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 さて。


 ミラーワールドでは並のスーパーヒーローなら裸足で逃げ出すほどの能力を持っている俺だが、いざヒーローになろうと思ってもなかなかできるものじゃない。ヒーローとして戦う相手――悪役ヴィランがいないのだ。鋼の男で言うところのレッ○ス・ル○サーとか、コウモリ男で言うところの○ョーカーとか……


 異世界と言ってもミラーワールドは左右以外は元の世界と全く変わらないので、悪の大魔王とかドラゴンとかがいたりするわけじゃない。だったら現実に存在する、テロ組織や仮想敵国と戦うか?


 いや、そんなこと勝手にできるわけがない。やったら間違いなく国際問題になる。しかもミラーワールドと元の世界は完全にシンクロしているので、俺の行動は俺のミラーが元の世界で行うことになる。だから元の世界に戻っても状況は全く同じだ。あまりめちゃくちゃなこともできない。


 だとしたら、その辺の犯罪者を捕らえるとか、その程度のことしかできないのか? だけど、そうそうそんな犯罪現場に出くわすこともない。この国の治安の良さは異常だ。いや、それはとても素晴らしいことだとは思うのだが。


 しょうがないので、俺はこの能力を他の方面に何か使えないか、と考えた。その結果、俺はどうやら空を飛べそうだ、ということに気づいたのだ。


 やり方は簡単。金属の円筒を背負って、その円筒の中で対消滅による爆発を起こせばいい。もちろん円筒がどちらも開いていたら推進力は生まれないが、爆発と同時にその圧力で吸気口のバルブを閉じてしまえばいい。パルスジェットエンジンというヤツだ。俺は早速作って試運転し、自分の体が垂直に飛び上がることを確認した。爆発の調整は結構微妙だったが、慣れてしまえば何の問題もない。後はウイングスーツを着れば、常にパルスジェットを吹かす必要もなく水平飛行が可能だ。


 こうして俺は、ミラーワールドで自由に空を飛ぶ能力も手に入れた。いよいよスーパーヒーローぽくなってきたのだが……


 変に注目を浴びるのも嫌だったので、俺は人目に付かないところでしか飛んだことがない。まして市街地上空を飛び回ってパトロールなんて、できるわけがない。そもそもそれは法律的にも微妙なところだろう。


 というわけで、空を飛べたとしても、結局俺はヒーローにはなれない……と思っていたのだが。


 その状況を一変させる、大事件が起きてしまったのだった。


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