悪夢

『ねぇ、さっき線路脇で子供が回送車の下敷きになったらしいわよ。』

『えぇ?だってあそこは立ち入り禁止のはずじゃ・・・・』

8年前の夏の夜。

熱にうかされながら、僕は母さんと近所のおばさんとの会話をぼんやりと聞いていた。

(子供?・・・・まさかっ!)

ふいに胸騒ぎがして、僕はありったけの力で飛び起きた。

あの日も僕は、君と約束をしていたんだ。

夏休みの市民プールで、クラスメートから聞いた噂。

あの場所が、工事で掘り返されるって。


『どうしよう?あれ、違う場所に埋め直さなきゃ。』

『うん。じゃあ、今夜こっそり掘りに行こう。』


約束したのに僕は、家に帰るなり熱を出して寝込んでしまった。

(違うよね・・・・ねぇ、違うよねっ?)

朦朧とする頭で急いで洋服に着替え、母さんがいる玄関を避けて勝手口から表へ出る。

(ねぇ・・・・君じゃ、ないよね・・・・)

心臓が、痛いくらいにドキドキしていた。

冷たい汗が背中を伝い、全身が震える。

(絶対、君じゃないよね・・・・)

右手に続く長い塀が終われば、あの場所はすぐに目に入る。

塀が終わるまで、あと少し。

でも僕は、塀の終わりに着く前に、足が止まってしまったんだ。

泣いている君のお母さんの姿が見えたから。

君は、地面に寝かされて、顔に白い布を掛けられていて。

体に掛けられていた布は、血で赤く染まっていた。


(うそ、だ・・・・)


僕の周りの音が次第に遠のいて、何も聞こえなくなる。

体から力が抜けて、膝に痛みが走った。

重たい頭を支えきれずに、そのままコンクリートの上に額を付ける。

(うそだ・・・・うそだよ。ねぇ、うそなんだよね?)

悪い夢を見ているのだと思いたかった。

それでも、泣いている君のお母さんの姿は夢なんかじゃなくて。

『ちょっと・・・・ちょっとボク、大丈夫?ボク、しっかりしなさい!』

だけどやっぱり夢だと思いたくて。

次に目が覚めたら、きっと君はいつものようにお見舞いに来てくれていて、『大丈夫?』なんて言ってくれるんだって思いたくて。

『ボクっ!まぁ、すごい熱・・・・ちょっと、だれかっ!』

親切なおばさんに抱きかかえられながら、僕はそのまま目をつぶってしまったんだ。

 

目が覚めても、そこに君の姿は無かった。

母さんに、君が死んだ事を聞かされたのは、翌々日の事だった。

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