第2話 魔力オタクと裏口入学
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ノアスクシー魔術学園。
世界中の国々の中でも、特に進んだ魔術先進国であるエイギリアイム帝国の東方。ノアスクシー山に聳える、世界最高峰の魔術学校である。とりわけ魔術師の排出においては他の追随を許さない。
また、国内にいる魔術師の中で選ばれし22人が所属する
俺の母親、
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「頼む! 母さんのコネで俺をノアスクシーに入学させてくれ!」
受験当日の夜。仕事から帰宅する母を土下座の姿勢でお迎えしたときの第一声だ。
「はァ?」
頓狂さと怒りが入り混じったような返答は想定内だった。土下座の姿勢のまま、事情を説明する。
「今日ノアスクシーに向かう途中、バイヒェルの町のあたりで、万引きにあったおばあちゃんがいて。その犯人追っかけてたら受験の受付時間を過ぎてて……」
母からの返答がない。土下座の姿勢から、土下寝の姿勢にフォームチェンジして話を続ける。
「俺、絶対今年ノアスクシーに入学したいんだ! 青少年魔術師の中で過去最強って言われてる
件の生徒は、二つ上。今年入学しなくては、来年はもう卒業してしまう。
「それに、最強の魔術師ニルレーンも、いついなくなるかわからないっていうし……。今のノアスクシーは設立以来最高と言われてる。そんな場所で俺も学びたいんだ!」
母の表情は一切うかがい知れないが、その後も畳みかけるようにノアスクシー入学への熱い思いを語り続けた。
結果、想像の50倍くらいこっぴどく叱られた代わりに、翌日学長との面談の約束を取り付けてくれた。
そして翌日。俺、母親、学長、ニルレーンという四者面談に臨むことになった。
「久しぶりだね。九紫君。活躍は我々の耳にも届いているよ」
学長、と書かれた立て札のある椅子に座ったカブトムシが喋っていた。
「学長もニルレーンも、相変わらず元気そうで何よりだねェ」
母はいつも、この学校での出来事を楽しそうに話す。そんな母の姿と話が、この学園に憧れを持つきっかけだったりする。そして今日は特に、なんなら俺よりもわくわくしていた。
「ニルレーンは相変わらずのらりくらりと適当な授業をしているのかィ?」
からからと楽しそうに笑う人。男性とも、女性ともいえるような中性的な顔立ち。声も、背格好も、放つオーラも、いろいろと人間離れして中性的だった。
「適当だなんて酷いなぁ、九紫クン。ボクはいつでも真剣さ」
「よく言うねェ。出力調節の実践で外壁吹き飛ばした奴がさァ」
その話は聞いたことがある。魔力の出力を調節する訓練で、最大威力の説明をしていたニルレーンが、加減を忘れて学園を覆う6枚の外壁の内1枚を木っ端みじんにした、と。
「あのときは大変だった。いくら防御術式があるとはいえ、ニルレーンほどの魔術師のフルパワーなど最初から想定していないのだからね」
「いやぁ。その節はご迷惑をおかけしました」
母が卒業して、30年くらいか。それだけ時間が経っても、色あせることのない思い出。それが、この学園にはあるんだろう。
「さて。昔話はこのくらいにして、本題に入ろうか。
カブトムシ学長がこちらを向く。
「単刀直入に聞こう。なぜ君はそうまでしてこの学園に入りたいんだい?」
「世界一の魔術師になるためです」
即答した。
「昨日母からお聞きしているかもしれませんが、俺は魔力量が人と比べて極端に少ないです。なので、一人で出来ることはあまり多くない。でも、マナを使った魔術なら、誰にも負けない自信があります。それに、俺の知識があれば、どんな相手の術式でも、術式反射や術式解除ができます」
すると、ニルレーンが微笑んで、指を鳴らした。すると、俺の身体を取り囲むように、多種多様な魔術式が空中に現れる。
「これは――、時限爆発術式……、それも全部連動してる」
「フム。一目見てそれが分かるとは、確かに普通の生徒よりもずっと知識があるみたいだねぇ。同じころの九紫クンよりも優秀じゃないかなぁ」
「ニルレーン、お前はいつも一言余計だねェ」
早く、正確に解かなければならない。一つ間違えれば全部爆発するし、制限時間を超えればその瞬間に爆発する。
「九紫クン、手伝わないのかい?」
ニルレーンの問いに、母は笑ってこう返す。
「うちの息子をなめてもらっちゃ困るねェ。このくらい、この子が小さい時から死ぬほど解かせてたさ」
母がそう言い切ると同時、俺は術式を解除して見せた。
「ふう、終わりました。魔法陣、筆記陣、多重陣、変則陣……。このくらいなら、全然大丈夫です」
「ほう。なるほど、確かに凱也君、君の知識量は通常とは違うらしい。では、話の続きを聞かせてもらおうか?」
「俺は、生まれてからずっと、母と一緒に世界各地を旅してきました」
「九紫君が
「その旅に、俺もずっと一緒にいたんです。なので、少ない魔力でも、どんな土地のマナでも、問題なく戦えます。……少なくとも、自分の命を守るくらいなら出来る」
「ボクの連鎖時限爆発術式を即座に見抜いて解除できたのはその経験があるからか」
「はい。禁術や禁呪にも触れました。そして、そんなさまざまな魔術を同じくらい、世界各地の恵まれない人々を見て来ました。才能はあるのに、環境が整っていない人や、逆に才能を悪用されて苦しんで死んでいった人……。色々な角度から、世界を見ました」
魔法によって高度に発達した文明、文化。確かにその恩恵は大きい。しかし、それを享受できているのは、世界規模で見れば本当にごく少数。自分が如何に恵まれているのか、一歩町を歩くたびに実感する生活。
「俺は、世界一の魔術師に……。
「そのためなら使えるものは何でも使います。今日ここにいるのも、その一端です。俺は、ノアスクシーの
「……なるほど。九紫君が昨日言っていたことが分かったよ」
「え?」
「でしょう? 私の教育が悪かったんでしょうけどねェ。こればっかりはこの学校に放り込んだ方が早いだろうって思ってねェ」
「面白い。ボクは気に入ったよ、才賀凱也クン」
カブトムシ学長が息を吐いて、こう言った。
「わかった。才賀凱也君。君の本校への入学を認めよう」
身体の内から、大火が猛る感覚が湧き上がる。
「ありがとうございます!」
「元気がいいのは結構だが、少々条件を出させてもらう」
「条件?」
「君は、
「はい」
「彼女は3年のAクラスだ。彼女と
そういうと、カブトムシ学長は虫の前脚で指を鳴らした。
「えっ? 今どうやって?」
すると、俺の目の前に輝くピンバッジが現れた。
「最低レベル、Fクラスからスタートしてもらう」
「Fクラス……」
「加えて。君には、夏までにAランクになってもらおう。それが出来なければ、退学だ」
その結論に異を唱える者は一人もいなかった。もちろん、俺を含めて。
「面白い。やってやりますよ」
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