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 広大での研究員の任期は2年。その間に僕は研究業績も上げつつ、任期後の新たな進路も探さなければならない。場合によっては、国外も視野に入れないと。


 あっという間に2年が過ぎた。それなりに研究も進んだが、応募アプライした国内のポストは全滅だった。しかし、ダメもとでアプライしたCERN(欧州原子核研究機構)のポスドクが、なんと受かってしまったのだ。これであと3年、何とか飯が食える。


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 CERNはスイスとフランスにまたがる、巨大な研究所だ。世界最高レベルのエネルギーを誇る粒子加速器LHCを備え、また、全く分野は違うが、今やインターネットとほぼ同じ意味を持つWWW(ワールドワイドウェブ)が生まれた場所でもある。


 それにしても、ずいぶん遠くまでやってきたものだ。あの日、京都のアパートで彼女と背中合わせになって、僕はそのまま西へ西へと進んでいるような気がする。


 時々、彼女のことを思い出す。あれから全く連絡も取っていない。どうしているだろうか。もういい人を見つけて、結婚しているかもしれない。僕にも何度か出会いはあったが、いずれも長続きすることなく終わってしまった。結婚したい、と思っても、やはり常勤の職についてない、というのはどこの国でもかなりのハンデになってしまうようだ。


 そうこうしているうちに、また3年の任期が過ぎようとしていた。日本のポストにアプライしても、全然採用されない。


 ところが。


 思わぬところから救いの手が差し伸べられた。国際会議で知り合ったブラジルのサンパウロ大学の教授から、テニュア・トラック(任期付きだが条件を満たせば専任スタッフとして採用される制度)を受けてみないか、と言われたのだ。そして僕は応募し、見事採用となった。


 もし常勤テニュアになれなかったとしても、これでまた3年は食い扶持ができた。十分研究もできる。それだけで僕は満足だった。


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