差し込む保健室。金色の髪ひとつひとつが陽に煌めく。
そんな彼女、マリア・アルクラインは俺を真っすぐに見つめ、同じくらい真っすぐに指さして高らかに宣言する。
「
「えっ。なんで」
「なんでって……」
その返答が予想外だったのか、マリアは拍子抜けた表情になった。
「今回の
「手なんて抜いてないよ」
「ウソ。だって、幻影術式を使うほどの魔力があるのに、攻撃術式使ってないじゃない」
「あぁ。あれは
「マナを使ったってこと? それこそウソでしょ。だって、外力展開の術式も幻影術式も、超高難度の術よ? それを屋根から転げ落ちて、私がその瓦礫を撃ち抜くまでのあの時間で展開するなんて……」
彼女が言い切るより先に、まるっきり同じ術式を書いてみせる。そして、瞬く間に俺の幻影が現れた。
マリアは口を大きく開けて目をひん剥いていた。
「と、まぁこんな風に。俺はまだ幻影を自動で動かすところまでしか術式圧縮が出来てないんだけど」
術式は圧縮することができる。きちんと圧縮することで、素早く、難しい術式を使えるのだ。しかしそれは同時に、きちんとした圧縮を行わないと、使用する魔力が増えることを表す。俺の場合、元々の魔力量が少ないせいで、圧縮効率の悪い方法を使うと、逆に損をする。
「俺はマジで魔力が少ないんだよね。だから、シンプルな移動術式でも極限まで無駄を省かなくちゃならない。難しい術式を使うには圧縮が必須だけど、効率が悪い圧縮術式だと展開すら出来ないから――」
「才賀凱也!」
「うわぁ⁉」
いきなり怒鳴られた。
「私と戦いなさい! 今すぐ!」
「無理だよ、絶対。今この術式使ったせいでもうほとんど魔力残ってないし」
魔力総量が少ないことの利点は、魔力の全回復が早いこと。だがまぁ、術式を1つ使えばまたすぐ底を尽きる。結局その繰り返し。
「じゃあ明日!」
「なんでだよ」
「アンタ、自分が戦いたいからって私を付き合わせたじゃない」
「ぐっ」
「それに、あろうことか最後にアンタは――!」
「なんかしたっけ」
すると、彼女は顔を真っ赤にして指さしついでに殴り掛かって来た。
「うわっあぶな⁉」
難なくかわす。
「私のこと! 抱きしめたでしょ!」
「あ……? あぁ、あれはまぁ、仕方ないだろ」
「もっとこう、やり方はあったはずよ!」
うーん。突き飛ばしたら突き飛ばしたで文句言われそうな感じはするが。
「とにかく! 公衆の面前であんな辱めを受けさせておいて! そのうえで私を騙して! 自分の趣味に私を付き合わせた! これでも戦う理由にならない?」
ずい、と近づけられたその表情は、何を言っても頑として聞き入れてくれなさそうな頑固さを感じた。
正直、同じ相手とそう何回も戦うんじゃお互いに手の内が知れて面白くない。
そこでふと、あることを思いついた。
「OK、わかった。その勝負受ける」
「よし、じゃあ早速明日――」
「その代わり!」
「……なによ」
「俺の
この勝負をすることを条件に、彼女が俺のモノになってくれれば、計画をスムーズに進められる。であれば、面白くない勝負をすることにもそれ相応のメリットが――。
「って、どうした。真っ赤になって震えて」
「~~~~‼」
何も答えることはなく、彼女は杖を手元に出現させる。
そして、その杖を構えた。
「……おい、お前。その杖そのまま振り下ろしたらまさか……!」
嫌な予感がする。杖を構えたままじりじりと近寄る彼女から、逆にじりじり遠ざかる。
「落ち着けって。なんでそんな怒ってんだよ、一体俺が何したって――」
「才賀凱也! 許すまじ‼」
マリアは思いきり杖を振り下ろす。
とてつもない轟音が学園中に響き渡る。
それから、マリアと会うたびに睨まれ、隙あらばビームを撃たれ。落ち着いて話が出来る機会など、永遠に訪れないのであった。
===
マリアとの出会い。懐古しても、なぜビームの標的になったのか分からないが。しかしそのビームを受けるたびに、やはり彼女の力が欲しいと強く思うようになっていった。
そのときと同じく場所、保健室に向かった。
「あの日も確かここでふて寝してたよな」
戦ったあと、解答欄ひとつずつずらして書いていたという事実を知ったのだろう。加えて、戦いで自分がミスをして、敵に助けられた。そりゃあふて寝もしたくなるだろう。
保健室の扉を開く。
偶然にも、あの日のように夕陽が差し込む時間帯。やはり保健室には誰もいない。しかし、布団に人が潜り込んでいるのは、見てわかった。
「マリア」
声に反応して、布団が動く。
「やっぱりここか」
適当に椅子に座る。
「なんの用よ。このゲスメガネ」
「そこまで言われる筋合いはないと思うんだが……」
布団がばーんと撥ね飛ぶ。
「あるに決まってんでしょ!」
マリアがベッドの上で仁王立ちしていた。
「何よ、俺のモノになれって! プロポーズじゃない!」
「あー」
そう言うことか。
すかさず杖を構えたマリアを制止する。
「まてまてまてまてまて。それは誤解だ」
「誤解~? ふーん、まぁいいわ。ただ納得の行く理由じゃなかったら吹っ飛ばすから」
構えた杖を下ろそうとはしない。
「俺はAクラスにならなきゃいけないんだ。そのために、お前の力が必要だ」
「Aクラスに、ね。なら、なんでアンタがここに来て、それでFクラススタートだったのか、その理由を教えてよ。内容次第では、考えてやってもいいわ」
そう言われ、俺がなぜこの学園へ来て、Fクラスなのかの顛末を話す。
「――っつーわけで。俺は夏までにAにならなくちゃならないんだけど」
すると、マリアは杖を下ろした代わりにかつてないほど勝ち誇った表情をしていた。
「なんだよ」
「いいこと聞いたわ。アンタ、裏口入学なのね」
「まぁ、そうだよ」
「いいわ! その話乗ってあげる。私もAクラスに上がらなくちゃいけないし、アンタの力は本物だしね」
「助かる」
「ただし! 私と勝負しなさい!」
「それは分からん。なんでだ」
「あのときの借りを返すためよ。言っておくけど拒否権はないわ。断ったら裏口入学だということをばらす!」
「脅しかよ」
「ウソついて喧嘩吹っ掛けてきた人に言われたくないわね」
マリア・アルクラインという戦力と、彼女と戦う俺の労力を天秤に賭けたら、圧倒的に彼女の力の方が勝る。
溜息混じりに、返答する。
「わかったよ」
「よし」
「ただ、昼飯のときはやめてくれ。落ち着いて食べたいんだ」
「でも時間の無駄よ」
「んなわけねーだろ。飯は食えるときにちゃんと食え」
「じゃあ、いっそ一緒に食べるのはどう? そうすれば食べ終わってすぐ戦えるじゃない?」
「食ってすぐかよ……」
マリアの瞳は真っすぐだった。
「お前、人に戦闘狂とか言うくせに自分も大概だな」
「そう? そんなことないと思うけど」
「わーった、わかったよ」
「うん! じゃーこれで契約成立ね!」
そう言って、マリアは右手を差し出した。
「今日から私たちは、Aクラス同盟よ!」
あまりにもまんまなネーミングだ。だがまぁ、彼女らしいといえば、らしいのかもしれない。
「よろしく」
俺はその手を取った。
「あ、でも私を抱きしめたことは許さないから」
「えー?」
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