第4話 魔術オタクと魔力ゴリラ Ⅲ
校内を走りながら、マリアと出会った入学式の日を思い出す。
「あの時、アイツどうしたっけ……」
入学式の日、ひょんなことからマリアと戦うことになる。結果は俺の勝ち。しかし、どうにもその勝ち方がダメだった。それからマリアに目を付けられ、ことあるごとに再戦しろと言われるハメになる。
「甘い、ね……」
入学式のあの日から、全てはAクラス昇格のため。
===
無事に裏口入学に成功し、何食わぬ顔でFクラスの新入生に混じっていた。入学式には、国中の著名な魔術師が来賓として参加していた。加えて、新入生の保護者としても著名な魔術師が沢山いる。そんな状況に、内心テンションが上がりまくっていた。
著名な魔術師に囲まれていること。目の前にいる同級生たちというまだ見ぬ魔術師との出会い。今壇上で話している生徒会長も、学長も、教員も、みな魔術師。これまでまともに学校に行ってこなかった俺にとって、これだけ沢山の魔術師に囲まれることは初めてだった。
早く戦いたい。未知の魔術に触れたい。
口元がにやける。肌を内側から撫でるように、ゾクゾクとした感覚がやってくる。
「それにしても、
学長は、3年生のAクラスだと言っていた。名前は確か『
「――以上。在校生代表、生徒会長 フューネス・
「いたーッ‼」
思わず指さして声を上げてしまった。
美しい銀髪の女性。その凛とした佇まいに、確かに人の上に立っていて然るべきであると本能的に理解させられる。隙のないその様子を見るだけでも、楽しみになってくる。
「あれが
肩書が示す約束された強さ。併せて名前を己に刻み込む。
世界一へ、最初の障害。裏口入学してまであの人と戦うことを選んだ。その意味を今一度思い返した。
そして、ピンバッジを強く握りしめた。
入学式が終わり、今日はもう解散になる。ノアスクシーは全寮制であり、クラスごとに寮が違う。生徒の多くは、そのまま自分の寮へと向かっているようだった。
しかし俺はその人の流れに逆らい、本校舎に留まる。
この学校へ来る目的は、もちろん「人」でもあるが、それ以外にも「設備」もある。いきなり同級生や上級生に喧嘩を吹っ掛けるわけにはいかないが、校内探検する分には文句言われる筋合いはないだろう。
上がったテンションの熱に浮かされた、軽い足取りで校内を見て回る。六角形のタワーであるノアスクシー本校舎を上から下へと下っていく。
大きな講義室。魔術研究室。道具を作る工房。錬金術や陰陽術、古代の魔術の資料を展示している部屋もあった。どこもかしこも、これからの学校生活を楽しみにさせる場所ばかり。時折すれ違う生徒たちも、いずれ戦うやもしれぬと考えるとわくわくする。
そしてそんな楽しいツアーのラストは、世界的にも有名な『ノアスクシーの大図書館』。本校舎の地下にあり、魔術で空間を拡張したその部屋は、一生かかってもすべての本を読むことはできないと言われるほど広く、大量の本がある。
学校には行っていない代わりに、幼いころからさまざまな本を読んで魔術や、それ以外のことを学んできた俺にとって、古今東西、図書館は原点にして頂点と言える特別な場所だった。最高峰の魔術学校の、大図書館。思わず駆けて向かう。
「ふざけないで‼」
すると、何やら揉めている声が聞こえてきた。廊下の角から様子を窺ってみると、Aクラス寮の入り口のところで金髪の少女が怒鳴っていた。
「なんで私がAクラスじゃないの⁉」
可愛らしい顔立ちの彼女は、その魅力が台無しになるほどに顔を歪めて怒っている。
Aクラス寮へ入ろうとする彼女の前には、男性職員が、困った顔をして立っていた。
「ですから、入学時にお伝えしたように、試験の結果で決定されたクラス分けですので……」
「そんなの見てないわよ! でも魔力分野で私に敵うやつなんでそういない。それともなに? 私以上に魔術が出来るやつが今年はAからEクラスが埋まるほどいたの⁉ このアルクライン家の娘である私以上のやつが!」
アルクライン家の娘。その言葉に俺は内なる好奇心をたぎらせる。
「い、いえ。魔術分野においてマリア・アルクラインさんは主席合格です」
主席。やけに態度のデカいやつだが、その態度を取るだけの実力は持っているらしい。
「でしょう⁉ ならなんで私がFなのよ! 納得の行く理由を聞かせてもらおうじゃない!」
「そ、それは……」
男性職員は参った表情だった。確かにあれだけ高圧的にまくしたてられ、あまつさえ誰もが知る国一番の名家の一人娘とあれば、言葉を選ぶ必要もあるだろう。実に気の毒である。とりあえず彼を助けようと俺が動くより先に、どこからともなく声が聞こえた。
「筆記0点だから、ですよ」
声は、Aクラスの寮から出てきた女子生徒のものだった。
「誰よ、アンタ」
「私は
少女は朗らかに微笑む。
「天明……⁉」
思わず声が漏れる。
東倭人がエイギリアイムの学校にいる時点である程度訳アリだろうが、それがあの天明家の人間であるとなれば、話がより複雑になる。
世界3大名家――、御三家、とも呼ばれる3つの家。
エイギリアイム帝国のアルクライン家。ロウリアイン王国のロウリアイン家。そして
「天明? 天明の娘がこんなとこにいるのよ」
というわけでこういう反応になるのは当然なのだ。
しかし、天明さんは朗らかな表情を崩さぬまま、「まぁそんなことは今どうでもいいでしょう」と言って返す。
「魔力分野主席のあなたがなぜFクラスなのか。至極簡単ですよ。ねぇ?」
話を振られた男性職員は、気まずそうに浅く頷く。
「筆記0点? そんなはずがないでしょう? 全問正解だったわよ!」
なぜ彼女はあんなに自信満々に答えられるんだろうか。入試結果は見ていないと言っていたのに。
「まぁそう言うだけならいいんですけれど。こうしてAクラス寮の前で騒がれると……。何事かと思って気になって出てきてみれば、あなたが罪のない職員さんを困らせていたので。人に迷惑をかけてはいけませんよ?」
「だから! なんで私がAクラスじゃないのかわからないって言ってんの!」
これはキリのないやりとりになりそうだった。
しかし逆に、これは好機。
「アルクラインの娘さんは聞き分けがないんですね」
「はぁ?」
やはり。彼女は煽れば煽った分返してくるタイプ。
「俺は君がなぜ筆記0点になったのか、その理由を知ってる」
アルクラインに、天明。名家ばかりのこの状況下、高揚していたこの気持ちは誰にも止められない。
「なんですって?」
もう我慢ならん。さっきから戦いたくてうずうずしてたんだ。
「それを知りたきゃ、俺に勝つことだ」
「へぇ。誰だか知らないけど、Fクラスのくせにいい度胸じゃない」
雑な挑発、1ミリも根拠のない発言。それでも乗ってくる。悪い意味で打てば響く相手で好都合。
「アルクライン家の一人娘の力、みせてもらうぜ」
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