第46話

あたしは震える手で手紙を受け取り、ゆっくりと開いていく。



なにが書かれているのか少し怖かった。



《いつかまた珠に会いたい。その時は本当の友達として》



恵一が保管してくれていた手紙には、そう書かれていた。



とても短くて、でもホッとする言葉。



恵里果の丸っこくて可愛い文字で、見間違いようがなかった。



それを何度も繰り返し読み直した後、あたしは滲んで来た涙をぬぐい手紙をギュッと抱きしめた。



「恵一のお父さんは?」



「無事に釈放されたよ」



「そう……」



あたしはホッとして息を吐きだした。



恵一のお父さんはなにも悪くなかったから、それが気がかりだったのだ。



「でも、吉之は……」



恵一はそこまで言い、口を閉じた。



「吉之は、どうなったの?」



吉之だって、今回の事件では被害者と言ってもいい立場だった。



ただ、自分の父親が暴走してしまっただけなんだから。



「キックボクシングも学校もやめた」



「え……なんで!?」



学校の居心地が悪かったんだろうか?



それなら、あたしたちが一緒にいてあげられるのに!



「父親が逮捕されたから、吉之が働かないといけなくなったんだ」



「そうなんだ……」



言いながら、全身から力が抜けていく感覚があった。



学校に来辛いのならあたしたちの力でなんとかなる。



だけど、家の事情となるとあたしたちではどうにもならないことだった。



「他のメンバーはいつも通り学校に来てるよ。だから珠も早く退院して戻ってこい」



「うん……」



学校へ戻っても、もう恵里果に会う事はできない。



それが、悲しみとなって押し寄せてきそうになる。



起きてしまったことはもうどうしようもない。



時間を戻して事故が起こらなかったことにするなんて、架空の世界の出来事だ。



あたしも恵一も、起こってしまった事を抱えて生きていくしかないんだ。



「そんなに悲しそうな顔するなよ」



恵一がそっと近づいてあたしの頬にキスをした。



一瞬、なにが起こったのかわからなかった。



暖かくて柔らかな感触が頬にあって、すぐに恵一は離れて行ってしまったから。



キョトンとした表情で恵一を見ていると、その頬が徐々に赤くなっていった。



「あんまり見るなよ」



照れてそっぽを向く恵一に、今のは夢じゃないんだと理解した。



理解した瞬間、自分の顔がカッと熱くなるのを感じた。



互いに照れて真っ赤になって、言葉を失った時、ドアが開いてお母さんが戻って来た。



「あら恵一君こんにちは。どうしたの2人とも顔が真っ赤よ? 熱でもあるんじゃないの?」



お母さんは首を傾げて、そう言ったのだった。





END

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夢の中の世界 西羽咲 花月 @katsuki03

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